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幽霊と宝の塔 (3) 失踪

宝物塔の周りの森へと巡回に出たアトリオ。しかし帰ってみると大事件が……。

食堂に立ち寄ったアトリオは、既に用意されていたサンドイッチを手にしました。給仕係が気を使って、予め用意してくれたのですね。既に、五年も働いているのです。そこらへんは、阿吽の呼吸なのでしょう。


普段であれば、二つ年上のデルソントと朝食を楽しむところですが、今はそんな余裕もありませんでした。


玉子のサンドイッチを頬張りながら、アトリオは集合場所の正門前に急ぎます。


……あれっ? そういえばデルソント、さっき、食堂に居たっけか?


彼は走りながら一瞬そう考えたものの、寝坊した自分が来る前に、さっさと朝食を食べ終えてしまったんだろうと結論づけました。


「アトリオ、遅いぞ!」


やっとこさ門の前に辿り着いた寝坊助兵士を、背の高い軍曹がどやしつけます。”若い奴を甘やかすなんて言語道断”というのが、彼の一貫した兵の育成方針でした。昨今のパワハラ事情とは、大きな違いですね。


「す、すいません!」


一番若手のアトリオに、言い訳をする自由なんてありません。とにかく平謝りをして、皆が笑う中、一隊は周辺のパトロールへと出発しました。


行軍は順調に進み、魔物に出くわす場面もありましたが、運の良い事に相手の方から逃げ出すか、全く無視をされるという状況が続きます。実はこういう状況が、ここしばらく続いておりました。


「我々の強さを、あいつらも分かってきたんだろうな」


軍曹が、鼻高々に言い放ちます。


宝物塔の守り手たちは、確かに今まで、主である悪魔を失って、烏合の衆と化した魔物たちの襲来を防いでいます。でもアトリオは、何か腑に落ちない感覚に陥りました。ただ、その理由を問われたとしても、筋の通る説明をする自信がありません。


まぁ、無理矢理にでも解釈するのであれば「魔物と言っても様々だから、平和的な連中もいるだろう」という話になるのでしょうか。


昼食休憩では給仕係が持たせてくれたハンバーガーを美味しくいただき、アトリオたちは午後の探索へと奮起します。


おやっ? あそこの木。あんなに大きかったっけな?


毎回、同じコースを辿るわけではないので定かではありませんが、以前に来た時はもっと小さかった気がしたのです。ただ、具体的に証明できるわけではありません。そのためアトリオは、軍曹に報告するのをやめました。


「よーし、今日も異常なし。では、解散!」


数時間後、出発地点に戻って来た一行は、今日の任務を終えて三々五々に散っていきます。


夕食にはまだ少し早かったので、アトリオは、遅めのおやつにあずかろうと食堂へと足を運びました。若い内は、まずは食い気というわけですね。


ところが食堂へ着くと、何かいつもとは違う雰囲気です。こう、慌ただしいというか、騒然としているというか……。


「どうかしたんですか?」


たまたま近くにいた古参の兵士に向かって、アトリオが尋ねます。


「おぉ、アトリオか。実はな、デルソントがいないんだ」


「えっ!?」


アトリオが、思わず声をあげました。


「彼は昨日、日付が変わる頃まで、塔の上で見張り番をしていたはずですが」


予期せぬ事態に、彼が口走ります。


「あぁ、そのはずだった。いやな、デルソントの後に見張りをする者が塔の上に行った時には、確かに奴はいたんだそうだ」


「それじゃぁ、その後に?」


アトリオの心臓の鼓動が、少しずつ早くなっていきました。


「うん、それがよくわからない。知っての通り、あの時間の見張り番は、異常がない場合の報告は翌朝に行うならわしだ。午前0時にもなれば、隊長は既にお休みになっているからな。


それが朝になっても、奴が来ない」


兵士は、不思議そうに続けます。


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