ニールの目ざめ (20) 神々の恩賜 その3
神々の恩賜の授業が続きます。神々が開いた大会議の結論とは……。
「ですが何故、ヴォルノースの森が閉ざされてしまったのかについては、今、お話しできます」
メリドルの緩急をつけた情報提供の仕方に、子供たちの抗議はすぐにやみました。
「神々の争いはドンドン激しくなり、ついには地上の人たちにも、悪影響を及ぼし始めます。
考えても見て下さい。海を割ったり、山を吹き飛ばしたりできる神様たちが、本気でケンカをするのです。周りが無傷で済むはずがありません。世界は、大いに乱れました」
自分たちの暮らす世界に、かつてそんな災厄が降りかかっていた歴史を知り、子供たちは急に黙りこくってしまいました。
「神々は。悩みました。彼らとて、決して地上の者たちが嫌いなわけではなかったし、自分たちが迷惑をかけている事は重々承知していたからです。
かといって、自分たちのグループの主張を引っ込めるわけにもいきません」
「ちぇっ! 神様なんだから、もう少し広い心を持てないのかねぇ。
俺ならすぐに、ケンカをやめるけどな」
大人しくしていたドッジが、クチバシをはさみます。
「ウソばっか。あんた、絶対に自分の方からは謝らないでしょ!」
マリアが、異議を唱えました。教室のあちこちから”そうだ、そうだ”とヤジが飛びます。
「そ、そんな事ないぞ」
調子の良い事をつい口にしてしまったドッジは、思わぬ集中砲火にへどもどしました。
「ほらほら、静かにして。ドッジも、自分が悪いと思った時は、素直に謝ろうな」
大騒ぎになる前に、メリドルが事を収めます。ドッジも、とんだ藪蛇とばかりに、それ以上は何も言いませんでした。
メリドルは、更に話を進めます。
「そんな中、本当に世界が終ってしまうような事態が起こりました。もちろん、神々の争いが元になっての事です。そこで全ての神々が集まり、大会議が開かれたのでした」
”神々の大会議”。それはどんなものだったのだろうかと、子供たちは思い思いに想像力の翼を広げました。
「でも、やっぱり結論は出ませんでした。そこで神々は、思い切った手段を解決策として見出したのです。
誰も引く事が出来ないのであれば、”皆が引けばいい”という、究極の決断をしたのでした」
ここは、最初の山場です。語り手としても腕の見せ所でした。
「彼らが出した結論とは、神々が皆、別の世界へ移住するというものだったのです」
メリドルの言葉に、生徒たちがどよめきます。
「別の世界へ行くって、どういう事ですか? ヴォルノースから、いなくなっちゃうって事?」
生徒たちが、異口同音に言いました。それは、そうでしょう。神様が消え去っちゃうって、これはかなりインパクトのある成り行きですからね。
「えぇ。神々は大きく分けて、四つのグループで争っていました。その内、三つのグループが、それぞれこの世界とは全く繋がりのない、別の世界へ移住すると決めたのです」
メリドルは、最初のクライマックスを話し終えました。でも、子供たちは納得致しません。
「それじゃあ、意味がないんじゃありませんか?」
マリアが、即座に質問します。
「なぜ?」
メリドルが、間髪入れずに聞き返しました。
「だって、神様たちはヴォルノースの世界の事で争っていたのでしょう? 去ってしまったら、元も子もないんじゃ……」
なるほど、もっともな意見ですね。周りの皆も、呼応するように頷いています。
「土地などを巡っての争いだったら、そうかも知れませんが、別にそういうわけではありません。
さっきも言ったように、争いの原因については次の学年で学びます。まぁ、でも少しばらしてしまえば、それぞれの主義主張の争いってところでしょうか。
ですから、ザックリと言ってしまえば、
”もう、仲直りは出来ない。だから別れて暮らそう”
という結論に到ったのでした」




