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幽霊と宝の塔 (8) ミーティング

異常事態の中、兵士たちを集めたミーティングが始まりました。

しかし、二人が両側から近づこうとしたその時でした。炎の中の隊長が「あぁ、まさか……」と、何やら言葉を発したかと思うと、青紫の炎は、ロウソクの火が最後に激しく燃えて消えてしまうが如く、大きな輝きを発した後、隊長と共にスウッと消滅してしまいました。


「隊長!」


アトリオの、悲痛な叫びが室内に響きます。


こんな、こんな事って……。


彼は目の前で起こった信じられない出来事の結末を、ただ呆然として眺めておりました。


「ふ、副隊長……」


どうして良いかわからないアトリオは、この砦の新しい指導者に助けを求めます。


でも副隊長にしたって、即座に対応する事は出来ません。報告としては受けていたものの、半信半疑だった怪現象が目の前で起きたのですからね。


「ア、アトリオ。この事は、しばらく秘密だ」


副隊長が、鋭い目をアトリオの方へと注ぎました。


「え、秘密?」


新しい最高指揮官の言葉に、アトリオは耳を疑います。


「そうだ。今、この宝物塔は、何かとてつもなく恐ろしい、いや、そのような言葉では言い尽くせないほどの異常事態に陥っている。


そんな時、隊長が炎に包まれ消えてしまったなんて話したら、如何に精悍な兵士と言えどもパニックに陥ってしまうだろう。


そうしたら、全てが終わりだ」


副隊長の有無を言わさぬ語気の強さに、アトリオは只々、黙って頷くしかありませんでした。


未だ眼前の事象を理解できぬまま、二人は誰もいない部屋を後にします。そして副隊長から「皆を集めろ」との命を受けたアトリオは、疲労困憊の体と心に鞭打って、塔内はもちろんの事、宿舎にいる兵士やスタッフ全員に声を掛けました。「宿舎一階にあるホールへ、今すぐ集まるように」と。


普段からミーティングに使われるホールへ集った兵士たちは、意外なほど冷静でした。


しかしそれは、表向きだけ話。本当は皆、叫び出したいほど怯えているのです。が、もしその感情を露わにしてしまったら、あふれ出た恐怖は留まる所をを知らず、この施設全体を飲み込んでしまうでしょう。皆、それが分かっているので、必死に冷静を装っているのでした。


そんな彼らの気持を知ってか知らずか、副隊長が、ホールの一段高い場所へと上ります。


”なんだ。どうして隊長ではなく、副隊長なんだ”


只でさえ心細さを抱えている兵士たちは、口々に囁きました。まずはこの状況を、どうにかしなくてはなりません。


「兵士諸君。まず、この場に隊長がおられない事情を話そう。隊長は、健康状態がすぐれず自室に戻られた。ご本人はこのような重大局面の折り、先頭に立てない事をいたく悔いておられる。


よって、今後、隊長が回復されるまで、私が皆の指揮をとる」


副隊長は、努めて威厳をもって言いました。


アトリオは、兵士たちがどのような反応をするか固唾をのんで見守りましたが、意外にも彼らの反応は落ち着いています。


というのは、隊長室へ何がしかの報告に行った兵士、まぁ、これはほぼ全員なのですが、彼らはその時、隊長の具合が悪そうなのを見ておりました。よって、副隊長の説明を、すんなり受け入れられたのです。


それに副隊長は、隊長に負けず劣らず頼りになる男です。具合の優れぬ隊長よりも、むしろ副隊長の方がこの難局を乗り切るためのリーダーとして、ふさわしいとさえ思えました。


場の空気を素早く読み取った副隊長は、要点のみを伝えます。


かいつまんで言えば、未知の敵が襲って来たものの、即座に攻撃してしてくる気配はなさそうである事。行方不明者の捜索は一時中断して、各自、次の襲来に備え十分に体を休める事。確証のない噂を広げない事、等々。


兵士たちは、すがるように頷きます。皆、恐ろしい話は、なるだけ考えないようにしているのでした。


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