表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/91

79

 藁男がそっと針を抜いた瞬間――

 カクンと人形の身体が震え、次の瞬間、か細い声がした。


 人形「……ありがとう。

 針を抜いてくださった方の、お名前をお聞かせくださいな……」


 藁男は飛び上がらんばかりに驚き、思わず後ずさる。


 藁男「な、なんだよ、お前……!

 お前は誰に創られたんだ?」


 ゆっくりと首だけをこちらに向ける不気味な布人形。

 目はつぶらなのに、奥の奥まで見透かされているようで、玉藻たちも息を呑んだ。


 人形「私を作ったのは……ハイチの、とても有名な魔術師よ。

 精霊の息を吹き込むことで、人に寄り添い、守り、そして……時に呪うこともできる者。」


 藁男はさらに眉をひそめ、声を潜める。


 藁男「じゃあ……岸本玲奈が作ったんじゃないのか?」


 人形「ふふ……違うわよ。

 あの女がしたのは――“針を刺した”だけ。

 私の本来の力の意味も、知らずにね。」


 その言葉に、場の空気が一瞬で凍りついた。

 玉藻が、小さくかすれた声で呟く。

「……つまり、この人形は“本物”の呪物……」


 人形は、針を抜かれたことでようやく落ち着いたのか、喋り出した。


 人形「本物の呪物――といってもね、誤解しないでほしいの。

 私は“身に着けていると幸運を運んでくれる”タイプの人形なのよ。呪いの人形なんて、ほんとうに失礼しちゃうわ。」


 玉藻、サクラ、志保、隼人、藁男、ヒイラギの視線が一斉に人形に集まった。


 人形「見て、この色。私は“ピンク”。

 ピンクの私はね、“恋愛・結婚”の願い事を叶えるのよ。

 本来の持ち主に幸せを運ぶのが私の役目なの。」


 サクラがぽつりと呟く。


 サクラ「えっ……恋愛成就の……人形っすか?」


 人形「そうよ。だから針なんて刺されたら、そりゃあ怒るわよ?

 でも、ご安心なさって。針を抜いてくれたあなた方には、危害は加えないわ。」


 藁男は頭を掻きながら、人形をまじまじと見た。


 藁男「呪いどころか……“幸せの人形”だってのか?

 じゃあ、岸本玲奈がしたのって……」


 人形「ただの“無知な嫌がらせ”。

 私の力なんてまったく理解してなかったわ。

 おかげで私は長いこと気分が悪かったのよ。」


 玉藻は小さく息をつき、眉を下げた。


 玉藻「……なるほど。呪物とはいえ、悪い存在じゃなさそうね。

 それにしても、恋愛運の……ピンクの人形……」


 サクラは、どこか複雑そうな顔で人形を見つめた。


 サクラ「じゃあ……この人形が来たのって……

 隼人さんの“恋愛運”に関係してるってことっすか?」


 人形は意味深に微笑んだ。


 人形「さて、どうかしら。

 でも“必要な人のもとへ行く”のが、私たちの役目なのよ。」


 ピンクの人形は、ちょこんと座り直すと、さらりと言った。


 人形「でもね、私もやられっぱなしでは気がおさまらないの。

 だから――岸本玲奈の“恋愛・結婚運”は、下げておくわ。

 本人は、気づかないと思うけど。」


 志保は顔を引きつらせた。


 志保「……それって、ある意味いちばん恐ろしい“呪い返し”じゃない?」


 人形「呪いじゃないわ。

 “因果応報”よ。やった分だけ返るのは当たり前でしょう?」


 藁男が思わず口を挟む。


 藁男「……いや、普通に呪い返しっぽいけどな……」


 そんなやりとりの最中、隼人は静かに立ち上がった。

 表情はいつになく真剣だった。


 隼人「……明日、縁切寺に行くよ。

 玲奈との縁は、完全に断ち切っておかないと。」


 志保「お兄ちゃん、それがいいと思うよ……」


 隼人「これ以上、家族に迷惑をかけられないし、

 玲奈の執念は……もう普通じゃない。

 “縁”そのものを切ってこようと思う。」


 

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