表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女×魔法少女×少女  作者: ヤマネコ
清水社巫女編(1)
9/33

清水社巫女 (後編)

1万文字行きました。他と比べて長いです。

社巫女「誰!?」


布団から飛び起きて、部屋の隅っこに移動して黒猫のぬいぐるみを抱く。


【誰って…魔女だけど?】


社巫女「……魔女?」


【そうでーす。魔女です~】


社巫女「……」


何を言っているのか分からなくて、その言葉を理解するのに数分かかった。話しかけてくる存在を注意して見るが、そいつの姿は見えない。しかしここにいるという気配は伝わってくる。


社巫女「……なんでここにいるの?」


【いや~、君に魔女になってほしいからさ。どうだい、私と契約して魔女にならないか?】


社巫女「魔女ってなに?」


【…魔女は魔法を使うことが出来る存在だ。今の君には想像すること出来ないだろうけど…。魔女になれば大抵のことはやりたい放題だよ。例えば…】


そいつが何かを動かすような仕草をすると、部屋中のぬいぐるみが急に動き出し、そして社巫女を囲む。


社巫女「みんな…」


突然トコトコと歩いて自分を囲んできた友達を見ていると、声が聞こえた。


『社巫女ちゃん、俺たちはみんな友達だよ』


『社巫女~、いつも私達に楽しいお話を聞かせてくれてありがとうね』


『社巫女さん、これからもよろしくね』


『社巫女様とやっと意思疎通が出来て私は嬉しいです』


『社巫女様~!』


沢山の声が頭の中に聞こえてくる。ぬいぐるみを見ると口を開いているわけでもないのにそれぞれ違った声がする。1つ1つのぬいぐるみがそれぞれ個別に話しかけているのだろうか。


社巫女「この声は…」


『私たちですよ~』


一部のぬいぐるみがぴょんぴょんと跳ね始める。


社巫女「飛んだぁぁ?」


【どうだい、すごいだろう?】


社巫女「あなたはみんなと話すことが出来るの?」


【魔女ですから。君も魔女になれば出来るようになるよ】


社巫女「本当!?」


今まで自分が一方的に話をしていた友達をしっかり意思疎通が出来る。それが出来るならどれだけ嬉しいことか。


社巫女「どうすれば魔女になれるの!?」


【私と契約をすれな魔女になれる。契約の内容は…】


社巫女「……」


次の言葉を聞き逃さないように耳を傾ける


【そのぬいぐるみ全てを君自身の手で引き裂くことだよ】


社巫女「………はぇ?」


【だから、この部屋にあるすべてのぬいぐるみを君自身の手で引き裂くこと。原型が無くなるまで何度も引き裂くの】


社巫女「……」


【どうした? なんでそんなに怖い顔をしているの】


社巫女「…って」


【あ? なんですかー?】


社巫女「帰って!」


【あのさ、何か勘違いしていない?】


社巫女「私の友達にそんなこと言わないで! 早く帰って! 目障り!」


【…やれやれ、また来るよ】


社巫女「もう二度と来ないで!」


それきり声は聞こえなくなっていた。周りのぬいぐるみはさっきまで社巫女の近くにいたのに、声が聞こえなくなってからは元の位置に戻っていた。


社巫女「……何なのもう」


布団に身体を横にして目を瞑る。余計なことを考えないように意識していたが、それが余計に眠気は無くなっていく。


社巫女「……」


水でも飲んで気を落ち着かせよう。そう考えて身体を起こして台所の方に向かうと、そこには母がいた。母はお酒を飲みながら何かの動画を見ている。社巫女に気付いたようだが、気にせず酒を飲み続けている。


社巫女は食器棚からコップを取り、蛇口をひねって水を出しコップの中に入れていく。半分くらいまで水を入れてコップに口を付けようとしたところ母に話しかけられる。


母「さっきまで何か叫んでいたけど、どうした?」


社巫女「……ママはさ、魔女っていると思う?」


母「……魔女? そんなものいるわけない」


社巫女「…だよね」


母は酒を飲みほしたのかコップをシンクに置いていって部屋に戻っていった。


社巫女「……あ~もう眠れなくなっちゃった」


部屋に戻り、ぬいぐるみに話しかけてみる。


社巫女「…それでさ、本当に魔女っていると思う?」


社巫女「そんなものいるわけないよね」


社巫女「…ねぇ、なんで答えてくれないの?」


社巫女「さっきはお話出来たじゃん…なんで話してくれないの?」


社巫女「私のこと嫌いになった? 私が悪いなら謝るから…どこが嫌だったか教えてよ…」


社巫女「…ねぇ、無視しないで…」


社巫女がいくらぬいぐるみに語りかけても、ぬいぐるみたちはうんともすんとも言わない。かれこれ1時間以上語りかけているが、ぬいぐるみたちは社巫女の周りを囲んでもくれない。ずっとその場で留まっているだけだった。流石に夜遅くまで話し込んでいたからか疲労が溜まって眠気が再びやってきた。


