幽霊と宝の塔 (4) 深い眠り
デルソント失踪を知り、驚くアトリオ。宝の塔では、兵士動員で彼らを探します。
「交代した奴の話では、デルソントは、頭が痛いと言っていたらしい。だから、具合が悪くて、まだ寝ているのではという話になったんだ」
頭痛? あの時はそんな事、一言も……。
昨日の交代時の様子を、アトリオは思い浮かべます。
「で、部屋には?」
アトリオが、矢継ぎ早に質問しました。
「それがな。いないんだよ。交代した後、食堂へ行った様子もない。それどころかベッドは整っていて、清掃担当者が昨日の夕方、ベッドメイクしたままのように、なっていたらしいんだ」
兵士は、首をひねります。
「誰か、彼を見ていないんですか?」
「あぁ、最後に見たのはやっぱり見張りを交代した兵士で、見張り台を降りてからは、誰も見ていないらしい」
淡々と話す兵士に、アトリオは、
「じゃぁ、塔を降りる間に消えちまったって言うんですか? そんな馬鹿な話、あるわけがない!」
と、詰め寄ります。
「まてまて、私にそう言われても困る」
「あ、あぁ、すいません」
アトリオは、思わず乗り出していた身を退かせます。その時です。彼の心に、とある出来事が浮び上がりました。
「そう言えば、昨日食堂で小耳にはさんだんですが、デニスさんもいなくなったって……」
アトリオの情報に、
「そうなんだ。まぁ、ほんの時々は、任務の過酷さに耐えかねて脱走する兵士もいるからな。デニスは今一つ心構えが出来ていない奴だったんで、それほど気にしてはなかったんだよ。
だが、デルソントは違う。お前も知っての通り、兵士になる為に生まれて来たような男だ。脱走なんて、ありえない」
と、兵士が言うと、
「そうですとも。デルソントに限って、そんな事!」
彼を良く知るアトリオが、同調します。
「となると、デニスの方も脱走ではないかも知れないって話になるんだ。という事で、今、手の空いている連中が総動員で二人を探している」
「お、俺も探します」
アトリオが申し出ると、兵士は、
「いや、お前は休め。偵察任務が終ったばかりのヘトヘトの体じゃ、ロクな働きは出来ん。かえって、足手まといになる。
ここは、俺たちに任せろ」
と、彼を諭しました
頭を冷やすよう言われたアトリオは、釈然としないながらも自室へと戻ります。引き下がったのは、あれ以上、押し問答をしても、らちが明かないと分かっていたからでした。
頭が痛いなんて、言ってなかったのに……。
ベッドに腰掛け、アトリオは先ほどの思いを繰り返します。弱音を吐かないのはデルソントの良いところですが、それが裏目に出た形になったのではないかとアトリオは推測しました。
彼は自分なりに色々考えようとしたものの、昨日同様、またしても激しい睡魔に襲われます。
……どうしたんだろう? 昨日も今日も……。いや、この何日か、酷く疲れやすくなっているような……。
彼の頭の中は急速に霧に包まれ、それ以上は何も考える事が出来なくなりました。
どのくらいの時間が過ぎたでしょうか。アトリオは、暗闇の中で目を覚まします。明かりをつけて時計を見ると、既に日付が変わろうとする時間に差し掛かっておりました。
「しまった。寝すぎた」
アトリオは声に出してそう言うと、急いで食堂へと向かいます。様々な情報を得るには、皆の集まるその場所が一番なのでした。
「おぉ、アトリオ。来たか」
彼の姿を見て声を掛けてきたのは、昼間の軍曹です。
「遅れてすいません。それで、行方不明者はどうなりました?」
はやる気持ちを抑え、アトリオが尋ねました。
「いや、それが、みっともない話なんだが、俺も今の今まで眠っていたんだよ。あれしきの行軍で、それほど疲れるなんてないはずなんだが」
と、軍曹は、どこか言い訳がましく答えます。




