ニールの目ざめ (13) 不可思議
とんでもないハプニングが起きた翌朝、教室でニールが目にしたものとは……。
翌朝、教室ではいつものように、ホームルーム開始の鐘が響きます。今日はニールはもちろんの事、ドッジも遅れずにそれぞれの席に着いていました。
今日の授業は、どうなるのかなぁ。
ニールは、ぼんやりと考えます。昨日みたいな、自習ばかりという一日ではないでしょうから、彼ならずとも気にかかる所でした。
教室のドアが、ガラリと開きます。一体誰が来たのだろうかと、皆が注目しました。
また、教頭先生かな。
そう思ったニールでしたが、次の瞬間、彼は信じられない光景を目の当たりにします。
「おはよう、みんな」
何事もなかったかのように教壇の前へ立ったのは、なんとシャーロット先生その人だったのです。
教頭先生の話だと、大事には至らなかったものの、このまましばらく入院して、その後はかねてからの予定どおり、自宅で産休に入るという話だったのですが……。
「先生、おかえり!」
突拍子もない事態にも関わらず、教室のみんなは意外と冷静です。前触れもなく返り咲いた担任教師に何かを尋ねるでもなく、怪訝な顔をするでもなく……。
「はい、それじゃあ、一時間目の授業を始めます」
一方、シャーロットはシャーロットで、事情説明など一切しないまま、いつものように粛々と授業を始めようとしています。
その時です。
「うっ!」
昨日の映像を巻き戻して見ているかのように、彼らの教師は再び床へうずくまりました。
「先生!」
皆が、彼女の周りに集まります。でも、ニールは何故だか椅子に座ったままでした。動きたくても体が動かないのです。
その様子を見たシャーロットが、
「ニール、心配いらないわよ。だって……」
と、言ったかと思うと、昨日とは打って変わって、スックとその場に立ちあがりました。
「じゃぁ、皆さん、これから、赤ちゃんを産む事にします」
信じがたい事を言い出したシャーロットは、
「出て来い、出て来い、かわいい赤ちゃん。私のお腹の中からね」
と、呪文を唱え始めました。すると、どうでしょう。なんと彼女のお腹から、赤ん坊が”ポン”と、吐き出されて来たのです。
彼女は驚くニールに向かって、
「どう? 苦労なく出産できるのが、私の魔法なのよ」
と、笑いながら言いました。
「そ、そんな馬鹿な事……」
ニールが呟いた時、次なる変事が起こります。シャーロットが抱いた赤ん坊の顔。それが、正しくドッジそのものだったのです。
体は赤ん坊、顔はドッジという異様な光景ですが、シャーロットはもちろんの事、周りの誰も騒ぎません。あのマリアでさえも、ドッジの顔をした赤子の頭を優しくなでているのです。
キーンコーン、カーンコーン。
再び鐘が鳴り始めます。その音は次第に大きくなり、音色もいつしか、われ鐘のように酷いものとなりました。ニールは耳をふさぎますが、もう耐えられません。皆は、相変わらずニコニコとしているのに……。
「もう、やめてくれぇ!」
ニールが思わず叫んだその瞬間、彼の目に入ったのは見慣れた自室の天井でした。ベッドの宮では目覚し時計のベルの音が、少し下品に鳴り響いています。
「あぁ、また夢か……」
ニールは、寝ぼけまなこのままうつ伏せになり、けたたましい音で役目を果たしている機械を操作します。今日はどうやら、ママに起こされずに済んだようですね。
でも、なんであんな夢……。
ニールは不思議に思いましたが、昨晩、教室でのハプニングの様子をあれだけ熱弁したのです。それに関連した夢を見るのも、無理はないというものでしょう。