社巫女「みんな今日はもう疲れているから…黙っているんだよね? 今日はもうおやすみね…みんなお休み」


そして布団に横になり、眠りについた。











社巫女は目を覚ます。時計を見ると既に午前10時を過ぎていた。完全に寝坊だ。


社巫女「…」


寝たのにあまり疲れが抜けていない感じがする。こんな時間になっても母と父は社巫女を起こしに来ない。


部屋から出て台所に向かうが、社巫女の分の朝ごはんは用意されていなかった。家には自分以外誰もいないようでとても静かで、2人の部屋を覗くと2人ともいなかった。父は既に仕事で、母はおそらく朝早くからどこかに出かけているのだろう。


冷蔵庫から適当に材料を出して簡単な食事を作り、それを食べる。今言っても中途半端な時間に教室の中に入ることになるから、お昼休みが終わったころを見計らって行くとしよう、そう決めた社巫女はご飯を食べ終えると部屋でゴロゴロと横になって食休みをし始めた。ちらりとぬいぐるみ達を見る。深夜寝るまでにしていた表情は一切変わっておらず、立ち位置も変わっていない。昨日のこの子たちが喋って動いていたのが嘘のように思える。


社巫女「…昨日の魔女って夢だったのかな…」


【夢じゃないよ】


突然頭の中に昨日の声が聞こえてきた。辺りを見渡すが何の気配もない。天井を見上げるが何もいない、部屋の隅を見ても何もいない。


【無駄だよ、私の姿は人間の君には見えないようにしているから】


社巫女「……夢じゃなかったのね…何の用なの?」


【だから昨日から言っているじゃない。魔女にならないか?】


社巫女「あんたみたいな胡散臭い奴の話を聞くと思っているわけ?」


【…魔女になれば君の悩みを解決できると思うよ。魔法が使えるから、人間を殺すことなんか容易だし、欲しい物は作り出すことも出来るよ。例えばほら】


そういうと社巫女の目の間に大きな熊のぬいぐるみが急に出てきた。


【触ってごらん】


社巫女「……」


無視しても良かったが、こいつの話を無視してもずっとうじうじ言ってきそうな感じがしたので、大人しくいう事を聞く。熊のぬいぐるみを触ってみる。人肌のように暖かく、ぬいぐるみのモフモフが伝わった。これを触れているととても安心するような気がした。


『あなたかわいいね』


女の子っぽい声で熊のぬいぐるみが話しかけてきた。そして社巫女の部屋にあるぬいぐるみ全てが再び社巫女の前に並び始め、昨日の夜のように話しかけてきた。


『社巫女さん、おはようございます』


『社巫女様~』


『社巫女…なんか隈出来ているよ。可愛い顔が台無しだよ』


社巫女「みんな…なんで昨日の夜、私が話しかけても答えてくれなかったの」


『僕達は話していましたよ。社巫女様は人間だから聞き取ることが出来なかっただけだよ』


『人間のままだと話せません。魔女になれば今みたいに話すことは出来ますよ。さぁ、魔女になりましょう』


社巫女「でも、魔女になるためには…みんなを…」


『確かに私達を殺すことになるでしょう。でも私たちは社巫女様が魔女になってくれることは私達にとってもとても幸せなことです』


『もともと僕たちは社巫女が拾ってくれなければ、既にどこかの誰かにいいようにぐちゃぐちゃにされて今頃原型もとどめていませんよ。ここまで大切に扱ってくれただけでもとても幸せでした』


『社巫女さんのお陰で楽しい毎日でした。他の人間どもは最初私達を大切に扱ってくれるのですが、途中からまるで私たちの存在を忘れたように何かに夢中になって、掃除をする時に邪魔だと言われて床に投げつけられたり、蹴られたりすることもざらです。社巫女さんは毎日毎日話をしてくれて、しっかりと私達の手当てをしてくれてとても幸せでした』


