12 茶髪セミロングおっとり癒し系ナース美少女小悪魔・同級生で保健委員の天然娘と熱中症の看護
勃起が鎮まるまで、十分はかかった。
結局、蜜峰さんは恥ずかしさと照れが勝ったみたいで、あの後すぐに「じゃあねっ!」と背中を見せた。
残された僕はコンクリートの床にうずくまり、「ァァ……クソ」と頭を抱えた。
立ち上がるのに、時間が必要だったからだ。いや、ある意味でずっと立ち上がってはいたんだけども、そういう意味じゃなくて普通に。
「久しぶりに、とことんダメな日が来ちゃったな……」
今日はさっさと帰って、シコって寝る。
一度ヒビの入ったタガを修復するには、もはやそれしかない。
問題は帰宅した後で、ひとりになれる時間があるかどうかだけど、乳神邸での生活も長い。
お風呂だ。
大浴場で裸になると同時に、ゴソゴソ済ませてしまえばいい。水で流せば証拠も隠滅できる。
そうと決まれば、早いとこ下駄箱へ。
勃起が鎮まったのを確認し、僕は「よし」と立ち上がった。
「あ、あれ……?」
クラリ、と立ちくらみ。
急に立ち上がったせいで、眩暈に襲われる。
幸い、すぐに壁に手をついて転倒は免れた。
しばらく様子を見て、フラフラした足に再度力が入っていくのを確認。
「あぶな……興奮しすぎだ、僕……」
血流が下半身に集中していたため、脳に回る血が足りていないようだ。
ムラムラしすぎて倒れるとか、まるでマンガの童貞みたいだった。
情けない。
こんなんじゃ、まだまだ理想のオスには程遠い。
(あれ? でも……)
思えば、僕が理想としている完全上位雄って、女性慣れしてなきゃなれなくないか?
つまりこの世界で、僕が本当の意味で理想に到達するなら……法律を破る必要がないか?
いや待て、今の僕は冷静な判断力があるとは言い難い。
落ち着いて、シコってから考え直そう……そう。シコった後でもキスがしたかったら恋。でもシコった後だとIQが下がっているから、賢者タイムって実はノー賢者タイム。じゃあダメじゃん。シコって寝て、明日また考え直せ。
胡乱な思考を引きずって、フラフラと校舎の廊下を歩いた。
「わっ、すいませんっ! ……って、柊木さん?」
「……やあ、天之川さん」
そうしていると、曲がり角に差し掛かったところで、またもや同級生の女子と出会った。
廊下の曲がり角でぶつかりかけたので、相手に大事がないか確認する。
「ごめん。大丈夫? 痛くなかった?」
「え? やだぁ、柊木さん。そんな交通事故みたいにはぶつかってないですよぉ?」
「……無事みたいだね。よかった」
「は〜い、私は無事で〜す。でも、柊木さんは無事じゃぁ……ないみたいですねぇ?」
「え?」
「よく見たら、なんだかすごくフラフラしていますよぉ……体調は大丈夫そぉですかぁ?」
すこぉし失礼しますね〜、と。
どこか間延びした感じの声音で、天之川さんは僕のおでこに手を伸ばす。
ピトッと、冷たい指先が触れた。冷え性なのかもしれない。
「むむ〜? 柊木さん?」
「はい」
「これはちょっと、熱があるかもしれませんね〜」
「風邪は、引いてないはずだよ」
「では、熱中症でしょうかぁ? 飲み物はお持ちですかぁ?」
「水筒にルイボス「今すぐ飲んでください」あ、はい」
セリフを被せられてまで、水分補給を指示されてしまった。
たしかに、喉は乾いている。
すっかりカラカラだったので、カバンから水筒を取り出してゴクゴクとルイボスティーを飲んだ。
「んっ、んっ、はぁ……」
「はい、よくできましたね?」
「僕のこと、幼稚園児か何かだと思ってない……?」
「んー。体調が悪い方は、えてして幼稚園児みたいにお世話されるものだと思いまぁす」
「うん。一理ある……」
「ええ。つまり、柊木さんが私に幼稚園児扱いをされてもし不服だとしても、それは私にお世話される隙を見せちゃった柊木さんの責任ですからぁ」
「そうかな……? そうかも……」
「ふふふ♡」
おっとりと微笑を浮かべる同級生。
天之川優雨。
彼女の属性は、セミロングの茶髪。おっとりタレ目(糸目がち)。天然いやらし癒し系。ふんわりボディのふわふわスキン。天然ママフェイス。同級生。保健委員。将来の夢は男性専門の看護師さん。健康管理願望。お世話好き。間延びボイス。ぽわぽわ。成績優秀。運動音痴。無自覚小悪魔。ナース服。元チアリーディング部。避暑地の渓流でライフセーバーのバイトをしてる噂。
放課後になると、保健委員の活動で看護服に着替え、九十九坂学園OGの現職ナースさんなどから特別講習を受けたりしているようだ。
