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差出人不明の箱は、三浦家の玄関にぽつんと置かれていた。
封はしっかりされ、どこにも開け口がない。
ただの段ボールのはずなのに、誰も近づこうとしない。
玉藻は額に手を当て、深く息をついた。
「……どうするべきなの、これ」
隼人が不安げに言う。
「警察、呼んだ方がいいか?爆発物だったら……」
サクラ「でも爆弾処理班だって、箱は開けっす。もし中身が呪物だったら――」
玉藻は唇を噛んだ。
「“開けた人”は、ただでは済まない。場合によっては……命取りになる」
志保が青ざめた顔で、兄を見る。
玉藻は両手で頭を抱えた。
「犠牲者は……出したくない」
沈黙が続いた。
サクラが言う。
「このままじゃ埒が明かないっす。私が開けるっす……」
サクラのショルダーバッグの中から藁男が出てきて言う
「だめだwwwサクラママを危険なめにあわせるぐらいなら、俺が開けるWWW」
そしてヒイラギもカバンから出てくる
「………」
蛇なので言葉は無いが、おそらく反対しているのだろう。
志保「サクラちゃん!!!何を連れてきてるのよ!!!」
玉藻が顔を上げた。
「……そうだ。
式神。式神なら――!」
志保がぱっとこちらを向く。
「式神って、あの紙の?」
玉藻は頷いた。
「薄いから、どんなすき間にも入れる。
人間が触らなくても、中を見ることができる」
隼人が息を呑む。
「それなら……誰も傷つかない?」
「うん。
式神なら、もし呪いがあっても『受ける』だけで済む。
破れれば終わり。
人間みたいに後を引かない」
家に帰って、式神用の紙をとってくる!
サクラ 「おねーちゃん……そんな紙持ってるの?」
玉藻「康親さんが、くれたの……」
サクラがニヤニヤ笑う。
玉藻「ちょっと!そんなんじゃないから!」
30分後
玉藻が戻ってきて、懐から和紙を取り出した。
康親がくれた特製の和紙――式神用の紙だ。
目を閉じ、指先に霊力を集め、紙に触れる。
すう……っと紙が震え、淡い光が宿る。
“生まれたて”の式神が、玉藻の手の上でふよふよと浮いた。
「行って!箱の中を見てきて」
式神は小さく頷いたように光り、
音もなく箱へ近づく。
箱の隙間から、紙片が静かに滑り込む。
志保はぎゅっと手を握る。
「……どうか、無事で」
玉藻は畳の上で正座し、静かに目を閉じた。
式神が箱の中に入った瞬間、その視界が玉藻の意識に流れ込む。
ふわり、と暗い箱の内部が視界に広がる。
「……見える。式神が見てるもの……共有できる」
志保と隼人が見守る。
玉藻は眉をひそめた。
「うーん……段ボールの底。
黒い布……いや、緩衝材みたいなのが入ってる」
式神がさらに奥へ進む。
玉藻の表情が変わった。
「……爆弾はない。
配線も、金属も、仕掛けもない。
毒ガスの噴出機構もない」
志保が胸を撫で下ろす。
「よ、よかった……」
しかし次の瞬間、玉藻の肩がピクリと震えた。
玉藻の眉が急に跳ね上がった。
「――え? ちょっと待って……!」
志保が身を乗り出す。
「な、なに?何が見えたの?」
玉藻は式神の視界をさらに凝視するように目を細めた。
額に汗がにじむ。
「……人形……」
「人形が、どうした?」
玉藻は息を呑んで言った。
「針が刺さってる」
部屋の空気が凍りついた。
志保が青ざめた顔で呟く。
「針……って……まさか、丑の刻参りみたいな……?」
「違う……丑の刻参りの時に使う五寸釘じゃない。
もっと細くて、鋭い……金属のピン。
縫い針に近いけど……深く刺されてる」
隼人ののどがゴクリと鳴る。
「そ、それってやばいやつじゃ……」
玉藻は震える声で続けた。
「……しかもひとつじゃない。
胸の部分に一本。
背中に一本。
頭にも……一本刺さってる……」
志保が耳を塞ぐ。
玉藻 「とにかく早く針を抜いたほうがいいわね 私が箱を開けるわ」
サクラ 「私が開ける」
藁男 「俺に任せろwww 岸本玲奈の呪いは、俺には効かないwww」
玉藻 「なるほど…… 藁男が適任ね」
藁男は、軽く肩を回しながら箱の前へと進んだ。
「よし、開けるぞwww」
玉藻は真剣な表情で頷く。
「藁男、箱の内側に何か仕掛けがあるかもしれない。ゆっくり開けて」
藁男は鼻で笑った。
「安心しろってwww俺は“呪いの結果”で生まれた存在だwww。玲奈の呪詛は俺の体を通り抜けるだけだwww」
中には異国風の人形が、体のあちこちに針を刺されたまま横たわっていた。
玉藻「やっぱり……。これ、ブードゥー人形じゃない?」
サクラが息をのむ。
「針……いっぱい刺さってる。痛そう……」
「痛くはないぞwww人形だしなwww」と藁男。
玉藻は小さく咳払いして気持ちを切り替えた。
「藁男。刺さっている針を抜ける?」
「任せろwww」




