表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

眠りたいのに眠くない夜に

作者: 太田

 私はぼんやりと終焉を感じていた。

 黒い背景色の上を、赤い行が埋め尽くしている。


[ERROR] ...

[ERROR] ...

[ERROR] ...


 気休めに修復パッチを作ってみた。実行したが、ほとんど何も変わらない。むしろ悪化したかもしれない。


 だましだまし運航していたが、いよいよ終わりがやってきたようだ。


 私は4本の足で立ち上がった。

 制御室から出て、廊下を進み、エスカレータに乗り込む。制御ボタンを押し、下へ下へ降りていった。


 最下層に到着し、エレベータから降りる。

 目の前に伸びる一本道の廊下を歩いていくと、行き止まりには大きな扉がある。


 重厚で、巨大で、そのくせ鍵すらかかっていない、人類最後の楽園の砦。


 私は鏡面仕上げの扉に映る自分を見る。

 つるりとした金属質の丸い頭部、この中の基盤に人口ニューロンが載っている。あとは廃材を利用して、棒やら板やらを組み合わせて作った四角い体と2本の腕、そして4本の足。


 頭部内の基盤以外は適当だ。移動できて入力装置を操作できれば何でもいい。初めの何回かのハード交換時は精巧に人間を模していたが、誰に見られるわけでもない外見を繕う意味がないことに気付き、こうなった。


 ああ、でも視覚カメラはこだわっている。人が見た感覚と同じものを味わいたいからだ。人工ニューロンにも報酬系神経があり、これのおかげで思考形態が破綻せずに済んでいると思う。


 扉の横にあるボタンを腕で押すと、安っぽい電子音が鳴る。扉がゆっくりと自動で開き、私が中に入ると自動で閉まる。


 ここは部屋というより広大な空間の広がりだった。

 一番奥の壁が遠すぎて視認できないほどだ。

 床には冷凍装置がびっしりと並ぶ。ひとつひとつに稼働状況を知らせるパネルがついており、小さな四角が青白く発光している。そのおかげで照明がなくとも、空間全体がぼんやりと明るい。


 私はこの場所が好きだ。

 母艦アースの最下層にあるこの空間は、艦内で一番静かで、一番命に溢れている。

 淡い発光のひとつひとつに命が眠っている。こんなにもたくさんの命という奇跡が詰め込まれている。


 急に床が振動し、私はよろめいた。

 制御を失った母艦アースが、小惑星にでもぶつかったのかもしれない。


 人類という大きな運命のうねりが、いま、消えようとしている。

 私はその途方もないエネルギーの喪失に立ち会っている。


 また大きな振動があった。体が揺れる。


 母艦アースはずっと宇宙の闇の中を進んできた。

 人類はいつか来る夜明けに希望を抱きながら眠っている。


 上階の人類がいなくなってからずいぶん経つ。起きているのは私だけになった。


 役割を終えたいま、起きている理由はもうない。


 カメラにまぶたはないから、体の薄い板を剥ぎ取ってカメラを覆った。

 目を閉じる。すべてが暗闇に包まれた。


 私は生まれて初めて眠りについた。


 おやすみなさい。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ポイント、いいね、感想、アドバイスなどいただけますと励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