ニールの目ざめ (73) ドッジ親子
重苦しい空気が支配する音楽室。でもドッジ親子が……。
その中へ入る五人の面々。ニールは何か、とても居心地の悪い感覚を覚えます。
”ここにいる全員が、ボクの魔法の事を、色々と考えてるんだろうなぁ”
と、ニールは心の中で。ため息をつきました。彼、自分がこんな風に注目されるのは、とても苦手です。あまり前面へは、出たくない性格なんですね。まぁ、そこら辺は、神経の太いドッジを”少しだけ”見習った方が良いみたいです。
三人の子供たちは、それぞれの母親の隣に用意された席に腰掛けます。そこでメリドルから、色々と注意を受けました。
ニールの魔法が、読心樹の魔法と決まったわけではない事。そして、そう決まっても決まらなくても、音楽室での話を他人に喋ってはいけない事。
もちろん、それがニールのためであるという前提も、しっかりと説明いたしました。
ニール親子は、恐縮しきりといった様子でしたし。マリア親子は"言わずもがな"というスタンスのようです。
そんな中、ドッジ親子だけは、少し事情が違いました。
衆人環視の中で、エメリンが、
「ドッジ、わかってるだろうね。もし、秘密を喋ったら、あんた一生、おやつ抜きだからね!」
と、言うと、ドッジがすかさず、
「えっ~? それは酷いよ、母ちゃん」
と、泣き言を漏らします(ドッジっては、大人になっても母親からおやつを貰うつもりでいるんでしょうか?)。
そして、そんな情けない息子の顔を真っ向正面より覗き込ながら、
「酷いも何もない!母ちゃん、本気だよ」
と、強き母が息子の悲鳴を一蹴しました。
「ええぃ、わかったよ。俺は絶対に秘密は洩らさねぇ」
と、ドッジが言うと、エメリンは間髪入れずに、
「ホントだね? 母ちゃん、ウソつきは嫌いだからね!」
と、睨むように念おしをしますが、
「あたりまえさ。ヴォルノースっ子に、二言はねぇ」
と、ドッジは大見えを切りました。
傍から見ると、この重々しい空気の中においては、不適切とも思えるやり取りですが、二人の会話はどこか憎めず、むしろ場の雰囲気を和ませます。
そして本当ならば、三人ともニ、三日は休ませるのが順当と思われる状況も、それではかえって、いらぬ憶測を呼ぶ可能性があるというメリドルの意見に、皆、納得し、ポッテルの「健康に異常なし」という折り紙もついている事から、明日も平常通りに登校という運びになりました。
そして三人は、それぞれの母親に手を引かれ、学校を後にします。
彼らを見送る、メリドル、ポッテル、レクシーの教師トリオ。
「あぁは言いましたけど、大丈夫でしょうか」
一番経験の浅いレクシーが、思わず不安を吐露します。
「大丈夫ですよ。彼らはまだ幼いが、それぞれに長所を持った、良い子ばかりです」
メリドルが、新米教師を励ましました。
「でも、私たちだって、これから結構大変ですよ」
ポッテルが、話に割って入ります。
「そうですね。魔法管理局もこちらへ来るでしょうし、公園での大事故が絡んでいる以上、警察や消防にも話をしなくてはなりません。
我々で、ニール親子をしっかりと支えて行きましょう」
その通りです。普通は子供の魔法が発現したら、保護者が魔法管理局の支局へ届け出をし、それが認定されると、局の方から学校へ連絡が行きます。
しかし今回は事が事だけに、それを一家庭に委ねるのは荷が重すぎます。学校が間に入り、子供やその親に過度の負担が掛かるのを防ぐ必要があるのでした。
さて、校門を抜け、公園を横目に歩く三組の親子連れ。彼らはしばらくの後、如何にもといった別れの挨拶を交わし、めいめいの家へと向かいました。
「……ママ、あのね……」
ニールが、決まり悪そうに口を開きます。
「ねぇ、ニール。今日は何が食べたい?」
彼を制するように、ママが言いました。