『ここにいるみんな、社巫女様が魔女になることを望んでいます。ですからどうか社巫女様…魔女になっていただけませんか?』



社巫女「……でも…魔女になるには…みんなを」


『社巫女様』


50体のぬいぐるみの声が1つに重なる。


『魔女になってください』


社巫女「……少し考える時間をくれない?」


【ふふん、良いだろう。今日の夜まで待ってあげる】


社巫女「……そう」


服を着替え、ランドセルに教科書・ノートを入れて、学校に向かった。








社巫女「魔女か…」


登校中、友達の願いを叶えるために魔女になるか悩んでいた。今まで心のよりどころとしていた友達の願いを叶えてあげたいとも思うが、その友達を殺してでも叶えてあげるべきなのか…。迷いの振り子が止まらない。


社巫女「魔女になればみんな喜ぶけど…私は喜べるのかな…」


魔女になった時には、そこにはみんなはいない。恐らく自分しかいなくなるだろう。今の両親を見ても、自分が魔女になったとしてもまともに相手されないだろうし…このままでも相手されないし…。魔女になろうがなかろうが、両親の対応はそう変わらないだろうなと思い、心残りはやはり友達だった。


社巫女「せめて…他の魔女に話を聞けたらな…」


???「魔女の話を聞きたいの?」


声がした方に振り向くと昨日社巫女を襲ってきた連中を追い払ってくれた少女がいた。


社巫女「昨日の…。昨日はありがとうございました」


少女に頭を下げる。


???「良いって別に…。あれはあいつらが悪いんだし、貴方は何も悪くないでしょう?」


社巫女「そうですけど、助けてくれる人が今までいなかったので…」


???「……それで魔女の話だって?」


社巫女「そ、そうなんです、魔女にならないかって誰か分からないけどずっと言われていて…。友達にもなってほしいと言われているんです」


???「へぇー…ならないの魔女?」


社巫女「魔女になるには、私にとって一番大切な友達達を殺さなきゃいけないと言われていて…私は友達を殺したくないけど、友達全員が私に魔女になってほしいといわれていて…どうすればいいのかわからなくて…」


???「なるほど、それで悩んでいると」


社巫女「はい…魔女になってほしいと言われていても、大切な友達を殺してでも魔女になる必要ってあるのかなって…」


???「魔女…。どうしても魔女になる理由があるなら止めないけど、中途半端な理由で魔女になるのはおすすめしないわ」


社巫女「魔女のことを知っているんですか!?」


まさかの魔女を知っている人を見つけた。もしかしたら決断するために何か有力な情報を持っているのかもしれないと期待していると


???「人間じゃなくなるからよ」


社巫女「…人間と魔女の違いって何ですか?」


???「一番はやはり魔法を使うことが出来ることかな…でも…うん、やはり魔女になることはおすすめしないわ。碌なことないもの…」


少女は顔を上にあげて声を震わせている。魔女と何かあったのだろうか。


社巫女「あなたは魔女なの?」


???「……教えない。とにかく私から言えるのは、魔女にならざるを得ない状況…自分が死ぬかもしれない時とか、本当に魔女にならないと助からない状況以外では魔女になるべきではないわ。私から言えるのはこれだけ…さようなら」


少女は姿が徐々に薄れて姿が見えなくなってしまった。


社巫女「え!?」


辺りを見渡すも周辺には誰もいない。少女の言ったことを考えながら学校に向かって歩き始める。


魔女にならない方が良い、よほどのことが無い限り魔女にならないことを勧める…。そして魔女かどうかを聞いたらはぐらかされ姿が見えなくなった。透明になることはもしかしたら科学を駆使して人間でも出来なくはないだろうが…。突然社巫女の前に現れた少女と、魔女にならないかと提案してきた奴の出てきたタイミングを考え得ると偶然とは思えない。片方は魔女にしようとしている、もう片方は魔女になることを否定している。これがどういうことなのか…。魔女になれるのは今日の夜まで…。


社巫女「うーん」


考えながら歩いていると学校に着いていた。昇降口を通ったころにチャイムが鳴る。時間的に昼休み終了5分前だ。自分の下駄箱に靴を入れて上履きに履き替え、そのまま教室に向かい扉を開けると教室にいたクラスメイトが社巫女を見る。教室で談笑していた連中は話を一度やめるがそのまま談笑を続ける。ランドセルを自分の棚に置いて、自分の机に座ると丁度チャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。


