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ニールの目ざめ (74) お祝い

さぁ、ニールが魔法を授かったお祝いが始まろうとしています。

「えっ? 何って?」


予想していなかったママの言葉に、ニールが少し戸惑います。


「だって、魔法が使えるようになったんだから、お祝いしなくちゃね。定番のナコレント麦を使ったケーキはいいとして、あとはニールの好きなものを買いましょう。


遠慮はしないでね。一生に一度の事だもの。今日の日のために、お金はちゃんと用意してあるから」


ヴォルノースの森では、子供の魔法が発現すると、お祝いにナコレント麦で作ったケーキを始め、様々なご馳走を家族みんなで食べるのが習わしです。もう、何百年も続いてる伝統なんですね


話をはぐらかされた感じではありますが、ニールはそれに乗っかろうと思いました。よく考えてみれば、レガシーマジックにどう対応すればいいかなんて、こんな道の真ん中でする話でもありません。全ては家に帰ってから、パパが戻ってからと考えたのです。


一方、ママはママで、少し複雑な心境でした。


多くの親がそうであるように、ママにもニールの授かる魔法に対して「出来れば、将来に有効な魔法を」という思いがありました。ヴォルノースの森では、使える魔法で差別され蔑まされる事はありませんが、有利に働く事は十分にあり得ます。


そしてヴォルノースの森は文字通り、その大半が樹木で覆われているのですから、植物に関する職業につけば、まず、食いっぱぐれはありませんでした。そして樹木医になるにせよ、植物学者になるにせよ「植物の言葉が分かる」というのは、樹にまつわる商売をする場合、非常に都合が良いのは言うまでもありません。


実際、植物に関する魔法は幾つか存在し、その魔法が使える者は、やっぱり植物に関する職業についている事が多いのです。魔女なんかもそうですね。薬草を扱う関係上、その手の魔法を使える者も少なくありません。


”でも、レガシーマジックとなると……”


ママは、息子の得たものの大きさに戸惑っておりました。


ダメダメ、私がしっかりしなくっちゃ……。この先、どんな出来事があるかわからないけれど、今は、ニールが魔法を得た事を素直に悦び祝いたい。


ママは自らの不安を取り払うように、ニールへ笑顔を向けました。



「おっ、なんだなんだ? すごく、いい匂いがするぞ」


陽がとっぷりと暮れた後、仕事を終えて帰って来たパパが、玄関のドアを開けるなりそう言いました。でも、すぐに心配になって来ます。


今日は、誰かの誕生日じゃないし、結婚記念日でもないよなぁ。でもこの沢山のいい匂いは、とんでもないご馳走が用意されているに違いない。思い出さないと、またママの機嫌が悪くなるぞ……。


パパは頭をフル回転させ、ご馳走の理由を探ります。でも、わかるわけがありません。


遂に観念したパパは、フライドチキンの皿を運んでいるママに、


「え、えっっと。今日は、何のお祝いだったかな。いや、忘れたわけじゃないよ。ど、ど忘れってやつだ」


と、意味不明の釈明をします。


料理の大半をテーブルに並べ終えたママが、


「まぁ、パパ。忘れちゃったの? 酷いわ!」


と、わざと大仰に言いました。パパを、からかっているんですね。学校に一人で呼び出され、大変な気苦労をした事への、ちょっとした八つ当たりでした。


既に食卓の自分の席についていたニールはそれを見て、


「パパ、テーブルの真ん中に置いてあるのは、なぁんだ?」


と、助け舟を出します。


ご馳走に取り囲まれた特等席には、ママが腕によりをかけて作った、お祝い用のケーキが鎮座しておりました。


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