ニールの目ざめ (59) アランとフレイザー
女性に責められるニールたちに、次々と援軍が現れます。最後に登場したのは……。
「教頭先生!」
マリアが、歓喜の声をあげます。
その言葉通り、ニールたちの新たな援軍はメリドル教頭でした。巨木が倒れた轟音は学校までも響き渡り、たまたま校庭にいたメリドルが、取る物も取り敢えず駆けつけたのです。公園で生徒たちが遊んでいる可能性が、十分にありましたからね。
「あなたは、誰ですの?」
中年女性が、グッと身構えます。彼女としては”負けてたまるものか”という心持でした。
「私は、ベリドント小学校の教頭で、メリドルと申します。ここにいる三人の事は、良く知っています。
確かにイタズラっ子の側面もありますが、決して人を傷つけるような事はありません」
メリドルの美声は、集まってきた人たちを魅了します。
「イタズラっ子ってのは、あんたの事だからね」
マリアが、今度は肘でドッジをつつきます。”一緒にされちゃ、たまらないわ”と、思ったのでしょう。
「うるせぇな」
ドッジが抗議しかけると、
「しっ!」
と、ニールが口に人差し指を当てて、二人を諫めます。事態をこれ以上、ややこしくするのはご免だからでした。
周りの目が、段々と厳しく女性に注がれ始めます。人々の尊敬を集める消防団員と、小学校の”あの”教頭が子供たちの味方に付いたのです。
メリドルが昔、有名な合唱団で活躍していた事は、子供たちの間では噂レベルの話ですが、大人たちは知っている人が多く、彼は俗にいう「知る人ぞ知る」という存在でした。
「私は、このままでは済ましませんからね!」
と、捨て台詞を吐くと、女性は公園の出口に向かって早足で歩き出します。形勢不利と見たのでしょう。
「あ、ちょっと待って下さい。目撃者として、お話を伺わねばなりません」
アランが、彼女を引き留めます。
「あなたに、そんな指示をされる覚えはありませんわ!」
もう既に、周りが敵だらけだと感じている女性は、一層激しい言葉で応じました。
その時です。
「いや、その義務はありますよ。しばらくは、この場に留まっていただきます」
と、彼女の後ろから近づいて来た、若い男が言いました。その馬の顔をした動物ビトは、女性の前に立ちふさがります。
その行動に、怒りが頂点に達したのでしょう。女性は、
「邪魔をしないで!」
と、叫び、持っていたハンドバッグを振り回しました。その四角い凶器は、彼の胸を打ちましたが、もちろんそんな事でビクともする男性ではありません。
「あなた、こんな災害に巻き込まれて混乱しているのはわかりますが、これ以上、乱暴をはたらくと、公務執行妨害になりますよ」
と、精悍な顔つきの動物ビトが、彼女を静かに威圧します。
「え? 公務執行妨害?」
女性の顔つきが、途端に変わりました。
男性は内ポケットから警察手帳を取り出し、自分が警察官である事を彼女に告げます。そうなんです。通報を受けて、生活安全課の刑事である彼も、こちらへ出動して来たのでした。
警察と聞き、さしもの彼女も観念する他はありません。女性はうなだれて、近くのベンチにヘナヘナと腰を下ろしました。
ドッジが、ニールとマリア以外には聞こえないような小さな声で”やったぜ、ベイビー!”と、如何にも古臭い表現で喜びを表します。それを聞いた二人の親友は、顔を見合わせ笑いました。
「よぉ、アラン。やっぱり、お前に先を越されたか」
馬顔の動物ビトが、鳥顔の動物ビトに声を掛けます。
「ま、こっちは空を直線コースで来られるんでね。だけどフレイザー、君も中々早かったよ」
と、アランがフレイザーと呼んだ警察官に、冗談めかして言いました。
「そりゃ、そうだ。いくらこっちの足が速くても、空を飛ばれちゃ敵わない」
と、駿足の魔法を使えるフレイザーが、ヤレヤレという仕草をします。彼がどの警察官よりも早く現場に到着できたのには、こういうわけがあったんですね。




