ニールの目ざめ (38) いざ別世界へ
骨董品店の老オーナーに誘われたニール。彼らは別世界へと立ち入ります。
二人は、古めかしく重厚な扉の前に立ちました。そこには「会員制。この先、生半可な素人は立ち入るべからず」と書かれたプレートが掲げられています。まぁ、この文言は如何にも大袈裟なのですが、オーナーのゼペックは、こうしたハッタリと言いますか、少しイタズラ心のある仕掛けが大好きなのです。
彼は、扉に取りつけてあるドアノッカーのリングを掴み、トントンと叩きます。そうすると、ドアに設置された覗き窓が少し開き、中から「会員証をお見せ下さい」という声が聞こえてきました。
実はこの仕組み、最近になってからのものでして、以前は客が普通にドアを開ける事が出来、中で会員証の確認が行われていたんですね。でも、ゼペックの鶴の一声で変更されたのです。
何故かですって? ゼペック曰く「その方が、秘密の場所っぽい雰囲気がするから」という事でした。
「オ、オーナー?」
覗き窓の向こうにいるスタッフが仰天します。だって、オーナーはいつも裏口から出入りすると、決まっていましたから。
「会員証はないが、わしの顔が、その代わりじゃ」
ゼペックはオーバーな言い方をして、スタッフの顔を睨みます。なに、これも彼一流の冗談であり、スタッフたちが面食らうのを見て楽しんでいるのでした。面倒な雇い主ですね。
そして慌ててドアを開けた若い男性スタッフに対し、これ見よがしにニヤリとした笑顔を放り投げたゼペックは、堂々とドアを通って行きます。
「あれ? そっちの坊やは?」
ゼペックのイタズラに狼狽しているスタッフが、重ねて驚きます。そりゃ、そうでしょう。いきなり主人が正面ドアから入って来たと思ったら、孫のような小さい子供を連れているのですから。
「ニールじゃよ。顔は、知っとるじゃろ?」
確かにニールはパパのビジターとして、何度かこの店にやって来ている関係上、スタッフは彼の顔を知らないわけではありません。
「それは、存じていますが、えぇっと……、今日、セドリック様は、ご一緒ではないので……?」
怪訝な顔をするスタッフを尻目に、ゼペックは、
「今日は、わしのビジターじゃ。文句はあるまい?」
と、再びニヤニヤとしながら言いました。スタッフを翻弄して、楽しんでいるのですね。
ただ、彼とてイタズラ好きのオーナーの目にかなったスタッフです。すぐにゼペックの悪ふざけに順応し、
「失礼致しました。いらっしゃいませ。ゼペック様に、ニール様」
と、片手を胸に当てて、仰々しくお辞儀をしました。
呆気にとられるニール。
でもそんな事はお構いなしに、ゼペックは店の奥にあるカウンターへと、彼を連れてズンズン歩いて行きます。ニールは、その間にも、久しぶりの店内を見回しました。
如何にもといった風情の武器や防具、魔法が掛かっていたと思われる品々、あと古い魔導書のようなものが、所狭しと陳列されています。ニールは、この何とも妖しい雰囲気が大好きでした。
だってその品々は、実際に昔使われていたものばかりであり、ニールはそれらを見る度に、かつて存在した剣と魔法の世界を思い浮かべワクワクしていたのです。
カウンターに辿り着いたゼペックは、近くにいるスタッフへ命じて、子供用の座面の高い椅子を持って来させました。ニールが大人用の椅子に座ったら、それこそ台の上には胸くらいまでしか出ませんからね。
ニールを椅子に乗せた後、カウンターの向こう側へ行ったゼペックは、すっかり風変わりな骨董屋のオーナーになり、
「今日は、わしが誘ったんだから、ここでの払いは全ておごりじゃ。遠慮なく、注文しなさい」
と、ニールの方へ向かって言いました。




