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夜。
玉藻は机の上にスマホを置き、通知を眺めながら小さく眉をひそめた。
「ねぇ、サクラ。……平安時代のデートってさ、男の人が夜に女の家に来るんだよね?」
クッションの上で寝転がっていたサクラが、しっぽをぱたぱたと揺らす。
「そうっす。夜に女の邸宅を訪ねて、格子越しに恋文を交わす――それがデートっすね」
「へぇ……」玉藻は腕を組みかけて、ふと首をかしげた。
「それって何回か通ううちに仲が深まる、みたいな?」
サクラはにやりと笑う。
「いやぁ、3回通えばもう結婚っす」
「け、結婚!?」
玉藻は思わずスマホを落とした。
「ちょ、ちょっと待ってサクラ! “3回来たら結婚”って、そんなの早すぎでしょ!?」
「まぁまぁ、落ち着くっす。平安の結婚って今と違うっすよ。
男の人が“通う”スタイルで、女の人はずっと実家暮らしっす」
「えっ、そうなの?」
「そうっすそうっす。だから深く考えなくていいっす。
康親様が通ってくるだけっす」
「“通ってくるだけ”って! それが一番ヤバいやつでしょ!?」
玉藻は真っ赤になってテーブルを叩いた。
「夜中にピンポーンって来たらどうするの!?」
「出なきゃいいっす」
「そ、そうだけどっ! そうだけどぉぉ!!」
サクラはけらけら笑って、しっぽで玉藻の頭をぽんぽん叩く。
「まぁまぁ、そんなに慌てないで。
平安男子って、情熱がすごいっすからね~。
“今宵そなたの邸に参上いたす”とか言い出すかもしれないっす」
「やめてっ、それ完全に通報案件だから!!」
玉藻は顔を覆ってうめいた。
「ていうか、康親さん……まさか本気で“平安式”とか思ってないよね!?」
サクラはスマホの画面を覗き込み、にやっと笑う。
「でも今週の土曜、康親様と会う約束してるっすよね?
……もしかして、それが“1回目”になるかも~」
「やめてぇぇぇぇ! 変なカウントしないで!!」
部屋中に玉藻の悲鳴が響く。
サクラは大笑いしながら、ふさふさのしっぽで彼女の頬をくすぐった。
「ま、平安の恋は重いけどロマンチックっす。
“3回で結婚”って、効率いいと思うっすよ?」
「効率の問題じゃないから!」
玉藻はため息をつき、スマホを見つめた。
画面には康親の名前。
――『土曜、楽しみにしています』というメッセージが光っている。
(まさかとは思うけど……康親さん、本気で“平安式”とか言い出さないよね?)
玉藻は心の中でそっと祈った。
……ピンポーン、なんて鳴らないことを願いながら。
その後――。
玉藻は深呼吸をひとつして、スマホを手に取った。
画面には、康親から届いたメッセージ。
『土曜日、どちらへ伺えばよろしいでしょうか?』
“伺う”って……。
やっぱり平安式のノリじゃない!?
玉藻は頭を抱えた。
(このままだと、本当に家の玄関に現れそう……!)
そこで、意を決して返信を打ち始めた。
『じゃあ、待ち合わせは駅前のカフェでお願いします。
お昼の12時に! 明るいうちに会いましょうね!笑』
送信ボタンを押す指が、微妙に震えていた。
(ほんとは……康親にリードしてほしいのに)
乙女心が、少しだけ胸の奥でため息をつく。
でも――夜に「今宵まいった」とか言われたら、さすがに通報案件だ。
安全第一、恋愛第二。
玉藻は自分にそう言い聞かせながら、スマホをテーブルに置いた。
「よし、これで夜襲(?)は防げたっすね」
サクラがクッションの上で満足そうにうなずく。
「……夜襲って言わないでよ」
玉藻は苦笑しながらも、心のどこかで少しだけ――
“本当は、リードしてほしかった”という気持ちを隠した。
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