幽霊と宝の塔 (22) 謎解きは続く
謎解きは淡々と進みますが、アトリオが重大な事実に気がつきます。
さて、これまでの話によって、物語の中で示された幾つかの疑問が解けましたね。
一つは軍曹たちと施設近くの森を見回った際、魔物に出くわしても、トラブルが起きなかった理由です。魔物たちから見れば兵士たちの姿は、正に自分たちの仲間に見えたので攻撃を仕掛けたりはしないし、下位の魔物は兵士にかけられた呪いに、最上位の悪魔の臭いを嗅ぎつけて、おそれをなして逃げて行ったのでしょう。
そして二つ目は、アトリオが不振を抱いた、樹木の成長速度の件。実際の時間の流れは、アトリオたちの感覚よりずっと早く流れていたのですから、前に見た時よりも急激に育っているように見えたのは至極当然と言うわけです。もっとも、何故アトリオだけがそう思ったのかは、もう少し後の話となります。
「くそっ。よくよく考えてみれば、不自然な事は幾つもあったと思う。なぜ、気がつかなかったんだろう」
アトリオが、口落ちそうに言いました。前述の謎に加え、典型的なものは彼が城へ救援を求めようとした時、誰もが取りあわなかった事などでしょう。
「まぁ、それが呪いというものじゃよ」
パーパスが、ため息をつきました。
「俺たちは、あんたらを幽霊だと思っていたが、実際は俺たちの方が、幽霊同然の存在だったというわけか」
悪魔に呪われていたとはいえ、彼らに取っては痛恨の極みです。
「じゃぁ、あれはどうなんだろう。城からの使者が時々、隊長を訪ねて来ていた。あまり意味のない幻影だった気もするが……」
しかし、落ち込んでいる暇などありません。アトリオは、新たな疑問を口にします。
「それはな。そいつこそが、悪魔本人だったんじゃよ」
と、パーパスが淡々と答えました。
「何だって? あれが! だが、何故だ」
アトリオが、パーパスの顔を見つめます。
「おぬしたち全員にかけた呪いは、ひどく複雑なもんじゃった。一度かけたら後は何もしなくてよいとは、いかなかったのだよ。人数も多かったしな。
だから時々、宝物砦を訪れて、魔力をおぬしらに注ぎ込んでおったんじゃ」
パーパスは、立て板に水が流れるように答えました。
「あぁ。そう言えば、使者が訪れた後は、元気がみなぎってきた気がしたもんだ。あれは、魔力を補充させられたからなのか。
じゃぁ、最近の体調不良は……」
アトリオが、また一つ新たな疑問を抱きます。
「待て、いや、待て待て!」
少し黙り込んだ後、突然アトリオが叫びました。
「どうした、アトリオ?」
話が順調に進んでいただけに、ホンドレックが慌てて尋ねます。
「根本的な問題だ。あんたは俺の疑問にことごとく答えて来た。細かい所まで的確に! 何故、あんたはそれほど詳しいんだ?」
話が余りに上手く運び過ぎている事に、アトリオはようやく気がつきました。
「なるほど。それはそうじゃ。本当は最初に、この事実を告げるべきだったのかも知れんが、そこは許してほしい」
パーパスが、神妙に話します。
「結論から言うとな。悪魔は死んだんじゃ。ワシらが、苦労の末に討伐した。
ワシが今まで話した事柄は、悪魔の側近を拷問して聞き出したものなんじゃよ。いちいち真実かどうか確かめる魔法を何重にもかけたから、よもや虚偽ではない」
「悪魔が死んだ?」
この重大な事実に、アトリオの頭の中で、幾つかの事柄が繋ぎ合わさっていきました。
「そうか! 城からの使者が悪魔だったとすれば、倒されたのだから来たくても来れなくなったのか。これで、使者が訪れなくなった理由が分かった」
パーパスは口を挟まず、アトリオの言うに任せました。




