ニールの目ざめ (15) 子供たちの興味
いきなり産休に入ってしまったシャーロット先生。このあとの展開に子供たちの期待と不安が交錯します。
「お、おはよう。ドッジ」
意外な先制パンチを食らったニールがうろたえます。
「あ~あ、ちょっと早く来たからって、ドヤ顔しちゃって」
すかさず横から出て来たマリアが、釘を刺しました。
「ドヤ顔って何だよ、ドヤ顔って!」
ドッジが、途端に普段の調子に戻ります。
「まぁ、まぁ二人とも」
そしてこれまたニールが、いつものように、二人の間へ割って入りました。
「でもさ、なんで今日はこんなに早いの、ドッジ?」
ニールは、素直に疑問をぶつけます。
「いやだなぁ、ニール君。これが僕の本来の姿なんだよ」
ドッジが、再び澄まして答えました。
「はぁ? どうせ、シャーロット先生が長い間来ないから”じゃぁ、これからどうなるんだろう?”って考えると、変に落ちつかないんで早く来ちゃったんでしょ?」
マリアが、小ばかにしたような笑みを浮かべます。
「な、なんだとぉ!」
図星を突かれたドッジが、彼女へ食って掛かりました
「ほら、ほら、やめて。でも、それはボクも気になるなぁ」
ニールがそう言うと、
「ほれ見ろ。そう考えるのが普通なんだよ。頭が良すぎる変人ちゃん」
友の加勢を得て、ドッジが勢いづきます。
「へ、変人ですって!? テストで二十五点しか取れないのに、笑っていられるド変人と一緒にしないでよ」
思わぬ劣勢に立たされたマリアが、いきなりの絨毯爆撃を行いました。
「に、二十五点だって、笑っていられる。それが大人物の証拠だって、わかんないのかよ」
ドッジの取って付けたような苦し紛れの反撃に、さすがのマリアも呆れてものが言えません。
まぁ、二人の愉快な小競り合いはともかくとして、これはドッジやニールだけの思いではありませんでした。シャーロット先生は、元々来週から産休を取る予定でしたから、ある程度、このクラスへの対応は決まっているはずなのですが、生徒たちはやっぱりドキドキワクワクしていたのです。
新しい担任が来るのだろうか、それとも色々な先生が持ち回りで来るのだろうか、はたまたシャーロット先生復帰までオール自習?
様々な意見が、皆の間で飛び交っておりました。
キーンコーン、カーンコーン。
その音にハッと気がついた生徒たちの視線が、教室のドアへと集中します。廊下を歩く足音が僅かに聞こえたかと思うと、ドアの窓に大柄な姿が映し出されました。
「みんな、おはよう」
果たして現れたのは、メリドル教頭でした。
やや意外性にかけた事もあり、生徒の中にはため息をつく者もありましたが、このままメリドルが担任になるのか、今だけなのか、そういった予想がクラスのあちこちでヒソヒソと囁かれます。
「こらこら、静かに」
生徒たちの気持も分かるメリドルは、優しい口調でそう言いました。
「教頭先生! 先生がこのクラスの担任になるんですか?」
誰かが、我慢しきれず声を挙げます。皆が、メリドルの顔を見つめました。彼らにとっては、重大事項です。
「まぁ、まぁ、そう慌てないで」
出席簿を教壇の上に置いたメリドルが、両手を前に出す身振りで生徒が騒ぎ出すのを止めました。
「その話は出欠を取った後で……、と言いたいところだけど、みんなも気になっているだろうから最初に話します」
メリドルの一言に、生徒たちが沸き立ちます。説明し始めた彼の話は、概ね次のようなものでした。
来週からシャーロット復帰までの間は、三年三組の副担任であるレクシーが二年十二組の担任になる事(副担任がつくのは三年生からです)。但し、幾つかの教科は他の先生方が担当する事。そして今週は、各先生方が持ち回りで授業を行う事。まぁ、そんなところでしょうか。
教室では、てんでんばらばら、様々な声が乱れ飛びます。ただ臨時担任がレクシーとなる件については、生徒たちからおおむね好評を得たようでした。彼女はシャーロットより一つ年下で、性格は現担任が姉御肌なのに対し、非常に穏やかな、どちらかと言えば保健のポッテルに似ている人物でした。
「はい、はい、静かに」
メリドルによる低音の美声が、教室に響き渡ります。




