13 茶髪ロングおっとり清楚な癒し系口元ホクロ美爆乳パーソナルトレーナー養護教諭・包容力たっぷり年上お姉さんと保健室で……
保健室に到着すると、石鹸系の匂いが鼻腔を満たした。
「あらぁ? 柊木くん?」
「失礼します、癒月先生」
「どうしたの? 先生に会いに来てくれたの?」
「はい。かすり傷なんですが、診てもらうよう言われて──」
「もうっ、そういうことじゃないのに〜。いけずなんだから。でも、あらあら。そういうことなら、ちょっと診てみましょうね?」
「すみません。よろしくお願いします」
後ろ手に引き戸をスライドさせて、保健室の敷居を完全に跨ぐ。
途端に強まるのは、部屋全体に広がる清潔な香りと清楚な女性の香り。
九十九坂学園保健室の養護教諭は、白衣を翻して棚から救急箱を取り出す。
「よい、しょっ。ハイ、そこ座って?」
「これですか?」
「そうよ〜。かすり傷って、今日はどこをケガしたの?」
「手のひらです」
「転びでもしたのかしら?」
「いえ。えっと、強く握り込んじゃった拍子に爪で……」
「まぁ。爪はちゃんと切っておかなきゃダメよ?」
って、あら?
と、癒月先生はそこで首を傾げる。
処置台を挟んで真向かいに腰を下ろして、台に乗っかった僕の腕と手のひらを見下ろして。
「どの指も、深爪気味ね?」
「だから、かすり傷で済んだのかもしれないです」
「なるほど〜? まぁいいわ。軽く消毒して、絆創膏でも貼っておきましょう。ハイ、プシュー♡」
「ア、イテッ!」
「染みるわよ〜? ガマンしなさ〜い?」
「いやそれ、言うのがちょっと遅くないですか? 癒月先生……」
「うふふ。だってぇ、男の子がガマンしてるときの顔って、とっても好きなんだも〜ん♡」
「……それは知ってますけど」
「あは♡ ごめんなさいっ♡」
消毒液を片手に、お茶目にニコッと微笑む美人養護教諭。
仮にも教師と生徒の間柄で、今のは少々不適切に思われる発言がはみ出てしまっていたが、この女性は僕とふたりきりの時いつもこうだ。
天之川癒月。天之川優雨の姉。
彼女の属性は、茶髪ロング。おっとりタレ目。天然いやらし癒し系どちゃくそボディ。天然ママ顔お姉さん。口元にほくろ。清楚系。甘やかし屋。美しすぎる養護教諭。保健室の先生。女医系。白衣の天使。健康診断・身体測定・体組成計フェチ。パーソナルトレーナー。スポーツインストラクター。無自覚サキュバス。Sの気あり。添い寝&豚骨ラーメン好き。シャツミニワンピース。
年齢はたしか、今年で二十四歳。
僕は癒月先生と呼んでいる。
そして、もうお分かりだろう。
九十九坂における僕のメディカルチェックやヘルスケア、特に運動サポートを請け負ってくれているパーソナルトレーナーとは、実はこのひとなのである。
普段はこうして保健医として働きながら、それ以外の時間では、僕専属パーソナルトレーナーとしても働いている女性で、必然、私生活での繋がりも多い。
ある時は癒月先生の自宅で。
またある時は、新都にあるジムを貸し切りで。
日々の健康記録を報告するため、携帯端末を利用してのチャットでも毎晩やり取りを重ねている。
天之川さんとは、そうした日々の繰り返しのなかで仲良くなった。
癒月先生の自宅でトレーニングをする日は、だいたい彼女もいるんだ。
同居しているワケじゃなくて、癒月先生は新都で一人暮らし。独立しているにもかかわらず。
ともあれ、姉妹そろって女医・看護師系の属性であり、僕のさまざまな数値は常に彼女たちに把握されていると言っても過言ではない。
その証拠に、僕はいまも左手首にバンドを巻いている。
アプリ連動型遠隔心音確認バンド。
去年、天之川さん──優雨さんからもらった誕生日プレゼントだ。ハートマークゴリゴリピンク色。最初はオッモ……! と思ったけど、今では慣れたよね。
姉だけじゃなく、妹のほうにまで数値を把握されていると言った理由は、これだけでも分かってもらえるでしょ?
