ニールの目ざめ (58) 援軍きたる
責め立てられるニールに、続々と援軍が到着します。
ニールたちの居る場所から、少し離れた所に降り立ったこの男性、名前はアラン。タカの動物ビト(顔が動物で、体がニンゲンの種族)で、消防団員でもあります。そんな彼の魔法は、背中から翼を出して空を飛べるというものでした。
ヴォルノースの森に電話はありませんが、ニワトリの動物ビトの女の子、ククドゥルの魔法のように、情報を伝える手段は色々と存在します。アランはこの変事の通報を受け、いち早く駆けつけたのですね。
消防団の制服を身にまとった彼の姿を見て、その場にいた多くの人たちが、安堵の息を漏らします。
何故かですって?
ヴォルノースの森において、消防団員というのは最も尊敬を集める職業の一つであり、大変信頼されている存在なんです。
ちょっと、考えてみて下さい。ヴォルノースの森は、文字通り多くの木々が茂っている地域です。そこで一番怖いのは、森林火災ですよね。いったん燃え広がれば、被害は甚大なものとなるからです。
消防団員は「森の厄災に敢然と立ち向かう”ヒーロー”である」というのが、人々の一般的な認識でした。
しかもその中にあって、空を飛べる団員は、特に人気が高いのです。消防の活動時、飛行能力があるのはとても頼もしい事ですしね(派手でもありますし)。
これで、もう安心。
皆がそう思ったのも、無理はありません。
アランは取りあえず周りを見回し、人的被害がない事を確かめます。
そして、三人組の方に目をやると、
「あれ? ニールじゃないか」
と、少し驚いたような顔をしました。
「……あ、あぁ、アランさん。こんにちは」
ニールは、どう答えていいかわからず、ちょっと間の抜けた返事をします。
「ニール、知り合いなの?」
マリアが肘で、ニールの腕をつつきました。もし知り合いであれば、これは百人力です。皆の尊敬を集める空飛ぶ消防団員が、味方になるかも知れないわけですからね。
「うん。ほら、パパの関係で……」
「あぁ!」
マリアがポンと、手を叩きました。
実はニールのパパ、本業は「高いところ屋さん」、つまり高所作業を色々とお手伝いする仕事なんですが、地域の消防分団にもボランティアで所属しているんです。彼の”空中を歩ける魔法”は、消火や救助活動にとても役に立つので、本業にしないかといつも誘われているほどでした。
しかし仇敵は、そんな事はお構いなです。
「消防士さん! この子が、あの木を倒したんです。大勢を危険にさらしたんです!」
先手必勝とばかりに、中年女性が叫びました。
「彼が? それは、一体どういう事でしょう」
突然の申し出に、アランは戸惑います。
「ウソだよ! ニールがそんな事するはずない、出来るはずがない!」
ドッジが、叫びました。
アランはニールをチラリと見ると、すぐに振り返り、
「この子は私の知り合いの息子さんですが、人に危害を加えるような事をする子供ではありません。
どのような根拠があって、そう仰ってるんでしょうか」
と、努めて落ち着いた口調で尋ねます。こういう災害現場では、皆、気が立っているのが普通である事を、彼は熟知しているのでした。
「根拠って、それは……」
女性が、言いあぐねます。元々、自分を正当化するために言い放った言葉だったので、客観的に説得力のある根拠など示せるはずがありません。
「あ、あなた。その子の知り合いだからって、庇い立てするんですの!?」
女性の行き場を失くした負の感情が、更に増していきました。
そして彼女がアランにも、食ってかかろうとしたその時です。
「いえ。彼は、そんな事をする子供ではありません。私が、保証します!」
ざわつき始めたその場の雰囲気を鎮めるような、落ち着いた低音の美声が辺りに響きわたりました。