先生「はい、歴史の授業を始めるぞ~」


生徒達各自自席に座り、授業の準備を整えると先生が黒板にチョークで殴り書いていく。


先生「今日のテーマは外国の魔女に関することを話します。教科書を開いて~」


歴史の教科書を開くと魔女の絵が一枚に書かれていた。絵には12人いて、4人は魔女っぽい服…白黒の服を着ていて、4人が色とりどりの服を着ていて何か武器を構えていて、4人は何も持っておらず裸のままだ。


先生「昔は今みたいに科学が発展しておらず、雷が鳴る、雨が降ってくるのは神様が怒りを示している・何かのお告げではないかと考えられていた。当時はそのお告げを聞くことが出来ると名乗り出る者が出てきた」


先生の説明を聞き流しながら魔女になるか考える。


先生「それから時代は進み、神の仕業だと思われていた事象は科学や物理、数学などで説明することが出来るようになってきて神の進行が一時揺らぐが、ある時をきっかけにこの揺らぎが世界にまで広がった。そのきっかけは魔女の存在だ」


魔女という言葉が聞こえて視線を黒板に移す。


先生「魔女がいると言われてから、当時の人々は未知の力を使って自分達を襲ってくると考えて魔女を全て排除しようとした。魔女は男も女もなれるが、統計的には女の方が多かったと言われている。人間が魔女を殺そうとし、魔女は自分を襲ってくる人間を殺そうとした結果、戦争になった」


先生「世界中に魔女はいると考えられて、少しでも疑わしい者は殺害や拘束をして、男は奴隷として常に見張りがついて働かされ、女は男の性欲処理としてあられもない姿にされ好き勝手されていた。妊娠したら無理やり降ろさせて、また性欲処理に回すということもされていたらしい」


先生「記録には突然姿を消す・姿が見えないのに声が聞こえる・炎や氷を手のひらから出すといったものが使われたとある。これが本当なのかどうかは現代科学で説明することが出来ることも少しはあったが、それもほんの僅かにしか解明されていない」


社巫女「……」


昨日会ったことから科学で説明することが出来るものだろうか…。


先生「それから~」


先生の話を聞いていたが、正直聞く耳を持っていなくて、右から左に流れて行ってしまう。少しだけ教室を見渡すとあることに気付く。社巫女をいじめていたあの4人、そして男子生徒の多くがいなかった。魔女のことに気を取られていて周りを見ていなかった。


社巫女「……」


クラスの半分が今教室にいない…。こういう日もあると言えばあるのだろうか…。隣の子にノートを見せる。


『なんか今日人いなくない?』


隣の子は迷惑そうな顔をしたが、その子は自分のノートに鉛筆をスラスラと走らせ社巫女に見せてくる。


『家に帰っていないんだって』


社巫女「え」


先生「ん? どうした清水? 分からないところがあったが」


社巫女「い、いいえ。なんでもないです」


先生「そうか? じゃあ続けるぞ~」


『それ本当?』


『今いない人たち全員家に帰っていなくて学校に電話してきたらしいよ』


『何があったのかな』


『わたしが知るわけない。何かの事件に巻き込まれているとかじゃないの?』


『ありがとう』


ノートを自分の方に戻して考える。


恐らく最後に今いない人たちを見たのは社巫女だろう。社巫女は何もしておらず、したのは…。


社巫女(あの人か…)


少女があそこにいた人達に何かをした。そして男子たちが4人を取り押さえて人気のない方に行ってしまったきりに姿を見ていない。そうこう悩んでいるうちに授業が終わった。









放課後になり家に帰ると、家の様子がおかしかった。なんというか…重い空気に包まれているというか…。何かいつもと空気が違うことが分かった。


社巫女「ただいまー…」


玄関を開けると中から異臭がした。生ごみというか…何か腐った匂いが漂っていた。家を出る時はこんな異臭が発するような物を放置した覚えはないのだが…。廊下を歩いていると足が濡れた。なんだと思って足元を見ると、何か透明な液体が廊下に流れていた。


社巫女「この匂い…もしかしてガソリン?」


鼻をつまんでガソリンが床に付着しているところを辿っていくと、そこには何か色とりどりみどりの服を着た女性がいた。大体160㎝くらいだとうか。手には見たことのない刃物を持っている。その刃物の先から何かが垂れ落ちる。


