12
両親が相次いで亡くなり、天涯孤独になった前田玉藻。飼い犬のサクラが道に飛び出したので助けようとして、トラックにはねられた。そこで神様に会う。九尾の狐が帝をたぶらかして国に災いを起こすのを防げば、再び現世に戻れるという。目が覚めると、九尾の狐に転生していた。これって楽勝じゃない。
酒呑童子
「うむ……よき酒よ! まことに心が和む。……よかろう、嬉しさに免じて、わしのことを語ってやろう。
わしの生まれは越後の国――幼き頃は山寺に育てられ、経を唱え、鐘の音に囲まれて過ごした」
鬼たちが「へえ」とどよめき、盃を掲げて聞き入る。
茨木童子
「親分が寺育ちだったなんて、世も末だ」
玉藻
「寺育ちがどうして鬼に……」
酒呑童子
「わしは昔は、絶世の美少年と呼ばれておった。恋文など山のように届いたもんだ。しかし……わしは一つとして読まなんだ。……焚いてしもうたのだ。
すると……想いを届けられぬ女どもの心が煙となり、わしを取り巻いた。その怨念が、わしを鬼へと変えた。
気づけば人の世に居場所はなく……山から山へ彷徨い、大江山へ辿りついたのよ」
場が、しんと静まり返る。
玉藻「……この鬼が美少年だったなんて。信じられない……。
ていうか、恋心ってこわい……。煙になって鬼にしちゃうなんて」
渡辺綱
「いや、でも……もし読んでやってたら、歴史も変わってたかもしれんぞ」
玉藻は盃を手に、つぶやく。
「私も恋文、たくさんもらってるのよね。都に帰ったら、ちゃんと読まなくちゃ。サクラに代筆もお願いして……」
サクラは元気よく尾を振る。
「任せとけっす! 玉藻様の和歌、都の貴族にバッチリ届くっすよ」
玉藻は盃を手に、宴の様子を眺める。
源頼光と四天王――渡辺綱、坂田金時、碓井貞光、卜部季武――も、鬼どもと旧知の仲のように、にこやかに酒を酌み交わしていた。
「……あの鬼から出された肉は……おそらく、人肉……?」
目の前で盃を重ねる酒は、見るからに濃い赤――生血なのだろう。
サクラがしっぽを揺らす横で、玉藻は思わず眉をひそめた。
「……あの人たち、よくこんなものを平然と飲み食いできるわね……」
だがその表情には、わずかに驚きと尊敬も混じっていた。
「経験と胆力……度胸いや、鈍感力……」
玉藻は唇を薄く結び、改めて頼光たちの度胸を認めた。
一方、サクラは何も考えずに「わたしなら絶対イヤっす」とつぶやくのだった。
しばらく酒を飲んでいくうちに、酒呑童子の瞳がわずかに揺らぐ。
「……む?」
続いて茨木童子やその他の鬼たちも、盃を置く手が止まる。
「……眠……い……」
見る見るうちに、宴の場にいた鬼たちは床に崩れ、動かなくなった。
頼光はにやりと笑う。
「ふふ、神変奇特酒――効いたようだな」
玉藻はサクラを見て、軽やかにほほえむ。
「ふふ、よし、これで安全に救出作戦ができるわね」
サクラ
「玉藻様! いよいよ本番っすね!」
酒の香と静寂の中、倒れた鬼たちを前に、一行の緊張感が次の瞬間へとつながる。
玉藻とサクラは、奥へと続く岩窟を進む。
そこには、縛られたまま怯える姫君や女房たちが、数十人も監禁されていた。
「大丈夫よ、私たちが助ける」
玉藻が鍵を妖術で溶かし、サクラは優しく女たちの縄を解いてゆく。
涙ながらに「ありがとうございます……!」と声があがる。
一方、宴の間に残った源頼光と四天王。
彼らは脇に置いていた宝剣を手に取った。
錦包藤巻の太刀――それは、神仏より授けられし鬼退治専用の神器。
頼光が刀を抜くと、鬼たちの首領・酒呑童子の巨体が、まだ酔いつぶれて横たわっていた。
「これまで幾多の人を喰らい、泣かせてきた因果……ここで終わらせる!」
渾身の一太刀が振り下ろされる。
ゴトリ、と重い音を立てて、鬼の首が落ちた。
血潮は噴き出さず、まるで炎のように赤い靄となって霧散していった。
首を落とされたはずの酒呑童子。
しかしその巨体はなお、最後の力を振り絞った。
切り離された鬼の首が空を舞い、源頼光の腕に食らいつく。
「ぐっ……!」
頼光の腕が引きちぎられそうになる。
四天王が慌てて太刀を突き立て、ようやく首は動きを止めた。
その口から、まだ怨嗟の声が響く。
「……酒で酔わせ、寝込みを襲い……卑劣なること、鬼でもせぬ……!」
「鬼に横道はない。正面から挑み、正面から斬る。それが鬼よ……!」
怒りとも、哀しみともつかぬ声が、響き渡る。
頼光は苦渋に満ちた表情で答える。
「……それでも、人を喰らう鬼を野放しにはできぬ。これが我ら人の道よ」
そして太刀を振り下ろし、鬼の首は完全に沈黙した。
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