委員会の活動もラティ先輩の家庭科部と同じで、この世界では特有の変化を起こしているからね。
現に今も、天之川さんは制服ではなくナース服だった。
クラスではその性格と特徴から、よく優雨ママって呼ばれて親しまれている。
本人はそれを「私、老け顔なんでしょうかぁ……」と地味に気にしているらしいけど、僕を含めほか大多数の意見としては、単に天之川さんの顔がおっとりタレ目系のママキャラみたいに見えるからである。
マンガとかアニメによくある、ヒロインを少し大人っぽくして爆乳にしたキャラデザのママキャラ。本当に、二次元から出てきたみたいで困る……
ギャルが多い九十九坂学園では、比較的陽キャ寄りの中間層にいる感じかな。
そして実は、僕と天之川さんにはちょっとした繋がりがあったりする。まぁ、それは今は置いておくとして。
「……天之川さん」
「はぁい?」
「委員会の活動は、終わったの?」
「いいえぇ?」
「えっと、それじゃどうして……」
僕の行く手に立ち塞がるように、カラダの位置を変えるのだろう。
右にズレれば同じく右に。左にズレれば同じく左に。
僕は間違いなく、廊下を通せんぼされていた。
「なぜに?」
「まあ、不思議なんですかぁ? 柊木さんは困ったひとですねぇ」
「たしかに、現在進行形で困ってはいるよね……」
「それはそうでしょう、そうでしょう。そんなにフラフラでは、さぞかしお困りかとぉ」
話がビミョーに別ベクトルに解釈される。天然だ。
言っておくけど、僕はそんなにフラフラしてない。
女の子の前ではいつ如何なる時も、頼れる男でいようとシャキッとしているつもりだ。
胸を張って、背筋を伸ばして、仁王立ち。アイ・アム・メェン。
「あ〜、いま無理しましたねぇ?」
「無理? してないしてない」
「ダメですよぉ、柊木さん。諦めて、少し休みましょう」
「でも、天之川さん保健委員で忙しいんじゃ……」
「そ・れ・よ・り・も、とぉ〜っても大事なお仕事が見つかったので、だいじょぉぶで〜す」
「大事な、仕事……」
「はぁい。柊木さんのお世話をしまぁす♡」
「僕の? 僕なら、言われた通り水分も取ったし大丈夫だよ……」
「そう思うのは本人ばかり〜。まだ顔色も悪いですから、黙って私にお世話されてくださぁい」
「あ、ちょっと……なにっ、するのさ……」
天之川さんはスルりと僕の背後に回ると、カクンと膝カックンして来た。
なんてこった。僕はカッコ悪くも、あっさり床に膝を着いてしまう。
バランスが崩れ、咄嗟に壁に手を着きながらズルズル。
「おっとっとぉ〜。はぁい、しばらく座ったまま、楽になりましょぉね?」
「天之川さん……」
「はぁい?」
「意外と、強引だよね……こんな廊下で……」
「柊木さんが熱中症を甘く見てそうなのが、いけないと思いまぁす」
それは……そうか。
僕の意識では、これは性欲由来の目眩や立ちくらみだったワケだけど、興奮して体温が高まり過ぎても、普通に健康の害になり得る。
さっきまで僕は、陽射しの届く外にいたワケだし。
変わりやすい天気と季節の変わり目。
体調を崩しやすい条件は客観的にも揃っている。
天之川さんが僕を本気で心配してしまっても、仕方のない状況ではあった。
(──でもこれ、今の僕には逆効果なんじゃないかなぁ……)
バランスを崩した僕の背中に、ヒンヤリとした冷たいカラダが、ふわふわっ♡ とぶつかる。
天之川さんは後ろから僕の胸に手を回して、こちらが前に倒れないよう支え込みながら、「よいしょっ、よいしょっ」と壁際に。実質バックハグ。
指先だけじゃなく胴体まで冷たいのは、恐らく少し前までクーラーの効いた部屋にいたからかもしれない。
何にせよ、先ほどまでとはまた違った気持ち良さの伴う新しい刺激に、僕の睾丸はまたしても男性ホルモンを分泌しだした。甘勃起。
しかも、天之川さんは運動音痴なので、男子の体重なんかとてもじゃないが扱い切れない。
頑張って僕を壁際に引っ張ることは出来たみたいだけど、そのまま自分まで壁と僕の間に挟まってしまっていた。
「ふ、ふぅ〜。疲れちゃいました〜」
「天之川さん……重いでしょ? 僕どくから……手、離していいよ?」
「む〜? ダメでぇす。柊木さん、そう言ってまた無理するつもりですねぇ? もう少し顔色が良くなるまで、ぜ〜ったい、離してあげませんよぉ」
「でもそれじゃぁ……天之川さんが潰れちゃわない……?」
「大丈夫ですよぉ。私、クッションがありますから〜」
「……クッション……?」
そんなの、さっき持ってたっけ?
