初デート、ヒロインの暴走が止まらないんですけど!?
「空くん。日曜、空いてる?」
それは、金曜の昼休み。
学食で焼きそばパンをむさぼってる最中に、カレンから飛んできた一言だった。
「いや、まあ……別に空いてるけど……」
「じゃあ決まりだね!初デート!」
「いや、今の会話、YES or YESだった!?!?」
「うん、だってクラゲのキスシーン撮らなきゃでしょ?」
「誰がそんな義務課したの!?キスシーンって何!?」
「水族館でクラゲ見ながら、キスするって、私の中で決まってるの♡」
「法律か!?私の中の憲法第1条か!?」
「ちなみにクラゲが点滅するときがチャンスだよ?」
「ウインカーじゃねぇわ!!!」
こうして日曜、俺は全身から汗をにじませながら、水族館の入り口に立っていた。
隣には、白のワンピースを着たカレン。まじでヒロイン。どこから見てもラブコメの表紙。
だけど、これが現実だと思うと、心臓が胃袋に落ちた気分だ。
「でへへ……な、なんかその服……き、きれい、だね……」
「うん、わかってる♡ 空くんの“うっかり本音”いただきました〜♪」
「うわーあー今の無し!!全部カットしてくれ編集さん!!」
俺は緊張で手汗ビッシャビシャ、
カレンはクラゲゾーンまで一直線。
そして、その瞬間が来た。
──クラゲが、ふわふわと光った。
「今だね♡」
「ま、待って待って待って!!まだ心の準備が!!」
「空くん?」
「は、はい……?」
「目、閉じて♡」
──詰んだ。
逃げ場はない。光るクラゲと、迫る唇。
童貞、ここで戦死。
と思った、その時──
「……あ、ごめん。チケット落とした」
「ええええええええええええええ!?」
「手ぇ離したらスルッと……あ、あったあった」
「え、今の!え、キス未遂!?未遂で済んだ!?奇跡か!?」
「空くん、顔真っ赤だよ〜?♡」
「誰のせいだ!!お前だよお前!!!」
その後は普通に水族館デートを楽しんで、
帰り道、俺の心にはひとつの感情がずっと残っていた。
──俺、もう完全に、こいつのこと……
「なーんか、いいデートだったねぇ」
「……うん、まあ、悪くはなかったかな」
「えっ!? 今の“楽しかった”って意味!? 空くんがデレたぁぁぁぁぁ!!!」
「うるさい黙れ、気のせいだ!!!」
「よーし、次はイルミネーションでキスだな!」
「またキスか!?どんだけ実績解除したいんだよ!!!」
──この女といると、心が忙しい。
だけど、それが悪くないと思ってる自分がいるのも、たぶん本当だ。
──次回、「童貞、ついに告白。ヒロインの余裕顔が止まらない!?」
恋心が爆発する──空、恋愛童貞卒業なるか!?
だけどヒロインは「ふふ、やっとか♡」の顔で迎え撃つ──