幽霊と宝の塔 (15) 茂みの奥
謎を解いてやろうという魔法使いの申し出を、アトリオは承諾します。
「あぁ、そうだ。”真実”だ。ワシはお前が納得できるよう、それを話す事が出来る。恐らくじゃが、おぬしがここ数日の間に感じていたであろう疑問は、全て氷解するじゃろう。
しかしそれはおぬしに取って、幸せとは限らぬぞ」
パーパスは、変わらず威厳のある声を発しました。
真実……。そうだ。確かに俺は、ここ何日か、様々な疑問に悩まされて来た。この男がそれを知っているのは不可思議だが、その謎も解いてくれるのだろうか。
アトリオの心は、揺れ動きます。
「おぬしの仲間は、青紫の炎に包まれ消えていった。そうだな? そしておぬしも、ほどなくそうなるだろう。残念じゃが、避ける事は出来ぬ。
何も知らないまま旅立った方が、幸せという場合もあり得るがどうじゃ?」
パーパスの言葉は、威厳から憂いに変わっていきました。
真実……、真実。
アトリオの頭の中で、この言葉が教会の鐘の音のように響きます。彼は、再び目の前の男を見つめました。
もう、賭けてみるしかあるまい。この男がもうすぐ消え去る俺を騙して、何か得をするとは思えない。それに俺がつきつけた矛盾にも、この男は全く動じなかった。それも、不思議といえば不思議だ。
「知りたい。俺は、真実を知りたいよ。なぜ自分が、いや仲間たちもそうだが、青紫の炎に包まれて消えてしまうのか知りたい。それがあんたの言う、幸せではない結果をもたらしたとしてもだ」
アトリオは、凛として答えます。
「……そうか。おぬしは、あやつが言った通りの男だの。好奇心旺盛で、まっすぐで、そして強い。おぬしなら、真実を受け止められるに違いないじゃろう」
パーパスの表情が、少し緩みました。
”あやつが言った通りの男”……。という事は、この幽霊魔法使いと俺との間に、共通の知り合いがいるという事なのか? この男がさっき口にした”お前が納得できるよう、それを話す事が出来る。”とは、そういう意味なのか?
アトリオは、そう考えます。
「では、アトリオよ。おぬしが青紫の炎に包まれるのを、僅かに遅く出来る魔法をかけるぞ。よいな? そうすれば、おぬしが事情を理解する時間くらいは稼げるだろう」
パーパスが、念を押しました。
「やってくれ」
その言葉を受け、パーパスが呪文を唱えます。黄色と赤のまじりあったような光が、アトリオを包み込みました。
「さてと……。では、説明を始めるとしようか。だがな。その前に、おぬしには是非とも会ってほしい人物がおる」
術を掛け終えたパーパスが、森の暗がりに目をやります。
「あぁ、あんたがさっき”あやつ”と言っていた者の事か。茂みの奥にいるんだな。 察するに、それは俺の知り合いだろう?」
アトリオが、機先を制しました。
「うむ。おぬしは、頭の回りも早いようじゃ。ならばワシ、いやワシたちの言う事も理解できるだろうて」
パーパスがそう言うと、アトリオは、
手回しが良いと言えば良い話だが、激しい戦闘が行わなわれると知っていて、こんな場所まで出向くとは、一体どんな奴なんだろう。
と、いぶかります。
「少し、待っていてくれ」
魔法使いはアトリオに背を向け、森の暗がりへと歩いていきました。そして誰かに話しかけます。
「向こうでの話はついた。念を押すようだが、覚悟は良いか。ここから見える様子と間近で見るのとでは、雲泥の差があるぞ」
パーパスが、またもや真剣な表情を見せました。
彼の相手は、一瞬ためらったものの、すぐに力強く頷きます。
「そうか。では、まいろうか」
魔法使いはそう言うと、一人の男を連れ立って暗がりから戻って来ました。この男が誰なのか。皆さんには、既に見当がついておいででしょう。
乾いた草を踏みしめる音が、月光さす森に響きます。白く光る幽霊たちは、二人のために体をよけ、一本の道を作りました。




