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幽霊と宝の塔 (13) 魔法使い

危機一髪、どうにか命が助かった兵士アトリオ。そして森の奥からは魔法使いが……。

残念無念。ホンドレック、恩を返せなくて済まん。命を懸けて、返さなくてはならない恩だったのに……。


アトリオは死を覚悟し、借りを残したままである親友の顔を脳裏に浮かべます。


彼の決意を察したように、その場にいる一番屈強な熊の動物ビトが斧を振り上げました。


さらば!


この世に別れを告げるアトリオの頭上へと、月の光に黒く輝く戦斧が振り降ろされます。と、同時に、月は死目前である兵士の右手首にはめられた腕輪をも金色に輝かせました。


その時です。


「待て!!」


熊戦士の後ろにいた、如何にも歴戦の勇士といった容貌のニンゲンが叫びます。予期せぬ命令受け、間一髪のところで斧を引く動物ビト。


なんだ、どうしたんだ。なぜ、攻撃を止めたんだ。捕虜にでも、しようっていうのか?


九死に一生を得たアトリオが困惑します。


しかし取りあえずの命を得たとはいえ、周りは依然として敵ばかりです。前にも後にも進めません。


幽霊にこの身を委ねるくらいなら、いっそここで燃え上がってくれ。


そんな思いを知ってか知らずか、熊戦士を止めた男が、後ろを振り向きながら、


「パーパス様! 見つけました」


と、大きな声で叫びました。


辺りの幽霊が、どよめきます。そして波紋が広がるように、それは他の幽霊たちにも伝播していきました。


「本当か!?」


茂みがザワザワと音を発し、誰かが森の中から現れます。


「むぅ、宝物塔の兵士は、もう、そやつしかおるまいな? 誰ぞ、確認してまいれ!」


パーパスと呼ばれた六十過ぎの初老の男が、幽霊たちに命じます。首領の指示を受けた幽霊の一団は、すぐさま散開し調査を開始しました。


「時間がないぞ。急げ」


パーパスの言葉に従った幽霊どもは、慌ただしく辺りを隅々まで探索します。もちろん、塔の中まで全てです。


……まだ、こんなにいたのか……。これじゃぁ、最初から勝ち目はなかった。


熊の戦士に、斧を突き付けられているアトリオが思いました。実際、入り乱れて争っていた幽霊たちの他に、かなりの数の同類が捜索に投入されています。


さてと……。どういう事だろうか? 今しがた、歴戦の勇者風の男は”見つけた”と言っていたが、それは「俺」を見つけたという意味なんだろうか。


それに、見つけたという事は、”探していた”という事なのか……。


幽霊たちに取り囲まれたアトリオが、絶望の中に身を置きつつも考えます。


それからしばらくして、残存兵力なしとの報告を受けたパーパスは、幽霊たちをかき分けて、当惑するばかりである憐れな兵士の前へとやって来ました。


「……おぬし、名を何という」


如何にも魔法使いといった風体のパーパスが、アトリオに尋ねます。


もうここまで来ては、腹を据えるしかない。それに、俺を何故探していたのか、そのわけも知りたい。


アトリオは、覚悟を決めました。


「アトリオだ」


彼は、まっすぐにパーパスを見て答えます。


月の光が彼の白髪交じりの髭に反射して、キラキラと輝いています。


「そう……、そうか」


パーパスは安堵したような、しかし一方では難しい顔をしながらその答えを受けました。


「おぬしは、ブレスレットをしておるな。見せてくれぬかの?」


魔法使いは、続けます。


ブレスレット? 幽霊たちが探していたのは、俺じゃなくて、このブレスレットだったのか?


アトリオは、一瞬そう考えましたが、すぐにその考えを打ち消しました。


いや、それはおかしい。これはホンドレックが作った物だ。奴が如何に才能豊かな鍛冶屋とは言っても、当時、まだ二十歳にも満たない若造の作を、これだけ大勢で探す理由が見つからない。


そうは思ったものの、好奇心の方が先に立ったアトリオは、腕を上げてそれを魔法使いに示します。


「チョイと、明るいぞ」


そう言うとパーパスは、短い呪文をつぶやきました。途端に、彼の頭上へ小さな光の球が現れます。


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