青年は桜に誓う
次の朝、俺は、親から出された捜索願によって必死に俺を探していた警察官によって保護された。
俺は桜の樹の前で凍死寸前だったらしい。
そう、花が咲き乱れる、桜の、木の前で。
その日のニュースは「冬に狂い咲いた桜」の樹についてばかり。
誰にも見られずに枯れるのは嫌だと言った桜の樹は世界中に報道された。
そして、あの寂れた公園にはたくさんの人が訪れた。桜の樹を見に。
桜の樹は、沢山の人に見られ、『桜』の言った通り、師走の大晦日の日に、全ての花びらを落とし、枯れていった。
そして、桜が枯れた公園は再び人気が無い公園に戻り、桜が言った通り、春に壊された。
残ったのは何もない土地だけ。
『桜』が残してくれたのは、そのニュースと、思い出と、写真二枚だけ。
一枚には、確かに桜は存在したんだと、俺に伝えるようなモノが写っていた。
桜の樹の前に透けて写る美しい幽霊みたいな女の子。
誰よりも、俺のことを分かってくれて。
誰よりも、俺の幸せを願ってくれた少女。
俺は、桜の為に、幸せになろう。
そして、子供に、教えるんだ。
桜が教えてくれた、人生の楽しみを。
春はね、生の息吹が感じることができるの。
鮮やかな花々は見てもらうために必死に花を咲かせるのよ。
だから見て楽しんであげて。
そして綺麗だと、言ってあげて。
花たちは、それだけで幸せになれるから。
もちろん、樹もね。
そして、チョウやハチは幸せな花から幸せを貰うの。
素敵な時期ね。
そう思わない? ゆきと。
夏は一生懸命生きようとする意志を感じることができるの。
ほら、ゆきと、木陰に入るだけで凄く涼しいのよ。
倒れないように木陰で涼みながら、虫や、樹や、花の命を感じてあげて。
一生懸命生きてるってわかるでしょ?
だから、自分も頑張らなきゃ、って思うの。
それに、それにね、夏は水が綺麗なのも素敵だと思うのよ。
ねぇ、ゆきとは夏好き?
ゆきと、此処見て。
鈴虫かしら?
綺麗な音色ね。
ねぇ、ゆきと。
秋はね、穏やかなの。
夏みたいに必死に生きよう、という雰囲気ではないでしょ?
でも、最後まで頑張ろうと、生を楽しもうという意思が感じられるの。
綺麗な音楽を楽しむのが、秋の風流よね、ゆきと。
ゆきと、静かだね。
でも、確かに、生はあるのよ。
冬は皆死に絶えるわけじゃないの。
少しの間地面で耐える、ってことも必要なのね。
でも、そのあと暖かい春が来るの。
暖かい春は生きているものにとっては幸せそのものね。
それを待つ、っていうのも素敵でしょう?
だって、寒いけれど、冷たいけれど、一面同じ色、なんて冬しかないわ。
生きているものにとって辛い時期だけど実際美しい雪もある。
人生も同じだと思うわ。
酷いことばかりだと思ってても、実際良い事だって、目を向ければあるの。
そう思うことは幸せよね? ゆきと……。
しあわせに、ゆきと……。