この隣人、勝手に俺の元カノ名乗ってくるんですけど!?
一人暮らしに憧れた理由?
そりゃ決まってんだろ。自由だよ、自由!
深夜にラーメンを食おうが、パンツ一丁でアニメを観ようが、誰にも怒られない。
母ちゃんもいない、妹に風呂を先取りされることもない。
天国かよ、この生活。
俺の名前は芦屋空。大学二年。
部活もしてない、サークルも幽霊、恋愛も経験ゼロ。
いわゆる“モブ系男子”──の皮をかぶった、“いじられ系ツッコミ担当”である。
男友達からは「ノリがいい」「顔芸が豊富」「妙に声が通る」と評され、やたらとモテる。男から。
女子?無理。話しかけられただけで体温2度上がる。
そんな俺のささやかな幸せは──その日、唐突に崩壊した。
*
バイト帰り、スマホで動画観ながら玄関の鍵を回す。
靴を脱いで、スリッパに足を通した瞬間、鼻に届いたのは、スパイスの香り。
ん?なんだこの……めっちゃいい匂い……。
カレー? いや、俺カレー作った記憶ないぞ?
リビングの明かりはついてる。
あれ、おかしいな。出かける前に消したはず──
「おかえりなさ〜い、空くん♡」
──知らん女がいた。
「……え、え?」
まじで一瞬、自分が間違えて隣の部屋に入ったのかと思った。
でも違う。そこには俺のソファ。俺のちゃぶ台。
そして、俺の家でカレーを煮込んでいる見知らぬ美少女。
美人だった。めちゃくちゃ。
肩までの黒髪に白い肌、ほどよく整った顔立ち、スタイルも良い。
アニメのヒロインを実写化したらこうなりそう、みたいな。
だけど、誰やお前!?
「は?え?何してんの?」
「ごはん作ってたの。カレーだよ、空くんが好きなやつ♡」
「いや、カレーは嫌いじゃないけど、お前誰!?」
「えー、ひど〜い。元カノなのにぃ♡」
「記憶にございません!!」
俺は急いでスマホを取り出す。通報しようとした、その瞬間──
「あ、ちがうちがう、通報は待って!空くん!落ち着いて、私!隣の部屋に引っ越してきたの!」
「………………は?」
*
数分後。状況はこうだ。
目の前の女は、**藤堂カレン(とうどうかれん)**と名乗った。
ついさっき、俺の部屋の隣に引っ越してきたらしい。
その足で挨拶しようとして、俺が帰ってくる前に合鍵で──
「え、ちょ、合鍵!?どっから手に入れた!?」
「管理人さんがくれた♡」
「嘘だろ!?管理人なにやってんの!?」
「“彼氏の部屋にごはん作りに行きたい”って言ったら『青春だな〜』って」
「青春の使い方間違ってるわ!!」
俺が頭を抱えてうずくまっていると、カレンはケロっと笑いながら、
「ねぇ空くん、これ“思い出の味”だよ。小学校のとき、二人で作ったカレー、覚えてない?」
「覚えてるわけねぇだろ!!!」
俺の人生、なんか知らんけど、
急にギャルゲーの裏ルートに突入した気がするんだが……!?
──次回、「俺、大学でも元カノに追い詰められるってマジ?」
爆誕する“元カノ(自称)”、大学を荒らす。芦屋、精神崩壊寸前!