ちなみに癒月先生には、自動で記録が送信される体組成計を最初にプレゼントされた。それは今でもフル活用されている。
なので……
「ねえ、柊木くん」
「……なんですか、癒月先生?」
「ちょうどいいから、体組成計乗ろっか♡」
「今朝もちゃんと、乗りましたよね……?」
「もう夕方だも〜ん。それに、どうせここには優雨ちゃんに言われて来たんでしょ〜?」
「まぁ、そうですけど……」
「このくらいのかすり傷なら、いくら優雨ちゃんでもわざわざ保健室に行かせたりしないわよ〜。柊木くん、他にも良くないところ、あるんじゃなぁい?」
「……なるほど。分かりました」
「そうこなくっちゃ♡」
体組成計に乗っても、分かるのは体脂肪率や筋肉量、骨格筋率とかなのだが、癒月先生はすでに巻き尺まで片手にしている。
体組成計の曖昧なざっくり測定だけではなく、実際にメジャーを使ってさまざまなところを測るつもりに違いない。
他にも、体温計、聴診器、血圧計など。
僕が頷いた瞬間、瞬く間に準備が行われていく。鼻唄と舌なめずり混じりに。えろぉ……
(癒月先生とって、もはや身体測定・健康診断・体組成計絡みの数値は性癖の領域だからなぁ……)
時給まで発生して、年下の男の子のカラダをあっちゃこっちゃできる。
以前、「天職だわ♡」と言っていたのも記憶に新しい。
そういう内心をストレートに打ち明けられた側が、いったいどんな気持ちになると思っているんだろうね?
「はぁい、それじゃ測っていくわね〜?」
おっとりタレ目の清楚美人。
白衣の内側にはタイトな白シャツワンピース。
そのさらに内側に、あまりに凶暴に実った聖域の果実がふたつ。
胸元周りのボタンはギチギチと引っ張られて、本当は開けておいたほうが楽に違いない。
だけど、癒月先生は基本的に清楚なので、ボタンはどこまでもマジメに守備力高め。
ボタンを全部外したら、二枚目の白衣みたいに真っ直ぐ正中線のラインを全開放できてしまう服装だけど、その袷が解禁されることはまず無いのだ。
いろいろ数値を計測されながら、僕は「白ならなんでも清楚ってワケじゃないんだぞ」「カラダつきが毎度のことながらサキュバスすぎる」と心中穏やかではいられなかった。
思えば保健室に足を運んでしまえば、こうなることは分かっていたはずなのに……今日の僕はやっぱり正常な判断力を欠いてしまっている。
シャツワンピースのボタンの隙間が、全部いやらしい穴に見えてくる……そうじゃないだろッ、柊木柚子太郎!
「ッ……」
「ふんふふーん♪」
密かに舌を噛み、気合いを入れ直した。
誘惑に負けちゃいけない。逆に誘惑しなきゃダメだ。
僕の理想は、あの日みた最強の益荒雄。そそり立ちいきり勃つデカ魔羅チンポ。
真の漢ならば、本当に力を奮い立たせるべき時は弁えているもの。今はその時じゃない。なあ、そうだろう?
