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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

殺し屋に拾われた男。

虐待注意。

「今日もウザかったな…」


風が冷たくなってきた秋の入り。今日も取引先への営業後に愚痴を溢しながら、徒歩で会社までの帰路に着く山村 大輝(だいき)31歳は冴えない独身営業マンだ。

両親と兄がいる四人家族で育った何の変哲もない普通の日本人である。

二流大学を卒業後、何とか内定を貰えた今の会社にこれまた何とかしがみついている。

育ちも周囲の環境も普通で、20代前半までは彼女もいた、どこにでもいる日本人だ。


「大体、なんで俺が取引先(おまえ)のとこのミスで怒られなきゃいけねーんだよ」


(世が世なら殺されても文句いえねーぞ!)


大輝のフラストレーションは限界に近づいていた。

しかし、法治国家である日本でそれを爆発させる事はできない。

いや、正確には人生を捨てる覚悟で爆発させる者もいるが少数だ。



『カンカンカンッ』


大輝が踏切に差し掛かったところで遮断機が降りた。


(くそっ。ここなげーんだよな)


そう新たな事に愚痴を溢す大輝だが、その思考は目の前の光景に呆気なく上書きされた。


「だ、誰か!車が動かないです!助けてください!」


遮断機が降りた踏切に一台の車が取り残されていた。

大輝は辺りを見回すが、誰もいない。いるのは徒歩で踏切に捕まっている自分のみ。


(ここは開かずの踏切だからまだ列車は大丈夫か)


「押しますね!ハンドルを握っていてください」


(俺の事は誰も助けないのに、何で人助けしなきゃいけねーんだよ)


ここで助けなければバッシングを受ける世の中を怨んだ。


「ブレーキから足を離して下さい!」


車の乗り主である老人は焦りからブレーキを踏みっぱなしである。ブレーキランプが着いたままの為、大声で運転手に向かって叫ぶとランプは切れ、車が動き出した。





「ここは?」


大輝はいつの間にか茶室の様なところにいた。そこは4畳くらいの広さで障子の外は伺えない。


『山村大輝で間違いないであろう?』


その声と共に目の前にいつの間にか老人が現れた。


「えっ!?どなたですか!?それにここは?私は踏切に…」


『お前は死んだ。列車に撥ねられてのう』


大輝は今置かれている状況も理解できなかったが、目の前の老人の言っている事はさらに理解が出来なかった。


(死んだ?列車に撥ねられた記憶なんかないぞ?このジジィボケてるんじゃねーのか?)


『儂はボケてはおらんぞ。そもそも年寄りという概念すらない。神だからのう』


(やっぱりボケてんじゃねーか。なんだよ神って)


「そうなんですね。お爺さん。ここはどこかわかりますか?」


『信じてないのう。其方は人を助けた。その人生で人を殺めてもおらん。足し引きして一つ願いを叶えてやろう。どんな転生先がいいかの?』


(はぁ。仕方ない。呆け老人に付き合ってやるか。こんなとこすぐに出るけどな)


「うーん。そうですねぇ。人が殺されたり殺したりする事が寛容な世界がいいですね」


(それが出来たなら真っ先に取引先(アイツ)を殺してやりたいな)


その言葉を最後に大輝は眩い光に包まれてしまった。


(そういえばなんでジジィにボケてるって思ったのがバレてたんだ?)


大輝は意識さえも消失してしまった。






(えっ!?寒い!何!?痛い!?)


意識が戻った大輝が最初に感じたのは寒さ。針で身体を刺すような寒さだった為、それは次第に痛みへと変わっていった。


「おんぎゃあ!おんぎゃあ!」


(えっ!?喋れないんだけどっ!?)


寒さもあるが何故か急激な眠気に襲われて意識を手放した。




(あれ?暖かい?…くさっ!?)


