ニールの目ざめ (31) カレーライス
パパの迂闊な行動に、せっかくのカレーライスの味も……。
またゼペックさんのお店で、道草を食っているのかも……。
近頃は余り、エンシャント・ケイブに連れて行って貰える機会のないニールが、ぼんやりと考えます。彼としては、老店主の骨董品にまつわる話が聞けない事が、何より残念でした。
ゼペックさんの魔法って、やっぱりお店に関係ある魔法なのかなぁ。
ニールは、なんとなく、そう思い描きます。
ゼペックは今でこそ、自分の趣味どっぷりの骨董品屋を営んでいますが、経営権を息子夫婦に譲った数年前までは、中古品販売店「リサイクルショップ・ラッキーエンカウンター」のオーナーでした(エンシャント・ケイブは、その店の地下にあります)。
そこはニールが住んでいるヴォルノースの南の森の中では、一番大きなリサイクルショップの本店で、同じ南の森に三店舗、更には、北、東、西の森にも支店が幾つかありました。つまりゼペックは、かなり成功している実業家なのです。
絶対にというわけではありませんが、ヴォルノースの森において、何かで成功を収めた人たちは、往々にしてその分野に直接、もしくは間接的にでも、関連のある魔法を使える場合が多いと言われています。これだけ事業を成功させているゼペックなのだから、商売に紐づく魔法が使えるのだろうとニールが考えても、それは当然の事と言えるのでした。
「ニール、晩ご飯よ」
ゼペックの魔法に思いを巡らせつつ、はからずもウトウトしてしまっていたニールは、階段の下から自分を呼ぶママの声に起こされます。
「はーい」
彼がママの機嫌の直っている事を期待して一階へ降りて行くと、食堂には既にパパの姿がありました。でもその様子から”今帰ったばかり”という雰囲気です。それだとむしろ、いつもより遅い帰宅時間でした。
今日の晩ご飯は、カレーライスです。ニールは皿の上に盛られた彼の大好物にスプーンを差し入れながら、気づかれないようにパパとママの顔を伺ってみると、自分が来る前にひと悶着あった事が容易に感じ取れました。
よりによって、大好物が出る日に喧嘩しないでほしいな。
折角のカレーの美味しさも半減したニールの脳裏に、とある妙案が浮かびます。
「そうそう。今日、学校で”神々の恩賜”の話があったよ」
ニールの意外な発言に、二人は意表をつかれました。だってある意味、魔法の話はこの家では禁句に近いのですからね。
「へ、へぇ……。パパは、その話を最初に学校で聞いてから、もう二十五、六年は経ってるなぁ。ママも、そうだろ?」
場の雰囲気を変えたいパパは、幼い息子の助け舟にポンと乗っかります。
「そ、そうね。ママも、そのくらいに初めて聞いたわ。最後に聞いたのは高校の授業の時だったから、う~ん、十六、七年くらい前ってとこかしらねぇ」
いつもだったら”誤魔化さないで”とばかりに、パパの顔をキッと睨みつけるママまでしたが、予想だにしない息子の言葉に、すっかり調子を狂わされてしまいました。
そんな彼の救いの手によって、今日の夕食は神々の恩賜の話で盛り上がります。でも、まだニールの年頃に聞かせてはいけない話もありますから、そこは注意深く言葉を選ぶ二人でした。
「ねぇ、パパ。ゼペックさんのお店に、行ってきたの?」
今日の片付け当番であるママが、台所で洗い物をしている事を確認し、ニールが小声でパパに尋ねます。
「あぁ、たまたま新しい品が入っていたんで、つい長居しちゃったんだ」
後悔しきりといった表情で、パパもそっと小声で返事をしました。




