ニールの目ざめ (6) シャーロット先生
ホームルームにやって来たシャーロット先生。彼女から重大発表が……。
「病気の元? この俺が? いきなり、なんだってんだい!」
思わぬ事を言われたドッジが、気色ばみました。マリアはドッジに腕力では敵うべくもありませんが、その分、頭の良さでこのガキ大将と互角に渡り合ってきたのです。もっともそれは、ドッジが一目置くニールの仲裁あっての話なんですけどね。
「あんたの遅刻癖が、ニールに移ったんじゃないかって話」
マリアが澄まして、フンと鼻を鳴らします。
「マリア、やめてよ。そんな事ないって」
遅刻の原因を自覚しているニールが、割って入りました。
「ほうら、ニールが違うって言ってるじゃんか。全く。ちょっと頭がいいと思って、図に乗りやがって」
ドッジが、毒づきます。
それからしばらくの間、二人の丁々発止のやりとりが続きました。でも周りの生徒たちは、何も言いません。それはいつもの話であり、下手に口を出せば、トバッチリを受けると分かっているからです。まぁ、それでもマリアとドッジは、ニールを加えて仲良く遊んでいるのですから、本人たちとしては応酬を楽しんでいるのかも知れませんね。
「ニールは優しいから、あんたを庇ってんのよ。ま、くれぐれも、あんたの”バカの病”の方は移さないでよね」
形勢不利と見たマリアが、話を切り上げようとします。
ドッジが「なにを!」と言いかけた時、ホームルーム開始の鐘が鳴り、担任の女性教師シャーロットが教室へ入って来ました。
「ほら、ドッジ。早く席に着きなさい」
若くハツラツとした声で、シャーロットがガキ大将へと命じます。この教室の女王とも言うべき絶対者の指示には、いかにドッジといえども逆らえません。不本意ながら、ここでマリアV.S.ドッジの戦いはお開きとなりました。
「先生、あんまり怒ると、赤ん坊に悪影響が出るかもよ!」
ドッジが、お腹の大きくなったシャーロットを尻目に、捨てゼリフを吐きます。皆が、どっと笑いました。
「そうかもね。でもそうなったら、私に怒鳴らせてばかりのあなたにも、責任を取ってもらいますからね」
と、シャーロットも負けずに切り返します。
”そうだぞー、ドッジ。責任とれー”
クラスの皆が、ハヤシ立てました。
そして、注目を浴びた事に満足したかのように、ドッジは大人しく着席します。ニールがホッと安堵の息を漏らしました。マリアとドッジが本気で争っていないとはわかるものの、やっぱりヒヤヒヤしながら仲裁するのがニールの役目となっていたからです。今回はその役割を、シャーロットに肩代わりしてもらった形でした。
朝のホームルームも滞りなく終わろうした時、シャーロットが「さてと」と呟いて、可愛い教え子たちを見回します。
「え~、皆さんご承知のように、私のお腹もこれだけ大きくなりました。そこで校長先生とも相談の上で、来週から産休、つまり赤ちゃんを産むためのお休みに入りたいと思います」
いつかはそう言う時が来るだろうと予測はしていた生徒たちでしたが、いざ発表となり思わず教室がざわめき立ちました。
「まってましたぁ!」
その中で、ドッジの声がひときわ大きく響きます。
「ちょっと、ドッジ。何を待っていたの? まさか私に怒鳴られなくて済むとか、そういう事を考えてはいないでしょうね?」
シャーロットが冗談めかして、少し口を尖らせました。
皆が、どっと笑います。