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幽霊と宝の塔 (21) 策略

アトリオたちが被っていた、恐ろしい策略が次々と明らかになります。

「呪い……」


アトリオが、魔法使いの言葉を繰り返します。


「そう、呪いじゃ。悪魔めのかけた呪いは、こうじゃ。捕らえたおぬしたちを、制限付きではあるがアンデッドの体に作り替え、あまつさえ偽の記憶と幻影を植えつける。


それによって、おぬしたちは、戦いに勝利し、その後も変わらず宝物塔を守っていると、思い込まされていたのだ」


事情を話すパーパスの横で、ホンドレックの表情もドンドン曇っていきました。


「い、いや。それもおかしい。実際、あの後も頭領を欠いたとはいえ、魔物の襲来は何度かあった。


もし最初の戦いで悪魔たちが勝ったのなら、攻め込んでくる意味がないだろう」


至極当然の疑問を、アトリオはパーパスにぶつけます。


「最初の戦いの後、おぬしたちがまみえていたのは、魔物ではない」


「魔物じゃない?」


アトリオの脳裏に、薄っすらとではありますが、とある思いが閃きました。


「そうじゃ。おぬしたちが魔物だと思っていたのは、宝物塔を奪還するために差し向けられた、王国の兵士たちじゃよ。


おぬしたちは彼らを、魔物だと信じ込まされておったのだ」


「何だって?」


予想通りの答えとはいえ、アトリオが絶句します。


今さっき、塔や宿舎を見てきた限りでは、俺たちが長年に渡って、幻を見ていたというのは間違いないだろう。ならば、この魔法使いの言っている事も多分真実だ。


アトリオは、事の重大さ、深刻さに押しつぶされそうになりました。しかしそうなると、彼の心に別の疑問が首をもたげます。


「なぁ、魔法使いさんよ。あんたの言うのは事実なのかも知れない。だが、それでも疑問は残る。


悪魔は何故、俺たちにわざわざ呪いをかけてまで、宝物塔を守らせたんだろうか。配下の魔物を使えば済んだ話なのに」


アトリオが、呟くように言いました。


「そこが悪魔の狡猾で卑劣な所じゃよ。まず第一に、先の戦闘は本当に熾烈なものじゃった。悪魔とて、簡単におぬしたちから勝利を奪ったわけではない。


まぁ奴からすれば、おぬしたちは、配下を何匹も殺された憎き相手になるわけじゃ」


なるほど、確かに俺たちは魔物を倒しまくった。それこそ、手段などかまわずに……。


パーパスの言葉に、アトリオは凄惨な戦いの記憶を呼び覚まします。


「そんなおぬしらに、砦を守らせる。悪魔にとっては、それも復讐の一つだったんだろうな」


「では、なぜわざわざ幻を見せたんだ。単に不死の兵士として、戦わせれば済む話じゃないか」


アトリオの中で、疑問が一つ解決するたびに、また別の疑問が生まれてきました。


「おぬしも兵士ならわかるだろうが、戦いは肉体だけでするものではない。持てる力を引き出すもの、それは”心”だ。


今回の場合は、忠誠心や使命感と言ったものじゃろう」


「つまりアトリオたちに、あくまで魔物と戦い宝物塔を守っていると思わせる事で、兵士たちの力を最大限に引き出したというわけですか……。なんて卑劣な!」


ホンドレックが、たまらず口をはさみます。


「なるほどな。それで、時間の感覚を狂わせたわけか」


アトリオが、自ら一つの謎を解きました


「わかってきたようじゃの。そうじゃ。宝物塔は、単に宝を保管する場所ではない。王国を守る上で、要となる地の一つじゃ。一端、手にしたからには、長く自分たちのものとしておきたいのは、戦略上、理解できる」


「もし時間の感覚が狂わされていなければ、幾ら何でも同じメンバーで四十年も塔を守るというのは、不自然だと気づくというわけか。


疑問が生じれば混乱が生じ、呪いが解けるかも知れない」


アトリオとパーパスの間に、ある種の呼吸が生まれます。


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