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ニールの目ざめ (76) 大人への階段

魔法管理局が下した結論とは?

ただ認定定作業は、非常に難しいものとなりました。魔法認定には、簡単なものとそうでないものがあります。パパが使える「空を歩ける魔法」のようなものであれば、その場で実演すれば誰の目にも明らかです。


しかし予知の魔法や、天気を予測する魔法の場合、いわば本人だけがわかるものであって、その結果も果たして魔法の力なのか、ただの偶然なのか、見極めが難しいのでした。


これが「植物と話せる魔法」ともなりますれば、一層困難を極めるのは言うまでもありません。だって、他に植物と話せる者がいないのですから、確認のしようがありませんよね。


そんな事もあり、半分近くの評価委員はメリドルと同様に「ニールの魔法は”予知の魔法”であり、木の声が聞こえたというのは、子供特有の思い込みではないか」と考えます。


またニールが得たのは「交樹の魔法」ではないかとの意見もありました。交樹の魔法とは、植物の状態をある程度把握できるというものです。


ただ大抵の場合、日当たりの悪い所に植えられた植物や、明らかに水やりが足りない植物を見ると、ネガティブな感情が沸き上がってくるというレベルに過ぎません。


それくらいなら魔法がなくても、植物や周りの環境を見ればわかります。読心樹の魔法を最高峰のレーシングカーだとすると、交樹の魔法は買い物用の自転車程度の存在なのでした。


また、色々なテストを受けたニールですが、結果として結構な”ムラ”がある事がわかりました。植物の声が聞こえ、更には会話が出来る状況は、その植物が酷いストレスを負うなどしている時だけで、それ以外は「暑い」とか「水が欲しい」など、向こうの声が一方的に伝わるのみでした。


但しこれもニールの自己申告であり、確認する術はありません。もっともニールに目隠しをするなど、見た目で判断する事が出来ないように工夫した、試験方法とその結果ではあるのですけどね。


「うーん、やはりこれは、予知の魔法ではないか?」


「いやいや、感度の高い交樹の魔法だろう」


「ひょっとして、その両方がミックスされた魔法では?」


「単にまだ、彼の魔法が成長過程なので、安定していないだけなんじゃ……」


評価委員の間で、喧々がくがくの議論が巻き起こります。


しかしある委員が、決定的な事実を見出しました。これは、メリドルも見逃していた内容です。


結論から先に言えば、それは「レディガロール病」という、ニールの証言でした。


公園の主が言っていた通り、この病気は大変珍しく診断も難しい事から、一般には全くと言っていいほど知られておりません。植物学者や樹木医の間でさえ、その存在を認知している者はごく一部の超ベテランだけなのです。そのため、数日前に公園の主を検査した樹木医も、この病気に気づかなかったのですね。


では、なぜニールがその名前を知っているのか。


先ほどの評価委員は、ここに注目したのです。


実際に倒れた木を詳しく調べた植物学会の報告によれば、それは確かにレディガロール病であると結論づけられておりました。


学者や樹木医と全く縁のないニールが、その病名を知っている事はまずあり得ません。そもそも彼の口から具体的な病名が出ていたからこそ、珍しい病気にも関わらず早々に結論を出せたくらいなのです。


これはもう「公園の主から聞いた」という、ニールの言葉を信じる他ありませんでした。


そうしてやっと、ニールの魔法が「読心樹の魔法」である事が認められます。


ただ、魔法管理局の登録簿に記載されている魔法名は「交樹の魔法(注)」となっていました。レガシーマジックの所有者情報はトップシークレットですから、一般の魔法局職員にさえ、簡単には知られないようにする必要があります。この「(注)」の文字が入っているファイルを閲覧できるのは、本当にごく一部の職員だけなのでした。


さて、場面はお祝いパーティーの晩に戻ります。


ベッドに入ったニールは、ボンヤリと光る常夜灯を、見るとはなしに見ています。


「あぁ。ボクも、やっと魔法を授かる事が出来たんだ」


まだレガシーマジックを得た事の重大性を、本当の意味では理解していないニールでしたが、それでも心に思う所はありました。


安堵、共感、そして誇り。


ヴォルノースの森において、魔法の発現は大人への第一歩と言われています。ニールは今、大人への階段を上り始めたのです。


「ボクはこの魔法を使って、どういう風に人生を豊かにしていくんだろう」


柔らかな常夜灯の光ですら、段々と瞼に邪魔されて瞳に映らなくなる中、ニールは骨董屋エンシャント・ケイブの従業員、リュンデムの言葉を思い出しておりました。


それといっしょに、ゼペック、ドッジ、マリア、ポッテル……と、様々な人たちの顔が彼の脳裏に浮かんでは消えて行きます。


あぁ、これ以上、何も考えられないや。全ては明日、明日からだ。


ニールは、両の瞼を静かに閉じました。もう夜は、深々とふけています。


澄んだ眠りの泉の底へと落ちて行くニール。そんな彼を窓から見える天空の星たちが、キラキラと優しく見守っておりました。



【ニールの目ざめ・終】


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