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両親が相次いで亡くなり、天涯孤独になった前田玉藻。飼い犬のサクラが道に飛び出したので助けようとして、トラックにはねられた。そこで神様に会う。九尾の狐が帝をたぶらかして国に災いを起こすのを防げば、再び現世に戻れるという。目が覚めると、九尾の狐に転生していた。これって楽勝じゃない。

 内裏にて、帝に謁見する一行。

 鬼退治の功績は大きく、帝は頼光をはじめ四天王、そして安倍泰親や玉藻・サクラにまで褒美を授けた。


「これらはそなたらの働きに対する賞である」


 運ばれてきたのは、絹織物、紙、そして白味噌や海苔といった食材であった。


 玉藻は思わず目を丸くした。

「……絹織物に、紙、白味噌に海苔……。命懸けの鬼退治の褒美……。これらが、この時代では最高級の品だったのね」


 サクラは両手をぱちぱちと打ち鳴らして喜んだ。

「わーい! 紙があれば、恋文の代筆いっぱいできるっす!」


 頼光たちは威儀を正して拝礼したが、一歩後ろに控えながら、玉藻はその褒美の品々にじっと目をやっていた。

 現代からすれば些細な品々も、この時代においては富と権力を象徴するものだった。


 その夜、宮中にて盛大な宴が催された。

 鬼退治の英雄たちをねぎらう場でありながら、帝の目はひとりの女から離れることはなかった。


(玉藻……)


 凱旋の日、群衆の熱狂に包まれる彼女を、帝は牛車の中からひっそりと覗いていた。

「どうか無事であれ」と、ただ祈ることしかできず、もし彼女が危険を嫌がるなら、任を解くつもりでいたほどだった。

 だが、こうして無事に帰ってきた姿を目にして、帝の胸は安堵と喜びで満ちあふれていた。


 杯を重ねる武士たちの声が響く中、帝は盃を置き、玉藻のほうへと歩み寄る。


 御簾ごしにしか声を聞いたことのなかった帝――

 その御方が、玉藻の目の前に立っていた。


「玉藻。よくぞ戻った。汝の功、わしは忘れぬ」


 その声は、以前、御簾の奥から耳にしたはずなのに、間近で聞くとまるで別のもののように胸に響いた。


 帝は、玉藻へと歩み寄った。低く、けれども熱を帯びた声で言葉を紡ぎ出す。


「玉藻……そなたの姿は、月よりも美しい。私は国を治める者。しかし、この胸の内を治めることはできぬ……」


 愛を語ろうとする帝の姿に、脇で控えていた安倍泰親は内心ヤキモキしていた。


(くそっ、玉藻殿に先に目をつけたのは、この私だ。帝が相手だからといって……譲るわけにはいかん!)


 帝が玉藻の手に触れようとした瞬間、

 サクラはピクリと耳を立て、飛び出す間合いをはかった。


(ご主人の一大事っす。帝だろうが何だろうが、噛みついてやる!)


 その気迫に、御簾の陰の女官たちが息を呑む。


 一方、頼光と四天王も剣呑な目を交わしていた。

「玉藻殿は我らにとって孫も同然」

「陰謀渦巻く宮中に囚われ、寵姫などにされてなるものか」


 彼らの言葉は低く、しかし鋼のような決意がこもっていた。


 安倍泰親は内心で歯を食いしばる。

(なんと、みな同じ思いか……。だが、誰にも玉藻殿は渡さん!)


 帝を中心に、玉藻をめぐる視線と想いが火花を散らし、

 御殿はひそかに戦場と化していた。


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