表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

両親が相次いで亡くなり、天涯孤独になった前田玉藻。飼い犬のサクラが道に飛び出したので助けようとして、トラックにはねられた。そこで神様に会う。九尾の狐が帝をたぶらかして国に災いを起こすのを防げば、再び現世に戻れるという。目が覚めると、九尾の狐に転生していた。これって楽勝じゃない。と思ったが、妖術は使えるが、和歌とか書とか無理。



 都中の噂はさらに膨らんだ。


「玉藻様、奥方様と親しくしておられるとか……。あの才色兼備の美女が、主人の奥様を立てつつ振る舞うなど、よくできたお方です」

「玉藻様が屋敷に入り込んだ式紙を撃退されたそうよ」

 サクラは鼻高々。

「ご主人、屋敷内の評価は完全にMAXっす。玉藻様、無敵っす!」


 奥方は柔らかく微笑み、旦那様も目を細めて言った。

「玉藻殿がいらっしゃるおかげで、私達も安心して日々を過ごせる」


 旦那様の評判も当然上がる。

「奥様と愛人がこれほど仲良くできるなど、都中でも珍しいことですぞ……」


 玉藻は尾を揺らしながら心の中でつぶやいた。

「……なんか、全部私の手柄になってるけど、実際はサクラと奥方様が全部やってくれてるんだよね……」


 ある日の夜半。

 月は雲に隠れ、庭はしんと静まり返っていた。


「……また庭に、妙な気配がするっす」

 サクラが耳をぴくりと動かし、尾を逆立てる。


 玉藻は寝所から顔を出し、尻尾をふわりと揺らした。

「また? 式紙か、あるいは誰かの遣いかしら……」


 サクラは地面に鼻を近づけ、低く唸った。

「……紙の匂いがするっす。でも、前よりも数が多いっすよ」


 闇の庭を見れば、月明かりの下に白い影がいくつも蠢いている。

 人の形をした紙――式紙たちが、ずらりとこちらを見ていた。


 イケメン貴族とその奥方も、ただならぬ気配で目を覚まし、玉藻の部屋にやって来る。

「まあ……またあの陰陽師でございましょうか?」


 玉藻は手をひらりと振り、低く呪を唱えた。

「サクラ、犬の本領を発揮する時よ――妖術《犬還し》!」


 ふわっと光に包まれたサクラの姿がぐにゃりと揺れ、次の瞬間、耳と尾がふさふさの柴犬に変わった。


「わーい!待ってましたっす!!」

 サクラは尻尾をぶんぶん振り回し、庭へ駆け出す。


 式紙の群れはぞわぞわと蠢き、サクラを取り囲む。

 サクラは低く吠えた。

「ヴゥーッ!ワンワン!」


 式紙がひるみ、散らばろうとするが――遅い。

 サクラは飛びかかり、紙をぱりんと噛み千切った。

「へっへっへ、式紙なんて紙切れっすよ!」


 次々に紙を裂き、咥え、地面に叩きつける。

 あっという間にたくさんあった式紙を退治した。


 玉藻は袖で口元を隠し、つぶやく。

「サクラ有能すぎ‼」


 奥方は縁側からその様子を見守り、目を丸くする。

「まあ……あれほど勇ましい犬を、私は初めて見ましたわ」


 最後の一枚を食いちぎったサクラは、胸を張って吠えた。

「わん! 式紙退治完了っす!」


 式紙を退治し終えた庭に、涼やかな声が降りた。

「……サクラ殿は、人の姿の時も可愛らしかったが――犬の姿もまた、さらに可愛いですな」


 縁側に立つのは、玉藻の主であるイケメン貴族の旦那様。

 その眼差しは真剣で、犬のサクラに熱を帯びて注がれていた。


「犬が、これほど美しく、愛らしいものだとは……」

 そう呟きながら、旦那様はそっと手を伸ばす。


 だが――サクラは「ぐるるる……」と低く唸り、鋭い目を向けた。

 旦那様の手は空中で止まり、空気が一瞬張りつめる。


 奥方がくすっと笑い、玉藻が肩をすくめて言った。

「だめですよ、旦那様。柴犬というのは、ご主人にしか懐かないのです」


 サクラは胸を張り、尻尾をぴんと立てたまま玉藻の足元へとすり寄る。

 まるで「このご主人は自分だけのものだ」と誇示するかのように。


 旦那様はしばし目を見開いていたが、やがて朗らかに笑った。

「なるほど……忠義深いものですな。そこもまた、愛らしい」


 その頃――式紙を操っていた張本人、安倍泰親は、遠く離れた屋敷で小さい悲鳴をあげてのたうち回っていた。


「いたっ!いたた! だが……悪くない……!」

 なんと、サクラが式紙を噛むたびに、術をかけた本人に小さい歯型がついていたのだ。

「玉藻様に罵倒されると思っていたが、なんとこの様な気持ちの良い……ああ……玉藻様、そなたの弟子はなんと素晴らしい……!」 

 弟子が小声でつぶやく。

「師匠、全身に歯型をつけられて、唾液まで……!もう諦められた方がよろしいかと」 

お読みいただきありがとうございました。☆押して頂けると励みになります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