13
両親が相次いで亡くなり、天涯孤独になった前田玉藻。飼い犬のサクラが道に飛び出したので助けようとして、トラックにはねられた。そこで神様に会う。九尾の狐が帝をたぶらかして国に災いを起こすのを防げば、再び現世に戻れるという。目が覚めると、九尾の狐に転生していた。これって楽勝じゃない。
酒呑童子の首を抱え、凱旋の道を進む頼光一行。
しかし大江山を下り、老ノ坂峠に差しかかったときだった。
「うっ……?」
酒呑童子の首が、突然ずしりと重くなった。
まるで鉛の塊のように、誰一人として持ち上げることができない。
「いかなる妖術か……」
頼光が眉をひそめる。
安倍泰親が呪文を唱え、首を探る。
「……妖術ではない。ただ、ここを動くまいとしているようだ」
玉藻がそっと呟いた。
「この地を最後の眠りの場と望んでいるのかもしれません」
皆がその言葉に皆うなずき、酒呑童子の首を土に埋めた。安倍泰親が経を唱えていると、不意に地中から低い声が響いた。
――われ、この世にて多くの人を害した。罪深き身、地獄に堕ちるを免れぬ。されど願わくば、死して後は首より上の病に悩む者を救わん。
その声は、次第に風に溶けて消えていった。頼光らは顔を見合わせ、祈りを続けた。
サクラは首塚の前で手を合わせながら、ぽつりと言った。
「この場所……『首塚大明神』って呼ばれて、あたしらのいた時代でも信仰されてるっすよ。首から上の病に効く神さまとして、みんな拝みに来るんす」
玉藻はしばし黙って首塚を見つめ、静かに目を伏せた。
「そう……なら、童子も救われるのかしらね。これで良かったのかしら……」
風が峠を渡り、松葉をざわめかせた。サクラの隣では狼がゆるりと尾を振り、彼女たちの足元を守るように座り込んでいた。
玉藻
「……サクラ、この狼は?まさか……」
サクラは胸を張った。
「鬼の館でつながれてたっしょ?助けてあげたら、恩を返すまではうちのそばを離れんって」
大江山から戻った一行が都に入ると、京の町は歓声に包まれた。
「おお、頼光様だ!」「鬼を討ち果たした英雄だ!」
群衆が押し寄せ、花びらを投げ、声を枯らして叫ぶ。
救い出された姫君たちの中には、帝の親族や高位の貴族の娘も多く含まれていた。
そのため喜びはひとしおで、民衆も官人もこぞって道に並び、拍手と喝采で迎えた。
頼光と四天王はすでに女装を解いていたが、妖術でその姿は実際以上に凛々しく映り、武勇の誉れをいっそう高めていた。
安倍泰親は元より容姿端麗で、そのままで人々の視線をさらい、声をかける女房衆も少なくなかった。
だが、誰よりも人気を集めたのは――玉藻と、その傍らのサクラであった。
玉藻の気品ある美貌はひときわ際立ち、都の女たちでさえ思わず息をのむ。
一方、可憐な姿のサクラは、あどけなさと凛とした強さを併せ持ち、童たちの憧れの的となった。
そして、その横に寄り添う一頭の狼。
金色に輝く琥珀の瞳は、人の群れを射抜くように冷ややかで、それでいてどこか神々しい。
人々は口々に「大神の化身にちがいない」と囁き、畏敬の念を込めてひれ伏した。
都大路を進む凱旋の行列は、熱狂する人々の歓声で埋め尽くされていた。
頼光や四天王は胸を張り、誇らしげにその声援に応じている。
しかし――。
その列の中にいる玉藻は、どこか落ち着かない気持ちでいた。
(わたしは特に何もしてない。妖術で少し助けただけ。それなのに、こんなに注目を浴びるなんて……目立ちすぎる)
うつむきかけた玉藻の横で、サクラが無邪気に笑った。
「玉藻様、ごちゃごちゃ考えないで、今を楽しむっす! せっかくの英雄扱いなんだから!」
玉藻は思わず吹き出しそうになる。
(……ほんと、サクラには救われるわね)
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