表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/102

幽霊と宝の塔 (12) 最後の一人

次々と青紫の炎に包まれて消えて行く兵士たち。そして、ついには……。

それが意外なほど、効果があるんです。切りつければ、まるで普通の人のように血が吹き出、更には情けないほどアッサリと撤退をして行きました。


「北側に一体、東側に三体!」


物見の声が、響きます。


しかし彼が、続報を仲間たちに届けようとした時、


「……あれっ? 私は、どうして……」


と、口走ったかと思うと、兵士は途端に青紫の炎に包まれ、跡形もなく消え去りました。


「ちきしょう! 物見がやられたか」


その様子を見ていた軍曹の悔しそうな声が、アトリオにもハッキリと聞こえます。


どうしよう……。


アトリオは、様子を伺うべく茂みに隠れていましたが、脱出のタイミングを決めあぐねておりました。


何故ならば、味方の減り方が、彼の予想よりずっと早かったのです。敵に斬られた瞬間に燃え上がった者もいれば、自然とそうなった者もおります。


今から城へ走っても、援軍が来る頃には全滅しているに違いない。それでは助けを求に行く意味がない。単に、俺が逃げ出すだけじゃないか。


若くまっすぐなアトリオは、それを潔しとはしませんでした。


俺だって、数秒先には燃えだすかも知れないんだ。だったらいっそ、宝物塔を守る”名誉ある王国兵士”として、立派に散ろう。


アトリオはそう決心すると、辺りを見回します。物見の兵は既に消え去っていましたので、戦況は自分で確かめねばなりません。


ん? 幽霊の一団が、ひとつの場所を目指しているような……。


茂みから抜け出したアトリオは、その先にある何かを見出そうとしました。


白い光が円を描くように並んだかと思うと、その中心から、覚えのある勇ましい声が聞こえてきます。


「やぁ、やぁ、我こそは、グラフンゼルの戦いで一番槍をつとめたドリヴァントなり! 幽霊ども、こちらは逃げも隠れもせんから、一匹ずつ掛かって来い!」


と、軍曹が叫びました。呼応する者は、誰一人としておりません。アトリオは塔に残った者も含め、生き残りが自分と彼の二人だけになったのだと直感しました。


アトリオは「散々しごかれたあの人と、最後を共にするとは思わなかったな」と、苦笑いをします。しかし、それも何かの運命であろうと、唯一残った同朋の元へと脱兎の如く駆け出しました。


既におぼろも去り、煌々と月光が照らす森の草上をひた走るアトリオ。


彼があと一歩で、軍曹の元へ到達しようとした時です。


軍曹は、不思議な顔をしながら、


「お、俺は一体……。なんで、こんな所に……。俺は確か……。そ、そうか、思い出した! 俺は、いや俺たちは!」


と、真っ暗な虚空に向かって叫ぶと、青紫の炎を発し、もやのはずれた月の光に溶け込むように、ふっと消えて行きました。


あぁ、軍曹までも……。


その光景を目の当たりにし、呆然とするアトリオでしたが、


ついに、俺だけになってしまった。俺は軍曹のような武功はないけれど、燃え尽きる前に、せめて一太刀!


と、使い慣れた腰の剣をサッと抜き、輪になった幽霊たちの外側から突進します。


「うしろだ! うしろから来たぞ!」


幽霊の一人がアトリオに気づくと、周りの者たちへといち早く警告を発します。


電光石火の突撃に不意を突かれた幽霊たちは、思わず隊列を乱しました。その隙をアトリオが見逃すはずがありません。


「いやぁぁぁ!」


鋭い雄叫びと共に、アトリオは一番近くにいた幽霊に斬りかかります。幽霊は一瞬ひるんだものの、かろうじてアトリオの剣を盾で受けとめ、二三歩後ずさりました。


しくじった!


アトリオは、断腸の思いにとらわれます。多勢に無勢。隙をついた奇襲以外に、彼が一矢を報いる術はありません。それが失敗したのです。あとは幽霊たちの、良い獲物になるしか道はありませんでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