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ニールの目ざめ (8) ククドゥル

マリアがニワトリの動物ビトであるククドゥルを呼びました。彼女の狙いは……。

”離れ小島”って、何の事かですって?


実は彼らの教室、本校舎から伸びる渡り廊下の先の旧校舎にあるんです。というのも、彼らの学年は人数が多いので、どうしても一クラス分が本校舎に入り切れず、旧校舎の一室に押し込められてしまったんですね。


何処へ行くにも遠くなってしまい、誰言うともなく”離れ小島”という不名誉な名前で呼ばれているのでした。これだけの騒ぎになっているのに、隣のクラスが気づかないのもその為です。


「離れ小島が、どうしたってんだ!?」


ドッジが、マリアに詰め寄りました。


「私たちの足じゃ、新校舎の端っこにある保健室まで、どれだけ時間が掛かるかわかんないわ」


マリアも負けじと、反撃します。


「そんなの、仕方ないじゃんかよ。なら他に、どんな方法があるってんだ!?」


ここは自らの意見に分があると踏んだドッジが、居丈高に切り返しました。


「ククドゥル。 来て!」


マリアが振り返り、クラスメートの名を呼びます。


「え? 私?」


知の女王様のお声がかかり、大人しそうな動物ビトの女の子が戸惑います。動物ビトとはヴォルノース三大種族の一つで、頭が動物、体がニンゲンもしくは非常にニンゲンに近い種族を指します。ちなみに彼女は、ニワトリの動物ビトでした。


「あなたの力を貸してちょうだい!」


マリアの声が、教室に響き渡ります。


”あぁ、そうか!”


クラスのみんなが、マリアの考えに気がつきました。


「あなたの声を、保健室まで飛ばすのよ。出来るわよね?」


マリアが、ニワトリ顔の少女の手を握ります。彼女は既に、何故自分が呼ばれたのかについて、合点がいっておりました。


「わ、わかったわ。やってみる」


彼女は手のひらを上に、両手そろえて顔の前へともっていきます。


そしてククドゥルは、


「ケッコー、ケッコー、届けておくれ。私の声を隅々に」


と、呪文を唱えました。すると彼女の両手の上に、薄っすらと黄色く輝く手毬くらいの泡が現れます。


「ポッテル先生。シャーロット先生が大変なの。すぐに、二年十二組へ来て!」


彼女の言葉は光を伴い、泡の中へと吸い込まれました。


「いざ! 保健室へ!」


ククドゥルが号令をかけると、黄色い泡は脱兎の如く、教室の開いている窓から廊下へと飛び出します。その光景をクラスの皆が、固唾をのんで見ておりました。


ここでククドゥルの魔法について、少しご説明します。


彼女の魔法は「自分の声を泡に閉じ込めて、思った場所へ飛ばす」というものです。半径一キロメートル以内にある、自分がイメージ可能な場所ならばどこでも指定が出来、そのスピードは、どんな陸上選手よりもずっと早いのです。そして指定の場所へ到着した泡はすぐさま弾け、メッセージを三回繰り返すという具合でした。


「さぁ、これでもう安心ね」


実際に救援を求めたククドゥルを尻目に、マリアが満足そうにうなずきました。


「へーんだ。何か自分の手柄みたいに言ってるけどさ、実際にやったのはククドゥルだからな」


ある意味、功を横取りされた形のドッジが、悔しそうに口を尖らせます。


「て、手柄とか、そう言う事じゃないでしょ! 今は先生のために……」


図星を指されたマリアが、うろたえました。彼女は押しの強さに比べ、守りに弱いのが欠点です。


「ちょっと、待って」


険悪な二人の間に、ニールが割って入りました。


「止めてくれるな、ニール。これは宿命の対決なんだからよ」


ドッジが、大袈裟な身振りで答えます。


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