部屋の隅を見るとそこには父と母がうつ伏せで倒れていた。


社巫女「っ」


思わず息をのむとそれに気づいた刃物を持った女性が社巫女の方に振り返る。目があうと心臓がとても強い力でギュッと握り潰されそうな痛みに襲われるが、それを耐えてその人を見ていると


刃物を持った女性「ええ、こっちは終わりました。それで多分娘の子に見つかってしまいましたが…どうします? えぇ、はい。 …わかりました」


耳に手を当てて何かを話していたかと思うと、その女性は社巫女に近寄ってくる。


刃物を持った女性「あなたが社巫女さん?」


社巫女「……え…っ…」


刃物を持った女性「清水社巫女であっていますか?」


社巫女「は…い」


刃物を持った女性「そうですか…」


刃物がいつの間にか消えて社巫女に近づいてくる。


刃物を持った女性「あなたに恨みはありませんが…いますぐこの家から逃げた方が良いですよ」


そう言い終わると姿が徐々に見えなくなって、完全に見えなくなった。少しの間何がなんだか分からなかったが、倒れている父と母に近寄る。2人を仰向けにすると心臓部分が赤くなっていて、口からも血をこぼしている。


社巫女「え! ちょ、ちょっと!?」


刃物を持った人がいた時点で嫌な予感がしたが、まさか本当に襲われているとは思わなかった。


社巫女「えっと…きゅう、救急車!」


玄関の方に置いてある固定電話でダイヤルを回すが、


社巫女「~~~!なんで繋がらないの!?」


何度回してもずっとプルプルと音が聞こえるだけでどこにもかからない。電話線を見ると切断されていた。


社巫女「切られているし…どうすれば!」


廊下を言ったり来たりする。外に出て助けを求めよう、そう思ってドアノブに左手をかけるが、手をかけた瞬間激痛が走る。


社巫女「いた!」


何だと思って手を見ると、そこには手首しか残っておらず、手が無くなっていた。


社巫女「~~~~」


手は地面に落ちていた、切断面を見ると、見たくもないものが見えてしまう。それよりも手を切断された痛みで壁の方に転げまわりのたうっていると、父と母がいたところから煙が出てきた。何が起きているか確認したいが、あまりの痛みでそれどころではなかった。


目を瞑って痛みを耐えていると、さっき出た部屋から火が回っているのが見えた。


社巫女「~~~~~~」


煙も社巫女の上の方で渦巻いていて、少しずつだが火が社巫女の方に広がっている。あの数分もすれば社巫女もあの火に包まれてしまう。どうすればと焦っていると頭の中にあの声が聞こえてきた。


【君の部屋に行ってぬいぐるみを全て殺して魔女になりな! それ以外で君が生きる道はないよ!】


それを言われて魔女になるための契約を思い出す。契約の条件は社巫女の部屋にある、ぬいぐるみを全て社巫女自身の手で引き裂くことだ。友達を殺したくもないと思っていたが、目の前に広がる炎と煙を見ると、このままだと自分が死んでしまうと分かってしまう。


社巫女「~~~」


痛みを我慢して、自分の部屋に走り出す。残っている右手で部屋を開けるとそこにはいつも自分を支えてくれた宝物が広がっていた。死にたくないという一心で宝物のぬいぐるみを次々と床に叩き落とす。床に落とすたびに頭の中に、朝聞いた彼らの悲鳴が聞こえる。一瞬ためらうが、涙を流しながら足でぬいぐるみを踏んづけて残った右手で首を思いっきり引っ張る。


聞こえるのは悲鳴。首を引きちぎられることによる悲鳴、死にたくないという助けを求める叫びが聞こえてくる。一度これ以上叫びを聞きたくないと思い手を休めてしまうが、扉の隙間から煙が入ってきて直ぐに火が部屋の中に入ってきた。


社巫女「!?」


早くしないと…魔女にならないと…


残っていたぬいぐるみを次々と引きちぎっていく。頭に聞こえる悲鳴は全て聞こえないふりをして、ただ首をひたすら引きちぎり続ける。その間にも火がどんどん自分に近づいている。



最後に残ったのは一番大切にしていた黒猫のぬいぐるみ。他と違いこれを引きちぎるのに躊躇していまい、身体を動かすのをやめると背中がとても熱かった。あまりの熱さに思わず黒猫のぬいぐるみを部屋の隅の方に投げてしまい、自身は壁に転げまわる。さっきまで入り口付近で燃えていた火は、部屋の半分にまで来ていてもう出入口を通って逃げることは出来なさそうだ。



