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幽霊と宝の塔 (11) 決戦

兵士たちの期待も空しく、幽霊たちが攻め入って来ました。これが最後の戦いです。

その時、アトリオは、不思議な感覚に襲われます。救援について、これまでは進言するだけの立場でしたが、今は自らが宝物砦から出奔する腹づもりでいます。すると、どうでしょう。


……? なんで、城へ行かなくちゃいけないんだろう?


という思いが、心のどこかに突然沸き上がりました。


でもすぐに、


おい、何を考えてるんだ。このまま全てが終ってもいいのか?


という、逆の思いに駆られます。


いかん、いかん。切羽詰まって、俺もだいぶ混乱しているらしい。しっかりしなくては……。


脱出の機会を伺う事にしたアトリオは、とりあえず軍曹の作戦に従うフリをしようと決めました。


軍議が終り、兵士たちを呼び寄せる古株たち。小走りに駆け寄るアトリオの腕のブレスレットが、淡く輝いたようにも見えましたが、彼自身、それに気づく事はありません。


さて、皆を整列させた後、軍曹が語った作戦とは、概ね次のようなものでした。


《兵士たちが消える現象と、幽霊の出現が無関係とは思えない。よって、幽麗討伐を決行する。幽霊がまた夜中に襲ってきたら、それはこちらにとって有利である。


何故ならば、こちらの姿は闇に紛れるが、白く光るむこうの姿は丸見えだ。こちらは、いつ燃え出して消えるかわからない。一か八か、幽霊たちを出来るだけ殲滅する。


後は、その結果を見てからだ》


なんとも大雑把で、ツッコミどころ満載な計画ですね。まぁ、幽霊の正体も人体消失の謎も分からない状況では、仕方ないのかも知れませんが。


よし、乱戦に紛れて抜け出そう。人数が少なくなっているだけに、その前に抜け出そうとすれば、すぐ発覚してしまうだろうからな。


幽霊が夜に襲って来るとは限りませんが、脱出する身としては、夜陰に乗じた方が有利です。アトリオは自室で武器の手入れをしながら「夜までは、襲って来るんじゃないぞ」と、密かに念じ続けておりました。


彼の願いが通じたのかどうかはわかりませんが、陽が落ちてしばらくは、何事も起こらぬ平穏な時間が流れます。


ひょっとしたら、もう敵襲はなく、誰も青紫の炎に包まれる事態にはならないんじゃないか……。


そんな、淡い期待を皆が抱き始めた頃、


「敵襲!」


塔の上の見張り番の声が、伝令管を通じて様々な場所へと響き渡りました。兵士たちは一部の者を除き、我先にとばかり、塔の外へと飛び出します。


月は半分、雲に隠れ、森の中は足元がかろうじて見える程度の明るさでした。


軍曹の作戦は、俗にいう総力戦です。敵の戦力がハッキリと分からないままでの、いわば捨て身の攻撃が始まりました。


アトリオは皆の後から、そっと森の暗闇へと進撃します。一番槍とばかりに突進し、やられてしまっては元も子もありません。また、シンガリを務めるほどの武勇もありません。幸運にもアトリオは、途中で抜け出すには丁度良い真ん中くらいのポジションでの、戦闘参加となりました。


森のあちらこちらでは、既に兵士と幽霊の戦闘が始まっています。アトリオが昨晩見た通り、彼らはニンゲンや動物ビトが白い光に包まれている姿をしています。ただ逆に考えれば、兵士たちと違う所は「白い光」だけなのでした。そしてその光は、段々薄れて行くようにも感じられます。


しかしもちろん、幽霊たちが仲間とは思えません。彼らは、それこそ恐ろしいほどに歪んだ表情で、兵士たちを葬ろうと刃を向けてきます。


「東側に三体、南側に二体!」


塔の上には、状況を逐一、味方に知らせる物見の兵士がおりました。それゆえ、仲間たちは相手に追い込まれる事もなく、巧みに戦場を駆け巡ります。


「よぉし! 戦況は我々に有利だ。進め、進め!」


漆黒の暗闇を、軍曹の怒声がつんざきました。彼はもう、数人の幽霊を斬りつけ撤退させる事に成功しております。


え? 幽霊相手なのに、槍や剣が通用するのかですって?


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