24
翌朝
翌朝、カーテンのすき間から朝日がやわらかく差し込み、庭の小鳥たちのさえずりが耳に届いた。
心地よい目覚めだった。
「……帰ってきたんだ」
そう呟きながら布団の中で深く息をつく。
見慣れた天井、壁に掛けられたポスター、机の上に積まれた教科書。
どれも久しぶりに目にする自分の部屋の風景だった。
平安の夜も、戦の影も、まだ心の奥に残っている。けれど、この場所に戻ってきて、まるで長い夢を見ていたような気さえする。
二階の部屋に、ふわりと漂ってくる匂いがあった。
ご飯を炊く香り。
お味噌汁の湯気にのる、出汁と味噌のあたたかな匂い。
「ごはんできたわよー」
懐かしくて、優しい声が階下から聞こえてきた。
――母の声だ。
胸がいっぱいになる。
けれど玉藻は、精一杯明るく返事をした。
「はーい!」
その時、少女が部屋に入ってきた。
「ご主人様‼ 早く起きるっす」
制服に袖を通した、まだあどけない顔立ちの妹。
玉藻は思わず目を見張った。
「……あなた、サクラなの?」
妹はにやりと笑った。
「サクラっす。平安時代、頑張って生きて、御主人様の妹として転生させてもらったっす」
玉藻の胸に、ぽろぽろと涙がこぼれた。
家族と、サクラと、一緒に暮らせる。
玉藻「……もう会えないと思ってた」
サクラ「会えるって言ったっしょ。否定的な言葉は使っちゃダメっす」
そう言うと、サクラは突然ふっと姿を変え、柴犬の姿になった。
ちょこんと布団に飛び乗ると、玉藻の頬をぺろぺろと舐め回す。
玉藻「えっ!? 人間に転生したんじゃ……」
サクラ「ベースは人間っすよ。でも犬に化けるくらい朝飯前っす」
サクラはけらけら笑いながら、しっぽをぶんぶん振ってみせた。
玉藻「……ちょ、ちょっと、親に見られたらどうするの!」
サクラ「ばれたら適当に誤魔化せばいいっすよ」
サクラ「ご主人様じゃなくて、おねーちゃん! おねーちゃんも化けれるっすか?」
玉藻「まさか……? でも、ちょっとやってみようかしら」
玉藻はそっと目を閉じ、胸の奥でかすかに残るあの感覚を呼び起こした。
「狐妖術――変化――!」
ふわりと空気が揺らぎ、次の瞬間、玉藻の姿は白銀の毛並みを持つ狐へと変わった。
尾がふさふさと揺れ、鏡に映る自分の姿に玉藻は驚きの声をあげる。
玉藻「ほ、本当に……化けられた……!」
サクラ「やっぱりっす! 記憶があるってことは、妖術もそのままなんすね」
犬姿のサクラは嬉しそうに跳ね回り、玉藻の尻尾にじゃれついた。
玉藻「ちょ、ちょっと! くすぐったいわよ!」
母親の声が階下から響いた。
母親「玉藻ちゃん! サクラちゃん! 朝ごはんできたわよ! 早く降りてらっしゃい!」
二人は慌てて姿を整える。玉藻は狐の耳と尻尾を隠し、サクラも犬の姿から人間に戻った。
サクラ「お母様に見られたら大変っす」
玉藻「ほんとに……普通の姉妹に見えるようにしないとね」
二人は顔を見合わせて、小さく笑った。
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