「あうあー!?」


「〓〓〓〓〓〓?」


大輝は聞き覚えのない言葉を聞いたがその時の事は強烈な臭気によって記憶には残らなかった。







「ダメだ。それだと命は断てても即死にはならん」


地球とは違う世界に大輝が転生してから5年の歳月が流れていた。

目の前の男は大輝の育ての親。職業はこの世界に蔓延る魔物を討伐する事を生業としている職業である『魔物狩り』である。

しかしそれはあくまでも表の顔。男の真の姿は王国から密命を受けては()を暗殺するプロの『殺し屋』である。


「テオ!違うと言っているだろうがっ!」


バキッ


「ぐっ…」


男に殴られた大輝ことテオはうめき声を押し殺した。痛みで声を上げようものなら声を出さなくなるまで折檻されるからである。声を出さなくなるのは気を失うまで痛みを与えられるからなのだが、そんなものテオでなくとも御免だ。


今している訓練はゴブリンと呼ばれる人型の魔物を一撃で仕留める訓練(・・)だ。

表の職業である魔物狩りであればゴブリンを倒せたら(・・・・)初心者卒業程度のレベルの低い訓練だ。

魔物狩りに成れる年齢が15歳と言うことを加味すればだが。





「15分だ。後5分足りんぞ」


『ガボッガボッバシャ』


水に沈められているテオは10歳になっていた。時間の単位は全て地球に合わせてある。


「始めからだ」


男には家族がいなかった。代々国からの任務にあたる『殺し屋』は家族を持つことを禁じられている。

では、後継はどうするのか?

それは今、テオが身を持って理解している。

物心のつく前の子供…いや、赤子を引き取る。もちろん殆どが攫う事となる。


男も先代にそうして育てられた為、他の生き方も、普通の子育ても知らない。知る必要も無かった。


今、テオが沈められているのは何も水の中から暗殺する練習の為ではない。抵抗された時、相手が毒ガスを使うかも(・・)しれないし、煙の中を逃走しなくてはいけないかも(・・)しれない。

様々なかも(・・)を想定した訓練に移っていた。

訓練が変わったと言う事はテオは順調かは置いておいて成長していると言う事だ。




「父さん。薪割りは終わったよ」


テオは12歳の冬を迎えていた。

父と呼ばれた男はさも本当の親子のようにテオに礼を言った。

これも(訓練)の成果だ。普段は普通の家族を装う事も『殺し屋』の立派な仕事の内だ。それは訓練中以外は常の事。人が聞いていようがいまいが関係はない。


「隣のおばさんからまたお野菜を貰ったんだ。今度会ったらお礼をしなくちゃね」


テオはしたくもない話しを男にした。いや話しどころか同じ空間に居たくない。それでも男はまだ40歳くらいだ。テオには逃れる術はない。


「父さんが狩ってきた肉を明日にでも持っていくとしよう」(俺は明日、仕事だ)


「喜ぶと思うよ。じゃあ肉の準備をしておくね」(魔物は狩っておく)


二人は日常会話に全て隠語を振っており、それにより会話からは誰にも『殺し屋』だとは思われない。

男は明日『殺し』の仕事があり、それを聞いたテオは男のアリバイ工作の為に魔物を狩っておくと伝えた。






テオは今、血溜まりの中に佇んでいる。

辺り一面ゴブリンの死体だらけだ。


「よし。1匹も逃さなかったな。合格だ」


ゴブリンは前述した通り強い魔物ではない。一対一なら村人でも武器を持った大人であれば倒す事が出来る。

しかし、テオの周りには100以上。数え切れないほどの屍がある。

ここはつい先ほどまでゴブリンの巣であった。

巣の殲滅は規模にもよるが今回のもので言うと魔物狩りのベテランパーティ5人以上で当たるレベルだ。


そして男が述べたように一体も逃さないと言うのはさらに倍の人員がいる。


この訓練は最終前試験である。

『殺し屋』として仕事をするには誰にもその存在がバレてはならない。もし目撃者が居ようものなら全て消し去る他ない。

もし消す事が出来なければ自害しなくてはならない。さらに言うと状況が許せば身元が判明しづらい焼身自殺が好ましい。


この試験に突破できなければテオには自害が待っていた。もちろんそれも告知されていた。だから男は本番のつもりでやれと試験前にテオに告げていた。


しかしテオは失敗してもいいと思っていた。試験を突破しても男を喜ばせるだけだからだ。それなら死も怖くない。なにせ一度経験済みなのだから。




その日の晩。

「お前も今日で15だ。世間では成人だなんだと言われているが俺達にとっては隠れ蓑の魔物狩りが出来る様になる年齢でしかない。

しかし、テオは別だ。俺から見ても既に技術も覚悟も一人前だ。()についての話しかわかるな?」


男の言葉にテオは頷く。

隠語を使っていないと言う事は隠語を決めていない言葉を使うと言う事だ。下手な事は言えない。折檻は慣れたから別に苦ではないが、何か変わるかもしれない空気の邪魔をしたくないのだ。


