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玉藻「重い……重すぎる。そんなこと言われたら、もうどうしたらいいのよ……」
ベッドの上でスマホを抱えたまま、玉藻は天井を見上げた。
「ていうか、どこでそんなに好きになってくれたの? 私、平安時代に生まれてないんですけど」
サクラはにやにやしながら、ちょっと得意げに言った。
「最初からっすよ。式神送ってくるほど、御執心だったっす」
「最初からって……え、怖くない?」
「平安貴族ってそういうもんっす。会ったこともない女性を、噂とか、ちょっと見かけた姿とか、夢に出てきた人で本気になるっす」
玉藻「夢で本気になるとか……恋バナのレベルじゃなくてホラーなんだけど」
サクラ「でも康親様は、本気だったっすよ。ずっと……」
玉藻はため息をつきながらも、頬が少しだけ熱くなった。
「……そんなの、ずるい」
玉藻「……実際に会ったら、幻滅されないかな?」
スマホを握ったまま、玉藻は小さく呟いた。
「なんかさ、平安の貴公子って、完璧な美意識持ってそうだし。私なんか見たら『俗っぽい』って思われそうで……」
サクラは言った。
「大丈夫っすよ。鬼退治とか九尾の狐退治とか、結構一緒にいたっすから。実物見ても幻滅してないっす」
玉藻「……あ、そうだった」
サクラ「むしろ“生で見た玉藻殿”の方が、康親様にとっては奇跡っす」
玉藻は顔を赤くして枕に顔を埋めた。
「そんな言い方しないでよ……」
サクラはくすくす笑って、「やっぱり」とつぶやいた。
玉藻「でもさぁ……平安では、ばっちり貴族メイクしてたし、着物だったし。
今の私の素顔とか、洋服見たら――やっぱり幻滅すると思うのよ」
サクラ「はぁ〜〜……おねえちゃん、考えすぎっすよ」
ソファの上で丸くなりながら、サクラは尻尾をゆらゆらさせる。
「それで幻滅するような男なら、最初から付き合わない方がいいっす」
玉藻「……そ、そんな簡単に言わないでよ」
サクラ「見た目より魂っすよ。康親様、千年の時を超えて来たんすから。メイクなんか関係ないっす」
玉藻「……でも康親の好意って、重い」
サクラ「でも本物っすよ」
玉藻はスマホを握りしめ、何度も文面を打っては消してを繰り返した。
最後に、思い切って――送信。
今週の土曜日、あいてます?
会えるなら…ちょっと話したいことがあります
送信ボタンを押した瞬間、心臓が跳ねた。
「はぁ〜何やってんだろ私……」
ベッドに顔をうずめる玉藻を見て、サクラがニヤニヤしていた。
「恋する乙女っすねぇ〜」
康親は、式神を通して届いた玉藻の返事を見た瞬間、凍りついたように動きを止めた。
「今週の土曜日、あいてます?」
たった一行。
されど千年の時を越えた恋には、それで十分だった。
「……あいておりますともぉぉぉっ!!!」
康親は屋敷の廊下を駆け回り、式神たちを抱きしめ、ついには天井に向かってガッツポーズを取った。
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