表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

両親が相次いで亡くなり、天涯孤独になった前田玉藻。飼い犬のサクラが道に飛び出したので助けようとして、トラックにはねられた。そこで神様に会う。九尾の狐が帝をたぶらかして国に災いを起こすのを防げば、再び現世に戻れるという。目が覚めると、九尾の狐に転生していた。これって楽勝じゃない。

「おお、目覚められたか。急に倒れられたので、心配しておりました」


部屋に入ってきたのは、この屋敷の主人――らしい人。


えらいさんって聞いてたから、正直「偉そうで脂ぎったオジサン」を想像してたんだけど……。


目の前に現れたのは――


……顔面偏差値バカ高いイケメン貴族だった。


すらりとした体躯、切れ長の瞳。雅やかな狩衣かりぎぬがよく似合ってる。


「あ、あの……ご心配をおかけしました」

九本の尻尾を必死に隠しながら、私はぺこりと頭を下げる。


心臓バクバク。いやいや、平安貴族ってこんなイケメン仕様だったの!?


サクラ(人間ver.)が隣でぼそっとつぶやいた。

「ご主人、鼻の下伸びてるっすよ」


「伸びてないからぁぁ!」

「玉藻様のおかげで、妻はすっかり元気になりました」

貴族イケメンが深々と頭を下げる。


その隣には、柔らかな笑みを浮かべる奥方様。頬にはもう病の影はなく、むしろ花のように華やいで見えた。


「あ、あの……私、そんな大したことは……」

九本の尻尾をなんとか着物で隠しつつ、必死にごまかす私。


「とんでもない。是非とも妻から直接お礼を申し上げたいと申しておりましてな」


奥方様は私の手を両手で包み込み、目を潤ませながら言った。

「玉藻様……命を救ってくださり、ありがとうございます」


……やばい。こういう真っ直ぐな感謝って、ずるい。

なんか胸がきゅっとなった。


サクラ(人間ver.)が後ろで腕を組んで得意げに言う。

「どうっすか、ご主人。これが“人徳”ってやつっすよ!」


「いやいやいや! 私、なんもしてないから!?」

「人間の姿のときは、妖しいほどの美しさであられた……」

イケメン貴族がうっとりと私を見つめる。


「しかし九尾のお姿は……なんと、可愛らしくいらっしゃる」


「へ?」


私はきょとんとした。

……ん?


――ふわん。

視線を落とすと、九本の尻尾が床をふぁさぁっと広げていた。


「あああああああ!!」

思わず叫んだ。

「人間に戻るの忘れてたぁぁぁぁぁぁ!!」


サクラ(人間ver.)は腹を抱えて大爆笑。

「ご主人、ドジっ子属性まで獲得っすか! 最強っす!」


「笑い事じゃないから! どうすんのこれ、バレたら狐妖怪認定じゃん!」


けれどイケメン貴族はただ目を細め、微笑を浮かべた。

「美しきもふもふ……これはこれで、実に雅やかな趣き」


……え? いいの??


奥方様は穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。


「……人間のお姿の時は、恥ずかしながらあなた様への嫉妬が抑えられませんでした」


「えっ?!」


「主人があなた様を称賛するたびに、嫉妬で身を焦がしておりました……。命の恩人と分かっていても、あさましいことです」


奥方様はしとやかに目を伏せる。

「けれど、あなた様は仰いましたね。『嫉妬がある間は、また同じ病に苦しむ』と……。だからこそ……」


彼女はしっとりとした声で続けた。

「私の嫉妬を無くすために、狐のお姿に戻られたのですね。なんと気高い心なのでしょう……」


「えぇぇぇぇぇ!?」

私はしっぽを逆立てて叫びそうになったが、とどまった。


サクラ(人間ver.)は横でニヤニヤしている。

「さっすがご主人。何もしてないのに勝手に徳が上がってくスタイルっすね」


「いやいやいや! ただ変身戻し忘れただけだから!」


けれど、奥方様と旦那様の瞳は尊敬と感謝に満ちていた。

なんか……勘違いが広がっていってない?


「玉藻殿、できればこの屋敷に留まってくれませんか」


イケメン貴族は真剣な眼差しでそう言った。


「私は立場上、敵も多いのです。だから度々、呪いをかけられることがある……。玉藻殿が居て下されば、どれほど安心できることか」


……え、そんな理由で狐妖怪に同居要請?


「えっと……」私は耳をぴくりと動かし、ちらっとサクラを見る。


サクラ(人間ver.)はにかっと笑って親指を立てた。

「ご主人、とりあえず行くとこないし、ここに住んどけばいいんじゃないっす? 屋根もご飯も確保できるっすよ!」


うーん……確かに。

帝に取り入らなければ九尾バッドエンドは回避できるんだし。

なら、イケメンの屋敷でちょっと厄介になるくらいアリかも?


「……わかりました。しばらくお世話になります」


九本のしっぽをふわっと揺らして答えると、イケメン貴族はほっとしたように微笑んだ。


お読みいただきありがとうございました。☆押して頂けると励みになります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