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 翌朝

 翌朝、カーテンのすき間から朝日がやわらかく差し込み、庭の小鳥たちのさえずりが耳に届いた。

 心地よい目覚めだった。


「……帰ってきたんだ」


 そう呟きながら布団の中で深く息をつく。

 見慣れた天井、壁に掛けられたポスター、机の上に積まれた教科書。

 どれも久しぶりに目にする自分の部屋の風景だった。


 平安の夜も、戦の影も、まだ心の奥に残っている。けれど、この場所に戻ってきて、まるで長い夢を見ていたような気さえする。


 二階の部屋に、ふわりと漂ってくる匂いがあった。

 ご飯を炊く香り。

 お味噌汁の湯気にのる、出汁と味噌のあたたかな匂い。


「ごはんできたわよー」


 懐かしくて、優しい声が階下から聞こえてきた。


 ――母の声だ。


 胸がいっぱいになる。

 けれど玉藻は、精一杯明るく返事をした。

「はーい!」


 その時、少女が部屋に入ってきた。

「ご主人様‼ 早く起きるっす」


 制服に袖を通した、まだあどけない顔立ちの妹。


 玉藻は思わず目を見張った。

「……あなた、サクラなの?」


 妹はにやりと笑った。

「サクラっす。平安時代、頑張って生きて、御主人様の妹として転生させてもらったっす」


 玉藻の胸に、ぽろぽろと涙がこぼれた。

 家族と、サクラと、一緒に暮らせる。


 玉藻「……もう会えないと思ってた」


 サクラ「会えるって言ったっしょ。否定的な言葉は使っちゃダメっす」


 そう言うと、サクラは突然ふっと姿を変え、柴犬の姿になった。

 ちょこんと布団に飛び乗ると、玉藻の頬をぺろぺろと舐め回す。


 玉藻「えっ!? 人間に転生したんじゃ……」


 サクラ「ベースは人間っすよ。でも犬に化けるくらい朝飯前っす」

 サクラはけらけら笑いながら、しっぽをぶんぶん振ってみせた。


 玉藻「……ちょ、ちょっと、親に見られたらどうするの!」


 サクラ「ばれたら適当に誤魔化せばいいっすよ」

 サクラ「ご主人様じゃなくて、おねーちゃん! おねーちゃんも化けれるっすか?」


 玉藻「まさか……? でも、ちょっとやってみようかしら」


 玉藻はそっと目を閉じ、胸の奥でかすかに残るあの感覚を呼び起こした。

「狐妖術――変化(へんげ)――!」


 ふわりと空気が揺らぎ、次の瞬間、玉藻の姿は白銀の毛並みを持つ狐へと変わった。

 尾がふさふさと揺れ、鏡に映る自分の姿に玉藻は驚きの声をあげる。


 玉藻「ほ、本当に……化けられた……!」


 サクラ「やっぱりっす! 記憶があるってことは、妖術もそのままなんすね」

 犬姿のサクラは嬉しそうに跳ね回り、玉藻の尻尾にじゃれついた。


 玉藻「ちょ、ちょっと! くすぐったいわよ!」


 母親の声が階下から響いた。


 母親「玉藻ちゃん! サクラちゃん! 朝ごはんできたわよ! 早く降りてらっしゃい!」


 二人は慌てて姿を整える。玉藻は狐の耳と尻尾を隠し、サクラも犬の姿から人間に戻った。


 サクラ「お母様に見られたら大変っす」

 玉藻「ほんとに……普通の姉妹に見えるようにしないとね」


 二人は顔を見合わせて、小さく笑った。

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