たしかに背中に、クッションみたいに柔らかいおっぱいの感触はあるけども……
「もしかして、自分の胸のこと……?」
「あ、分かっちゃいましたかぁ。そぉでぇす♡ 私のクッション、いかがですか〜?」
「………………柔らかい、ね」
「枕にしていいですよぉ?」
マジかよ……結構勇気を奮って攻めた感想をブチカマしてみたのに、天之川さんは僕の頭を、自身の胸の上に乗っかるようズリズリ♡ 移動させた。
後頭部が天国みたいだ。なにこの枕。人生の三分の一を捧げるのに相応しすぎる……舌を噛みすぎて永眠したら、さすがに迷惑だよね。
僕はグサァ、と手のひらに四指の爪を食い込ませた。
「ふふふ♡ 柊木さん?」
「ん?」
「緊張しちゃうのは嬉しいですけどぉ、楽にしててくださぁい♡」
「めっちゃ難しいこと言うし……」
さすが、天之川さん。
日頃から男の健康や身体に関して、熱心に勉強しているだけある。
もしかすると、みるふぃ先輩より強いかもしれない。
今の体勢だと、チンコがフル勃ちしたら完全にバレる。
何としてでも気を逸らさないと……
「ふぅ〜♡」
「! 天之川さん……?」
そんな僕の首元に、突然、天之川さんが息を吹きかけて来た。
「なにを……急に……?」
「ん〜……柊木さんのカラダ、とぉってもアツいのでぇ、私が冷ましてあげようかなぁ? って♡」
「そんな……スープとかじゃないんだから……」
「でもぉ、いまは両手が塞がってますからぁ、ふぅ〜♡ ふぅ〜♡ って、するしかなくないですか〜?」
天之川さんはこちらの胸板の上で、わざとなのか無意識なのか、ピトっ♡ ピトっ♡ と手を置き直す。
ちょっとした身動ぎで、後頭部を優しく包み込む乳枕がふわぁ♡ ふわぁ♡ と癒し効果の高い感触を伝えてくる。
挙げ句の果てには、
「柊木さん?」
「なに?」
「いまは人通りも少ないですしぃ、もし」
ガ・マ・ン♡
「できなかったら、無理しなくていいですからね〜?」
「……なんの?」
「だ・か・らぁ……男の子の生理的反応♡ のことですよぉ。もぉ〜、女の子になに言わせるんですかぁ〜?」
「……」
「私、勉強しましたからぁ♡ 男の子はぁ、こういうふうにカラダがちょぉっと弱っちゃってる状態だとぉ──」
そこからは超至近距離で、僕にだけ聞こえるよう囁き声で言われた。
「あそこが、元気に♡ なっちゃうって」
疲れマラのことまで、知ってるのかよ……
僕の疲れマラを目の当たりにして、どうするつもりなんだ……?
「それともぉ、私みたいな老け顔女じゃ、ダメなんでしょぉかぁ〜?」
「あの、僕って熱中症かもしれないんだよね……?」
「そぉでぇす。ねっ、ちゅう、しょう♡」
「……僕を安静にさせるつもり、本当にあるの?」
「もちろん、ありますよぉ?」
「なら少し静かに……それと、天之川さんでダメとか、ありえないから……」
「! まぁ。まぁっ! ふふふ♡」
同級生の癒し系おっとり保健委員が、無自覚小悪魔な件について。
僕はもう、手のひらから出血してしまいそうだ。
いや、むしろ少しくらい血を流した方が、かえって冷静になれるのかな?
陰茎の苛立ちを、奥歯を噛み締めて堪えた。
幸い、天之川さんはそれからこちらの要望の通りに口をつぐみ続けてくれたので、だいたい十五分くらいは安静にできたけれども。
「はぁい。顔色、良くなりましたぁ」
「もう、行ってもいい?」
「ええ。でもそのまえに、手、血が出てそうですからぁ、保健室に行ってから、帰ってくださぁい。お姉ちゃんがきっと、綺麗に処置してくれますからねぇ〜」
「……うん。分かった」
手のひらの傷まで、見透かされてしまうなんて。
やっぱりあのひとの妹だ。
でも、このままただで終わってしまう僕じゃぁないぞ?
「天之川さん」
「はぁい?」
「ありがとう、心配してくれて」
「いいんですよぉ。柊木さんが好きでやってますからぁ」
「今度、天之川さんさえ良ければ、お礼させてもらうよ」
「お礼? ですかぁ?」
「うん。だって天之川さん──」
男のカラダに、興味あるんでしょ?
「……………………へっ?」
「じゃ、またね?」
僕はクルリと背中を向けて、保健室へ向かった。
自意識過剰なセリフに羞恥心がヤバいけど、悟られる前に立ち去ってしまえば問題なし。
最後に見れたドギマギ顔。
ああ、これぞ癒しのひととき。