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ニールの目ざめ (32) 疾走

昨日の激しい頭痛に悩むニール。しかし運命は過酷な試練を与えます。

「ねぇ、またお店に連れて行ってよ。最近、ゼペックさんのお話、全然聞いてないし」


ニールが、せがむように言いました。


「冗談じゃない。さっきだって、散々ママに怒られたばっかりなんだ。当分は、無理」


パパのつれない返事にガッカリしたニールは、食後のミルクを飲んだ後、さっさと二階の自室へ引きあげます。そしてせめてもの慰めに、昼間読んでいた小説の続きを楽しむと、早めに歯を磨いてベッドに入りました。


すると忘れていた心配事が、急に頭の中へ躍り出ます。


明日、どうやって学校へ行こうか……。


すぐに治ったとはいえ、これまで経験した事がない痛みを被ったニールは、登下校の仕方を考えなくてはいけませんでした。


やっぱり、遠回りして行くしかないか……。


ベストとは言えなくても、ベターな選択をするニール。でも本当は、ベターとすら思えない苦肉の策でした。


もちろん今の段階で、パパとママに話すわけにはいきません。ママは大騒ぎするでしょうし、パパはどうして良いかわからず、右往左往するのは目に見えています。


ニールは、もう少し事がハッキリしてから、二人に話そうと思いました。


しかし運命は、そうは問屋が卸さないとばかりに、ニールへ過酷な試練を与えます。


さしあたっては”遠回り作戦”を採用しようと思っていたニールでしたが、また頭痛に襲われたらと心配するあまり、夜中まで眠る事が出来なかったのです。


そして目覚めれば、またしても遅刻ギリギリの時間。ニールは、朝食もそこそこに家を後にしました。


「どうしよう……」


彼は公園の前で立尽くし、迷いを言葉にします。今から遠回りしている時間なんてありません。そしてこれ以上の遅刻が続けば、ママは確実に学校へ呼ばれます。そうなればママは悩み、呑気なパパとまた喧嘩になるでしょう。自分のせいで、二人の間にいざこざが生じるのは、彼に取ってたまらない事でした。


昨日はノンビリと歩いていたから、激しい頭痛に襲われたのかも知れない。だったら、一気に駆け抜けてしまえば……。


およそ根拠のない話でしたが、今のニールは、そんな頼りないワラにすがる他ありません。


彼は公園の入り口に立ち、向こう側の出口を見据えました。実際にはそれほどの距離はないものの、ニールにとっては、果てしなく遠いゴールに思えました。


彼はソワソワし始め、明らかに迷っている様子を見せましたが、これ以上の時間的余裕はありません。ニールは「よし!」と声に出し、決死の覚悟で走り出しました。


とはいっても、小学二年生の足です。いくら急いでも、そう簡単に目的地へたどり着くわけではありません。それでも”まだ”あの感覚に襲われていないニールは、勝利を確信して走り続けます。


あぁ、でも何という事でしょう。


よっぽど急いだせいでしょうか、コースの真ん中あたりまで来て、彼はお見事と言えるほど、スッテンコロリンとばかりに転んでしまいました。


小さい彼の体に呼応したように、砂ぼこりや落ちている葉っぱが小さく舞い散ります。


「あいたたた……」


彼は、右の膝小僧がジンジンとするのを感じました。どうやら、地面に強く打ちつけてしまったようですね。


でもニールはすぐにもっと重要な事に気がつきます。彼が転倒したその場所は、昨日、とてつもない頭痛に襲われた地点だったのでした。彼の脳裏に、あの時の記憶が甦ります。


足の痛みを我慢して、ようやっと立ち上がたニール。でも、思うように走る事が出来ません。いえ、走るどころが普通に歩く事すら出来ませんでした。


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