(くぅん)
性欲は哀れを誘う声で鳴いた。
僕は僕のなかに、そのとき真っ黒な痩せイヌが赤い眼を濡らしているのを幻視するようだった。
我は汝、汝は我……
そうこうしていると、癒月先生の趣味はいつの間にか終わっていたらしい。
「はぁい。測り終わったわ。特に気になる点はなかったけど、強いて言えば体温が少し高かったのと、いつもよりちょっぴりボーっとしてたかしらね?」
「──え? あ、終わりですか」
「あらあら。訂正するわ? いつもより結構ボーっとしてるわね」
「そうですか……?」
「冷たい麦茶あげる。あと、氷枕も」
「えっ」
驚くこちらに、癒月先生は冷蔵庫からペットボトルの麦茶を取り出すと、コップに注いで「はい、飲んで?」と手渡してきた。
思わず受け取ってしまうと、すぐに冷凍庫に向かって今度は氷枕を。
棚から白タオルを出してきて、巻き巻きし始める。
「僕、熱は無かったですよね……?」
「んー……たしかに、微熱とも言えない感じだったけど、熱中症の初期症状かもしれないから念のためよ〜?」
「でも、もうすぐ下校時刻ですし……」
「だーめ。い・い・か・ら。ベッドで横になりなさい? お家のひとには連絡しておくし、暗くなったら先生が送って行ってあげるから」
「過保護すぎる……」
「かもしれないわね? でも、男の子にはこれくらい当然だから言う通りにしなさい」
「……いや、でも」
さすがに帰るのまで遅れるのは、乳神家の三人にものすごく心配をかけてしまう。
ミク姉には夜通し「はわわ……!」状態で布団のそばを離れず面倒を見られかねないし、マコ姉には「明日は大事をとって休まなきゃダメよ〜!」と騒がれかねない。
宝香さんにはきっと、ショックを与えてしまう。
僕の保護者として一番責任感を持っているのは、宝香さんだ。
(なのにその実情が、性的に興奮しすぎて頭が茹だって寝込んでました、なんて……)
うん。やっぱりどう考えても大騒ぎするような話じゃない。
僕が「このくらい、普通に帰れますよ」と、麦茶をテーブルに置いて、保健室の出入り口へ爪先を向けた瞬間だった。
不意に手を握られた。
「癒月先生……?」
「……」
ムッ、とだんまり。
そしてそのまま、癒月先生はベッドのカーテンを開けて、僕の腕を奥へと引き込んでいく。
だが僕のほうが体重は重いし力は強い。
こちらが立ち止まると、癒月先生は僕を引っ張りきれずに立ち止まるしかない。
ムスッ、とした顔が再び僕のほうを向いて、手をニギニギ♡ した。
かと思うと、
「ちょっと? いつまでそこに立ってるの? ……いいから、早くベッド行きましょ?」
「……うっわマジか」
一歩、力が抜けてベッドに。
カーテンの内側、シャッ、と布が閉められる。
薄暗い。
癒月先生は手を握ったまま、まずは右の袖から白衣を脱いだ。
右腕の素肌が、二の腕まで露わになった。
続いて、今度は逆の腕で手を握り直し、癒月先生は左の袖も脱いでいく。
ノースリーブ。
腕を上げたら腋から腋乳が覗く。
想定外の光景に固まる僕。
ミルクティーブラウンの長髪が揺れ、石鹸系の匂いがさらに強まっただろうか。
丁寧に折り畳まれていく白衣は、手近な位置にあったパイプ椅子の背もたれに引っ掛けられた。
癒月先生はベッドに、白いシーツがかけられたマットレスに腰を下ろす。
そして前屈みになって、シャツワンピースの胸元にわずかだけれどたしかなゆとりが生まれ、
(……!)
おっぱいのホクロ。
気のせいでなければ、右乳の谷間側上らへんに、セクシーなホクロがあった。
大人の女性が見せる隙。
癒月先生は指先を使ってヒールから踵を脱がし、再び上体を起こすと深くベッドに腰を滑らせた。
組んだ両足をブラブラさせて、空いている片手で隣をポンポン。
眉を下げて、悲しそうに
「……まだ、来てくれないの?」
「行きます」
(ハッ!? 僕は何を言って……!?)
