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サクラは自分の机の上に藁男をぽん、と置いた。
ほつれた藁の体を眺め、ため息をひとつ。
「まったく……ボロボロじゃない。こんなの、歩いたら崩れるでしょ」
押し入れの奥から、古びたミシンを引っ張り出す。
針に糸を通し、器用に藁の体を補強していく。
「おお~サクラママwww 針がチクチク気持ちいいっすwww」
「ママ言うな!」
サクラは頬を赤くして声を上げるが、どこか楽しそうだ。
「ありがとwww服も作ってくれてる?www」
「服って……そんないい物じゃないっすよ」
サクラは針を動かしながら小さく笑った。
やがて、藁男の体を包むように麻布のベストが仕上がる。
ボタン代わりに、廃神社から拾ってきた木の実を縫い付けた。
「はい、できた。……ちょっとはマシになったでしょ」
藁男はぴょこんと跳ねて、サクラの膝の上で小さく回転した。
「サクラママ最高っすwww 世界一の裁縫スキルっすwww」
「うるさい!」
サクラは笑いながら藁男の頭を指でつついた。
その光景を見ていた玉藻は、縁側に腰を下ろし、静かにお茶を飲む。
「……まるで本当の親子ね。サクラ、まんざらでもない顔してるわよ?」
「ち、違うっす! ただ……こいつ放っておけないだけっす!」
藁男「ツンデレママwww かわいいっすwww」
玉藻「……こりゃ、手がかかる息子が増えたわね」
玉藻は、縁側でスマホを見つめながら小さく眉を寄せた。
「ところで──藁男を作った隼人さんの高校の同級生、岸本玲奈。少し調べてみたんだけど……」
サクラがミシンの手を止め、顔を上げる。
「……どうだった?」
玉藻「彼女、黎明真理会っていう新興宗教の教祖をやってる。いかにも怪しいやつ。」
「呪いをかける力があって、教祖か……碌なもんじゃないっすね」
サクラは呆れたように息をつき、腕を組んだ。
玉藻は静かにお茶を飲みながら、視線を落とした。
「隼人さんに呪いをかけたのも……もしかしたら、“自分をふった人間を許せなかった”だけかもしれない。あるいは、“自分の呪いの力を試したかった”だけかもね。」
その言葉に、畳の上の藁男がびくっと体を震わせた。
「そんな理由で俺を作ったのなら、許せないっすwww!」
「怒りながら笑う呪具www」
サクラが呆れ顔で突っ込むと、玉藻がくすくすと笑う。
「サクラ……藁男の“www”がうつってるわよ?」
「うつってないっす! ……あっ」
サクラは顔を真っ赤にして口を押さえる。
藁男「うつったっすwww 母さん感染したっすwww」
「感染じゃない!」
サクラは枕をつかんで藁男をぽかっと叩いた。
玉藻は扇子で口元を隠しながら、楽しげに目を細める。
「まったく……呪いのはずが、すっかり仲良し親子ね」
玉藻はスマホを閉じ、空を静かに見上げた。
風が髪を揺らし、彼女の横顔に影を落とす。
「岸本玲奈……おそらく、ただの信仰ビジネスじゃないわね。呪詛の才能がある人間が、“人を導く”なんて言葉を使い始めると厄介なの。放っておけば、また同じようなことが起きるかもしれない。」
サクラはミシンの電源を切り、椅子をくるりと回して玉藻を見た。
「おねーちゃん、まさか……行くつもりっすか?」
玉藻はくすりと笑い、扇子で口元を隠した。
「まさか。姿を見せるなんて、とんでもない。相手に“呪う隙”を見せるわけにはいかないわ。」
「なるほどっす。陰陽師同士の争いは、式神か使い魔を立てるのが定石っすもんね。」
その言葉に、畳の上の藁男が勢いよく跳ねた。
「おお~陰陽師www かっこいいっすwww 母さんとおばさんが呪いバトルっすwww!」
「バトル言うな!」
サクラが即座に突っ込む。
玉藻は苦笑しながらも、藁男に視線を落とした。
「でも、ちょうどいいわね。藁男、あなたには“怨念の流れ”を探る力があるでしょう?」
藁男「あるっすwww もともと呪いの媒介っすからwww 教祖様の気配、たどれるっすよwww」
サクラ「おお、やるじゃないっすか、うちの息子!」
玉藻「じゃあ決まりね。直接出向かずとも、式神たちで探れば十分。……“呪いの宗教”の正体を暴くわよ。」
藁男「了解っすwww 陰陽師チーム、出動っすwww」
サクラ「だから、いちいち“www”つけるなっつーの!」
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