社巫女「はぁ…はぁ」


心臓の音がうるさい。まるで口から心臓が飛びでそうな勢いで脈を打っている。出入口に広がる炎を見て、黒猫のぬいぐるみを見て、また炎を見て、ぬいぐるみを見て。


自分の死か大切な友達を殺すか…迷ったが、


急いで隅に放り投げた黒猫のぬいぐるみの方に駆け寄り


社巫女「ごめん!!」


黒猫のぬいぐるみの首を引きちぎった。その時の黒猫の悲鳴が他のぬいぐるみを引きちぎるときよりもやけに強く、鮮明に聞こえた。


【契約成立だ】


その言葉が聞こえた直後、自分の身体が強い光に包まれた。


時間にして数秒、社巫女が「炎よ消えろ」と念じて、右手を炎に向けると今までメラメラと燃えていた炎が最初からなかったかのように消えた。


社巫女「はぁ…はぁ…」


痛む左手首を見て、「左手を治す」と念じると扉の方に落ちていた左手が磁石で引き寄せられるように飛んできて左手首にしっかりとハマると元通りになった。切断面は無かったかのように右手と同様になっている。


社巫女「……」


痛みもいつの間にか無くなって部屋を見渡す。床が黒焦げになっていてぬいぐるみの頭と胴体がバラバラになっていた。頭は全て今いる社巫女の方を向いていてそれぞれと目があう。


膝をついて両手を床に置き


社巫女「みんな…ごめん…ごめんなさい…」


両目から涙が止まらなかった。















いつまでも返答は来ないのに謝罪を続けているうちにあることを思いつく。


社巫女「そうだ…みんなが生き返れと念じれは…」


50体のぬいぐるみを思いながら生き返れと強く念じる。


念じて、念じて、念じたが


彼らの首と胴体は接合することなく、そのまま社巫女を見つめていた。


社巫女「なんでっ!? なんでっ!?」


何度も強く念じるが、いくらやっても生き返らなかった。そのことに絶望し、また涙が出て鼻水も止まる余地がなく、嗚咽をこぼしていた。














火事が起きてからどれだけ時間が経ったか。時計を見るといつの間にか日付が変わっていた。これ以上出ないと思うくらいに涙を流し、鼻水を流したのをティッシュでふいて一度両親の様子も見に行く。両親は倒れていて息をしていない。脈も見てみるが



社巫女「……」


無言で指を離して、そのままの状態にする。涙と鼻水はもう出ない。もう一生出ないと思うくらいの量を出したからだ。


死体になってからどれだけ時間が経ったのか…少なくとも5時間は経っていたからか少し身体が冷たいと感じた。


このまま放置していたらいずれ虫が寄ってきて卵を植え付けてしまうだろう。そう考えた社巫女は両親の死体を消すことを決めて、両親の手を握る。


2人とも目を瞑っていて、なんだか小さいころ怖くて寝付けなくて両親の間に入り一緒に寝ていたことを思い出す。


社巫女「あの時はこんなことになるなんて思わなかったのに…」


せめて安らかに眠れますようにと願いながら消えろと念じると両親の遺体は無くなってしまった。どこに行ったのかは社巫女にも分からない。


一度部屋に戻り身体を横にして休ませる。この後どうするか今は考えたくなかった。とにかく、今は眠りたい。目を瞑って何も考えないようにした。










どれだけ寝たのか…起きて時計を確認すると午前3時だ。外は真っ暗で、街灯がついている箇所が少しだけ見える。無言で身体を起こして顔を洗うために洗面所に向かう。


そこに映っていた自分の顔を見てみるが、よくわからなかった、怒っているのか…憎んでいるのか…悲しんでいるのか…どんな言葉が自分の顔に当てはまるのか分からなかった。



社巫女「……」


契約成立をしてから頭に聞こえてくる声はもう聞こえない、こちらから何度も呼びかけても返事が全くない。


社巫女「……」


これからのことを考える。自分がやるべきこと…。


社巫女「……絶対に」


魔女になれと言ってきたあいつ、両親を襲ったあの女


社巫女「……絶対に…絶対に…」


自分の大切な友達を自分の手で殺すように仕組んできたあいつ、両親と最後くらいしっかりと話す機会自体を奪ったあの女


社巫女「絶対に許さない。見つけ出して殺してやる」


鏡に映る自分に言い聞かせるように、頭から離れないように、絶対に忘れないように、何度も何度も何度もその言葉を言った。



ブクマよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