「お前に初仕事を与える。明日の朝、いつもの狩場に男がやってくる。そいつを『殺す』んだ。目印は首元の赤いスカーフだ。目的は命と懐に忍ばせた手紙だ。もう寝ろ」


男の言葉に頷くとテオは目を閉じた。

初めての殺人を前に何か心境の変化があるかと思ったが、とっくに覚悟をしていた事であり前世では殺したい相手もいた事で今更人を殺める事に何とも思えなかった為、いつも通りすぐに寝た。






(アイツはいないのか)


いつも通り夜が明ける前に起きたテオは顔を洗い、普段通りに支度をした。


(既に現場に行って俺の仕事ぶりを観察するんだろう。この最終試験に突破出来なければ俺は殺される。正直これまでの事を思うとアイツを殺してやりたいが、アイツも可哀想な奴だ。

他の生き方も幸せも何も知らない憐れな男だ。この試験に失敗した時に唯一の生き甲斐を失うアイツの姿が見れないのは残念だな)


男が唯一感情を見せたのはテオの成長についてだけであった。失敗すれば怒るし、成功すれば褒めはしないが機嫌が良くはなった。

テオは今回の人生で唯一自分の意志でしたことは男の観察である。

ここでテオが死んでも男は次を見つけて育てるだろう事はテオも理解している。

死ねば無駄死にだが、男が苦しむのであればそれでもいいとテオは考えている。


(だが本当に苦しむのだろうか?)


子が死んで苦しむなんて本物の親子のようだとテオは考えてしまった。

子供が失敗すれば失意や怒りを見せ、成功すれば褒める。これも親子だ。

前世で知っていた本当の親子の在り方をテオは今世で見失っていた。


「まさか…」


(アイツは…いや。それはないな。血も涙もない奴だ)


だが一度気になれば頭から離れなくなるのが人と言うもの。テオは男に死を覚悟して聞いてみようと思った。


(その為にも初仕事を失敗は出来ないな。名も知らない相手だけど恨むなら勝手にしてくれ)


テオは家を普段通りに出て、暗い中、指定された場所へと向かった。




(夜明け前に着いたな。朝と言っていたから少なくとも昼までには現れるという事だろう)


テオは忍耐強さも養われていた。常人であれば暗い森の中で息を潜めて身を隠し、いつ来るかわからない相手を半日も待ち続けられるだろうか?

いられたとしても気軽ではないのは間違い無いだろう。蛇がくれば騒ぐだろうし、虫が寄れば追い払いたくなる。

それが自然な反応であり、さも昼寝でもするかのようには待てはしない。




(風が変わった。近くに何かが来た)


小鳥の飛び立つ音、小動物の移動の気配、色々な五感を刺激するものを一つ一つ拾い上げて脳内で処理をする。

導き出された答えに今までの地獄の日々の成果を感じ取った。


(森を歩き慣れていない人の気配だ。音から男性、身長は180㌢右利き、初老)


足音の間隔で身長を割り出し、左右の足音の違いで利き足を判断して、息遣いで年齢、性別を言い当てた。


(この程度の相手なら問題ないな。あの男みたいに気配を断つ相手だと思っていたが取り越し苦労だったようだな)


テオは気配から相手の力量までも推測して殺害方法すら決断した。

男からは家で寝ている時すら油断するなと教えられていて今も守っている。テオの心の中の言葉とは裏腹に五感は研ぎ澄まされ、身体はその時に備えている。


(赤いスカーフ。やはり間違いない)


テオの隠れている木の下を男が今通り過ぎようとしていた。

これは偶然ではない。

ここに着いた時、通り過ぎるならここが一番可能性が高いと踏んだ上に、辺りの木の枝や草を使い、自然とこちらに向かう工夫も施していた。

仮に下を通らなくても次策、そのまた次策を用意していた。

他の策はハタから見たら今回は無駄になったと思うがテオはそうではない。そう思ってしまったら引退の時だと口を酸っぱくして言われ、また身体にも叩き込まれていた。


スッ


音もなく初老の男性の背後にテオは着地した。

そして着地と同時に赤いスカーフを黒く染めてターゲットがゆっくりとうつ伏せに倒れていく。


それを何の感情も見せない瞳で見送ったテオは懐の手紙が血で汚れる前に男を仰向けにした。

そして懐を漁ると目的の物を手に入れた。


ここは魔物の森、ゴブリン以外にも狼の魔物もいる。放っておけば死体は綺麗に処理される事だろう。

また今回は何も指定がなかった為、死体は放置で構わないと言う事だ。


(あの世で恨んでくれ)


