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ニールの目ざめ (54) 揺れる公園

謎の行動をとり続けるニール。ついに、周りの大人たちも気がついて……。

「二人も掴まって!」


ニールがそう言うと、ミリナとファリナが再び彼の髪の毛に掴まります。彼はそれを確認すると、両腕が引きちぎられそうな痛みを感じながらも、男の子をしっかりと抱えたまま、ドッジたちがいるのとは反対方向に、ヨタヨタと歩いて行きました。


その時、突然、ニールの表情が険しくなります。


彼は砂場の外を見上げて、


「待って! もう少しだけ!!」


と、叫びました。


その声は、余りに大きく激しかったので、ドッジやマリアはもちろんの事、周りにいる何人もの大人たちが、いま起こっている只ならぬ事態に気がつきます。


「その子を捕まえて!」


先ほどの中年女性が、感情的な声を張り上げました。


事情を知らなければ、正にニールが、幼児を連れ去ろうとしている風にも見える状況です。複数の大人たちが、まだ砂場を出たばかりのニールの方へと近づき始めました。


それでもニールは、歩みを止めません。渾身の力を込めて、両手に抱えた男の子を出来るだけ遠くへ運ぼうと必死です。


彼がようやっと、砂場の端から十メートル程度離れた所に辿り着いた時、三十代の男性が、


「君、何をしてるんだ!」


と、ニールの前に立ちはだかり、彼をさえぎりました。


ニールはそこで、力尽きます。男の子を出来るだけ静かに地面に下ろし、自らもその場にへたり込みました。


「おい、一体何を……!」


別の男性が、ニールの肩を掴み詰問します。その力が余りに強かったので、ニールは苦痛の声を漏らしました。


「ニールを、いじめないで!」

「ニールを、いじめないで!」


ミリナとファリナが、男性の眼前に躍り出ます。精霊という珍しい存在が、突然目の前に現れた男性は慌てました。


「何だ? 精霊?」


彼は当惑して、腕の力を緩めます。ニールは、やっと一息つけました。


しかし、更に別の若い女性も駆けつけて、


「あなた、そこのベリドント小学校の生徒ね」


と、こちらもキツイ調子で尋ねます。


「誰か、学校へ知らせてくれ、いや、警察も呼んだ方がいい!」


と、更に別の男性が叫びました。


ニールが担ぎ出した幼い子供は、彼らに保護され、一方ニールはと言えば、あとからやって来た男性たちに両腕を捕まえられ、身動きできない状態です。


「こいつ、とんでもないガキだ」


と、彼を捕まえている男性の片方が、口汚く罵ったその時です。


ゴキャッ。


公園に何とも言えない、嫌な音が響きました。


それはあたかも地獄の底が割れたような気味悪さとともに、全てを威圧するかの如く、大変恐ろし気な音でした。


”なんだ?”


恐らくその言葉を、公園にいる全ての人が心の中で呟いたでしょう。


しかし地獄の響きは、それで終わりではありませんでした。むしろ、今、始ったばかりなのです。


バキバキとも、ゴキゴキとも、文字で表せない本当に不気味で激しい音が、公園全体を包み込みました。


まずは、小さな子供たちが泣きだします。それに釣られたのか、次は大人たちも騒ぎ始めました。


ピー、ピーッ!


加えて、公園の木々に止まってた鳥たちが一斉に鳴き出して、我先にと樹木を離れます。空へ逃げ出した鳥たちの集団は、まるで突然現れた黒い雲のようにも見えました。


「無理言って、ごめん。もう、大丈夫……」


二人の大人に両腕を掴まれていたニールが、砂場の向こうを見上げて呟きます。


でも彼を捕まえている二人の男性や、その周りの大人たちの耳には入りません。そんな事に、気を取られているような状況ではないのです。


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