まるで催眠術かと思った。
気がついた時にはカラダと口が勝手に動き、僕は癒月先生の隣に腰を下ろしてしまう。
だがそれも、仕方がないのかもしれない……
天之川癒月は、普通の学校だったら間違いなく男子生徒全員の憧れになっている養護教諭だ……
僕が隣に腰掛けると、美しすぎる保健医は嬉しそうに「うふふ」と笑って、すぐに肩に触れてきた。
バカな。抗えない。倒される。カラダが斜めに曲がり、視界に天井が入り込むっ!
ベッドのサイズは、セミシングルかシングル……
大人ひとりが横たわれば、ふたり目の横たわれる余裕は少ししかない……
なのに、僕は不思議と窮屈には感じなかった。
癒月先生が、僕の上で膝を開いて腰にまたがり、覆い被さるような体勢で両手を着いていたからだ。
「うふふ……いい子いい子♡」
しどけなく頬にかかる女性の髪。
それを耳に掻き上げられ、シャツワンピースの袷の隙間からふと水色の布地が見える。
ボタンが、いつの間にかひとつ外れていた。
お椀型でぷっくりふわふわドデカおっぱいと、それを包み込む水色清楚下着。
ギシリ、ギシリ……
パイプベッドの軋む音。
顔を見上げれば、口元にエッチなホクロがあり。
目線を少し下げれば、胸元にエッチなホクロがある。
癒月先生も、こちらの視線に気づいた。
「もぉ〜、どこ見てるの?」
「だって、ボタンが外れてるから……」
「え? ……あ、あら……もう、勝手に見ちゃダメでしょ? 目、閉じて?」
「……」
「あ〜、閉じないつもり? そういう悪い子には、こうしちゃうんだからっ」
「あっ、ちょ……」
タオルで巻かれた氷枕を、目元に被せられた。
何も見えない。目蓋が冷たい。
反射的に、どかす。
すると、
「はぁい、残念でしたぁ♡」
癒月先生はすでに僕の上にはいなくて、左にいた。
添い寝。
同じ枕の上に頭を乗っけて、顔の向きを変えたら鼻先がぶつかりそうなほど。
それはつまり、鼻よりも突き出てしまっている女性特有の丸みが、明らかにこちら側にくっついている証拠で。
左側の二の腕が、シャツワンピース越しに癒月先生の体温を教えてくれていた。
外れたボタンのあたりを、癒月先生はギュッと押さえ込んで隠している。えっちだ……
「まだ見ようとするの? じゃあ、もう絶対見えなくしちゃおうかしら♡」
「っ」
ブランケットが、ふたりのカラダを覆う。
「外は暑いけど、ここはエアコンが他より効いてて涼しいから、薄着になると肌寒いくらいよね?」
「寒いんですか? 癒月先生……」
「ボタンも外れちゃったし、すこぉしスースーしてきたかも……」
「もっと、くっついたほうが温かいかもしれませんね……」
「こーらっ、だーめっ」
「……」
「私だって、ツラいのよ? でもいまは、柊木くん安静させなきゃだし……いろいろ、社会的にね?」
「……」
「だから、今はこれでガマンガマン♡ おいで?」
「……えっ?」
「癒月が抱きしめてあげる。一緒にガマン、しよ♡」
ブランケットの中、暗がり。
包容力いっぱいたっぷりおっぱいの真ん中に、顔を抱き込まれた。
狭いベッドの真ん中で、僕と癒月先生は向き合うように横になり、後頭部を優しく撫でられる。
「いつもたくさんガマンしてて、えらいえらい♡ 今日は癒月も、一緒にガマンするからね♡」
「……」
熱中症の初期症状というのは、建前だったのかもしれない。
癒月先生は本当は、僕のメンタルケアが目的で、男の苦しみにも理解があるから、その苦痛を少しでも癒せればとこんなふうにしてくれるのかも。
(……かなわないな)
チンコはイライラして仕方ないけど。
それでも、ああ──
今はこの包容力に、全力で溺れたい。