テオはそう見知らぬ男性に心で別れの挨拶をして、すぐに踵を返した。






後は男に手紙を渡せば今回の仕事は終わりだ。テオが知る限り目撃者はいない。

テオは結局姿を見せなかった男を称賛した。


(全く他の気配に気付けなかった。嫌なやつだが俺はまだアイツに勝てないと言う事だ)


そして男はいつまで待っても帰ってこなかった。




いくらでも待てるように訓練はされている。だがそれでは前進しない事もある。

その為に仕事では最大でも2日の沈黙の場合、仕事自体がない事になっている。

つまりあの時から2日の今、この仕事は無くなった。


(手紙を見ても問題なくなったな。どれどれ?どんな悪事をこの男が働いていたんだ?)


興味は全く無いものの、事態の進展の為にも中身を見る事にした。そこまでが試験の可能性すらあるからだ。


『お前がこの手紙を読んでいると言う事は、無事に試験を突破したと言う事だ』


(は?)


テオは意味がわからなかった。


(もしかしてあの男は試験で俺に殺させるためだけに用意されたのか?)


すぐに一つの答えに辿り着いたが…


『家のお前の寝床の真上の天井裏に仕事の受け方やこの国での生活方法を書いたものを隠してある。テオならそれを見て行動できるはずだ。

さようなら』


(何だこれは?俺は解放されたのか?)


テオはいまいち現状を把握しきれていなかった。

生活の全てを『殺し屋』になる為に消費してきたテオにそれ以外の事を考える力は今世では養われていなかった為だ。


(まぁ天井裏を見ればいいか)


そして男の言葉は全て信じてしまっている。これは男の洗脳によるものなのか、それとも別の何かなのか。誰にも、テオ本人でさえわからなかった。





「うぉおおおおっ!!」


テオは叫んだ。天井裏に全てが隠されていたからだ。

生まれて初めて大声をあげた事によりその後激しく咳き込んだ。


「俺は…俺はこれからどうしたらいいんだっ!?」


天井裏には分厚い書物が三つあった。一冊の表紙には隠語で『殺し屋の育て方』と題名が打ってあった為、一番気になるそれからテオは読んだ。

そして真実を知ってしまった。


その一冊の最後の項目『最終試験』を読んだのだ。

そこには自分の育てた後継者に自分を殺させると書いてあったのだ。


詳細は省くが変装を施し、架空の人物になりきり殺させて、決して自分から遺書などで伝えない事。

そこでの心境の変化が最終試験の目的である。こう記されていた。


世の中から自分の理解者をなくす事、そして生きる意味を『殺し屋』だけにする事が目的のようだ。事実、今までそれで上手くいっていた。




しかし、テオは今までの『殺し屋』とは違う点があった。異世界転生者である事だ。

その影響がどれ程のものか。


物語は右へ左へ移ろい行く。人の人生も同じく。テオはこのまま『殺し屋』へとなるのか?それとも別の…

この後主人公が魔物狩りとして育ての親に鍛えられた技術を駆使して成り上がっていき、無くしてしまった前世の親愛や情を取り戻していく話しがあるのですけど、どうでしょうか?



もし連載編を読みたいと思って頂けましたなら高評価、ブックマークをよろしくお願いします。

作者のページから他にも連載を争う短編が有りますので気に入ったモノだけにブックマークと評価をして頂ければ選びやすいです。


以前の物よりこちらがいいと思って頂けましたなら、以前の短編からブックマーク、評価を外して頂ければ選びやすいです。

もちろん逆もです。


別に見たくないけど評価してやるという優しい方は大歓迎ですのでよろしくお願いします。


全てを長期で書きたいのですが時間が無いこともあり皆様に題材を選んで頂けたらと思っての試みであります。

2ヶ月以内には結論を出します。ご協力して頂けると幸いです。

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[気になる点] まず思ったのが、タイトルの「拾われた」です。 タイトル見た時に殺し屋との出会いみたいなストーリーかと思ったのですが、さっくり「殆どが攫う」の一言でした。 後ほど「拾われる」の部分が判明…
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