五;正体
「あれ?」
雪人は公園に来て、桜が居ないことに気づいた。
だが、念の為に公園の中まで行こうと桜の樹に手をかける。
「よっと」
公園の裏の塀は結構背が高い。
樹に手をかけてから降りるしか手は無かった。
降りようと全体重を桜の樹にかけた瞬間、ミシッという音が聞こえ、その音は一瞬にしてボキッという致命的な音にすり替わる。
「うわぁ!」
雪人は悲鳴を上げて公園に落ちた。
「いてててて……」
雪人は打ち付けた腰に手を当てながら樹を見る。
結構大きな枝だったのに、折れた樹。
「……だい、じょうぶ? ゆき……」
声が聞こえ雪人は飛び上がった。
それは、桜の声だった。
いつもよりずっと元気が無い。
そして顔色は青白いを通り越して真っ白だった。
「さ……くら?」
桜は樹の後ろからひょっこり顔を覗かせている。
どうして?
さっきまで、何も、誰もいなかった。
桜の樹の後ろには。
「桜、今、お前……どこから来た……?」
雪人は自分の声が震えているのを感じた。
塀から降りるには、雪人が使った枝が必要不可欠だ。
それも、雪人が折ってしまった。
雪人は枝を見る。
それはスカスカで、生きているようには見えない枝だった。
「…………」
桜は黙っている。
雪人は落ちたままのポーズで桜の手を引いた。
右手が、無かった。掴んだのは、服の袖のみ。中身が無い。
雪人が折った桜の樹の枝は、樹の右側。
「……桜」
桜はただ黙っている。
腕の無い袖を掴まれたまま動く気配すらない。
「…………お前、この樹だったのか」
言ってはいけない気がした。
関係が壊れる気がした。
「…………」
桜はしばらくして、哀しそうにこくりと頷く。
全てが、納得いった。
家なんてあるはずがない。
水以外のめるはずがない。
食べ物が食べれるはずがない。
最初しゃべれなかったはずだ。
雪人は何も言わず、桜をじっと見る。
桜が観念したように静かに言った。
「……わたし、誰にも見られずに枯れるのが、怖かった」
誰にも見られずに枯れる。
それは、誰にも目を向けられず死んでいくということだ。
怖いに決まってる、と静かに雪人が返す。
桜は儚く笑った。
「ゆきとが、あの日私を見て、綺麗って、言ってくれたでしょ……本当に嬉しかった。
植物は誰かに見てもらうために綺麗な花を咲かせようとしているのに、わたしは今まで誰の目にも止まったことがなかったから……」
桜は笑っていた。
白い顔をしているのに。
今にも倒れそうな顔をしているのに。
幸せそうだった。
「ゆきと……わたしが、怖い?」
怖いわけが無い。
そう言いたかった。
でも、口に出来なかった。
にっこり、桜が笑う。
「お願いがあるの……」
最後の願い、なんて桜は演技でもないことを言った。
雪人は桜が言う前からこくりと頷く。
それを見て、桜は驚いたように目を見開いて、笑った。
――最後のお願いを聞いてください
クリスマスの日の夜、わたしに会いに、来てください……