ニールのめざめ (27) レクシー先生
「神々の恩賜」のテストがあると知り、ガキ大将ドッジは大慌て。
あぁ、それで……。
ニールはママの魔法を思い出します。彼女は一つ一つは微力ながらも、水、泡、風の精霊たちを一手に扱う事が出来るのです。多分、三つの光の粒が体の中にあるのでしょう。
「あぁ、それって不公平だよなぁ。一人に一つって決めてくれりゃあ、いいのにさ」
ガキ大将には似つかわしくない魔法を、既に授かっているドッジがぼやきます。
「まぁ、そう言わない。全ては神様たちの、思し召しなんだろうからね」
メリドルはそう言いながら、腕時計に目をやりました。その途端、授業の終わりを告げる鐘の音が、離れ小島の教室にも聞こえてきます。
「はい。それじゃあ、これで授業は終わります。この話は今度テストに出るから、しっかりと勉強しておくようにね」
教頭先生の思わぬ一言に、教室が騒然としました。
「え? テスト!? そんなの聞いてないよ~!」
ノートを全く取っていなかったドッジが、半分泣きそうな声で叫びます。
「ふふっ、安心しなさい。万が一、話に夢中になる余り、ノートを取っていなかった生徒がいると困るので、今の話をまとめたプリントを配ります。
これは、私の思し召しです」
メリドルがイタズラっぽく言うと、ドッジを始め、万が一の事態に陥っていた何人かの生徒が胸をなでおろしました。
プリントが配られた後はそのままホームルームとなり、未だ興奮冷めやらぬ生徒たちは、帰宅という流れになります。
「ちゃんとプリントを読んで、復習しておくようにね」
メリドルの言葉に多くの生徒は”言わずもがな”という眼差しを彼に返しました。
さて、掃除当番以外の生徒を送り出した後、メリドルは職員室へと戻ります。彼はいつもと変わらぬ様子ではありますが、心の中ではハミングを奏でておりました。
「教頭先生」
他の先生たちもチラホラと戻ってくる中、自分の席に着いたメリドルは、後から声を掛けられます。
「あぁ、レクシー先生」
声の主は、来週からニールたちのクラス担任に抜擢されたレクシーでした。
「先ほどの授業、素晴らしかったですわ。私などでは、とてもあぁは上手くいかなかったでしょう。自分が如何に未熟か、思い知らされました」
白いワンピースに青いスカートといった出で立ちの、若い女性の教師が興奮気味に語ります。
実はレクシー先生、メリドルの授業を教室の外で聞いていたんですね。本来は彼女がシャーロットに変わって神々の恩賜の話をしなければいけなかったのですが、経験不足からメリドルに交代してもらった話は以前に致しました。
「いやぁ、恐縮です。今回は生徒たちのおかげで、特に上手くいきました。少しでも参考になれば幸いです」
彼女が外で聞いている事を、あらかじめ知らされていたメリドルが、機嫌よく答えます。
「それに生徒たちの発言を聞いていて、どういう特徴のあるクラスかも、少しわかりました」
クラス運営をするにあたり、その雰囲気や、どのような性格の生徒がいるのかを知るのは重要です。今回の授業での色々な生徒の発言を聞いて、彼女は来週からの参考にしていたようですね。
「それは良かった。まぁ、生徒たちのいうところの”離れ小島”に教室があるせいか、他のクラスよりも、少々、個性的な面々が多いですがね」
二人はドッジやマリアの顔を思い浮かべ、クスクスと笑います。
「シャーロット先生に顔向けできるよう、しっかりと頑張るつもりです。どうか色々と、ご教授していただけるようお願い致します」
レクシーの、不安と期待と決意の入り混じった宣言に、メリドルは気持ちの良いみずみずしさを感じました。




