表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/72

41

 康親は徳子から「電波とは電気の波である」と聞かされ、腕を組んで考え込んでいた。


「電気の……波。なるほど、“波動”か」


 その言葉を口にした瞬間、康親の中で何かが繋がった。


「万物には“気”がある。陰と陽の揺らぎ――それこそ波であったか。

 平安の世では未だ“雷”としてしか知られておらなんだが、

 この時代ではそれを“電”と名づけ、自在に操るとは……!」


 徳子が首を傾げる。

「康親様、もしかして……何か思いつかれましたか?」


「うむ。玉藻殿が使うという“スマホ”――あれも“波動の道具”ならば、

 式神をその波に同調させ、器の中に送り込むことができるやもしれぬ」


 徳子は目を丸くした。

「まさか……スマホに式神を!?」


 康親はうなずいた。

「要は媒介さえあればよい。紙の符に書くか、電の符に乗せるかの違いだ」


「……理屈は、分かるような、分からないような……」


「やってみねば分からぬ!」


 康親は懐から筆を取り出し、空中に印を描いた。

「雷の気、風の気、つなぎ合わせて――“式神・波乗りの術”!」


 ふわりと光が走り、スマホの画面(玉藻のLINE)に文字が灯った。


 徳子が叫ぶ。

「繋がりましたよ!」


 康親は静かに息を吐いた。

「……ふふ、どうやら成功したようだな。

 この“でんぱ”という術、なかなか使えるぞ」



 翌朝。

 玉藻がまぶたを開けると、スマホの通知ランプがチカチカと光っていた。


「ん……誰からだろ……?」


 寝ぼけまなこでLINEを開くと、そこには――

 平安時代の貴公子のようなスタンプ。

 烏帽子に狩衣、そして柔らかい笑み。


 スタンプが……喋った。

『ご機嫌いかが?』


 玉藻「…………え?」


 さらに続けざまに、もう一つのスタンプがポン、と届く。

 今度は紙の式神がパタパタと飛んでいるアニメーション付き。

 まるで――式神そのもの。


『お返事ありがとうございます。少し前からこの時代に来ています。

 一度お会いしませんか?』


 玉藻は思わずスマホを落としそうになった。

「ちょ、ちょっと待って!? 式神が……しゃべってる!?」


 横で寝ていたサクラが、目をこすりながら顔を上げる。

「おねーちゃん……朝からテンション高いっすね……どしたんすか?」


「どしたもこうしたもないわよ! 康親からLINEが来てるの!

 しかもスタンプが“動く”式神!」


 サクラはスマホを覗き込み、

「おぉ~、やるっすね、康親様。

 平安時代のくせにテクノロジー理解早すぎっす」


 玉藻「ていうか “この時代に来てる”ってどういう意味!?」


 サクラ「そのままの意味っすね」


 玉藻「……は?」


 サクラはあくび混じりにストレッチしながら、

「康親様は、占いでは十のうち八を的中させて“神”って呼ばれてたっす。

 未来に行き来してたなら、そりゃ当たるっすよ」


 玉藻「未来に行き来……って、そんな簡単に言わないでよ!?」

 サクラ「康親様は、小野篁殿が地獄へ行き来してたっていう井戸に飛び込んで、未来を見たって言ってたっすけど……本当だったっすね」


 玉藻「ちょっ……そんなホラーみたいなこと、実際にやったの!?」


 サクラ「誰もあの井戸に飛び込まないっすよ。だって、“地獄に通じてる”って言われてるんすから」


 玉藻「つまり康親って、ガチで命懸けで未来を見たのね……」


 サクラ「そっす。イケメンで、有能で、ちょっと変態。完璧っすね」


 玉藻「最後のいらない!」


 玉藻「命懸け……地獄行きをかけて未来に来るなんて……馬鹿なんだから……」

 サクラ「それは言い過ぎっすよ」


 玉藻は机の上に置かれたスマホを見下ろした。

 そこには、平安の貴公子みたいなスタンプと、丁寧な言葉が並んでいる。


 サクラは、少し視線を伏せた。

「康親様の気持ち、わかるっす……。」


 玉藻「……どういうこと?」

 サクラ「あの人、未来を見たいとか、名を残したいとか、そんなのじゃなくて……ただ……おねーちゃんに会いたかっただけっす」


 玉藻は一瞬、言葉を失った。

 心臓がどくんと鳴る。


「……そんな、馬鹿みたい」

 けれど、その声は、ほんの少し震えていた。



お読みいただきありがとうございました。☆押して頂けると励みになります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