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魔女×魔法少女×少女  作者: ヤマネコ
清水社巫女編(1)
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清水社巫女 (中編)

社巫女「ただいま…」


返事はない。いつものことだ。親は自分が帰ってきても特に顔を見せず、何も反応しない。いつも通りランドセルを自分の部屋に置いて、部屋着に着替えて手洗いうがいをした後にもっていた黒猫のぬいぐるみをメンテナンスする。


社巫女「…これでよし」


解れていた箇所を直して満足していると、机の上に洗濯物がドサリと置かれた。置かれた手を見てその方向を見上げると母だった。


母「やっておいて」


社巫女の返事を聞かず部屋に引きこもってしまった。いつものことだ。母は家事を一切せず、ただ食べて寝てどこかに出かけては帰ってくると繰り返している。父は仕事に気を取られていて、家のことにあまり関心がない。仕事が無い日も部屋で寝ているだけで、ほとんど交流がない。社巫女が小学1年生の時は、母も父も仲良く話をしていたが、4年生くらいになってから家がギスギスし始めた。何がきっかけだったのか…。


最初は2人ともただイライラしているだけかと思っていたが、だんだんと歯車が狂うように家で仲良く話す声が無くなっていた。きっと大丈夫、そう思いながら食事中2人に話しかけることがあったが


社巫女「それでね~」


父「そうだな」


社巫女「……あとさ~」


母「へー」


社巫女「……」


何を話しても「そうか」とか「へー」としか返ってこなくて、返事をすることしかできない人形と話している気分になって、そのうち社巫女も自分から話すことも無くなっていた。そしていつの日か、家族全員が揃うことも無くなっていた。休日も両親のどっちかが出かけていることが多くて、両方いないことも珍しくない。そうなると1人になることはとても自然で、誰も相手にしてくれないことも増えた。


家族以外なら友達と…。と思って友達を遅くまで話をしていたが、最近女子の仲がギスギスしていた。最初は特に何も考えないで仲良く話せることは出来たが、いつの間にか派閥のようなものが出来ていて、知らないうちに自分がリーダーとなっている派閥が出来ていた。特にこれと言って何かしたわけでもないのに…。そして彼女たちは自分のことを友達と見るよりは、自分と一緒にいることで地位を上げることが出来ると考えているようで、自然と話すことが出来なくなっていた。


社巫女「はぁー」


洗濯物を片付けながら、黒猫のぬいぐるみを見る。この黒猫のぬいぐるみは社巫女が小学1年生の時に入学祝として両親から貰ったプレゼントで、今でも大切に扱っている。ボロボロでとても人に見せられないが、社巫女の一番大切な宝物だ。自分にとって一番の宝物は何かと聞かれれば、間違いなくこの黒猫のぬいぐるみを上げるだろう。


下着・衣類・靴下と父・母・自分ように分け終え、それぞれの部屋に運ぶ。父の引き出しにそれぞれ入れて、次に母の部屋に向かう。母は布団に身を包めて電子機器を使って遊んでいる。時々笑いながら画面を見ていて、部屋に入ってきた社巫女を一目見るがすぐに視線を画面に戻してまたケラケラと笑い始める。


社巫女「……」


無言で母の衣服を引き出しに入れて部屋を出る。母としっかり話した記憶がもうずいぶんと昔に感じる。自分の部屋に戻り扉を閉める。部屋には沢山のぬいぐるみが置かれていて、女の子らしい部屋ともいえる。普通はお洒落の要素で1つや2つくらい設置すると思うが、社巫女の部屋には50以上のぬいぐるみが置かれている。そしてそのぬいぐるみ1つ1つに


社巫女「ただいま。今日ね、とてもかっこいい人が私を助けてくれたの。あ、格好いいと言っても女の子だったけどね。一体誰なのかしら! こう私の前に現れてね、私をいじめてくる奴ら全員を意のままに操るというか、こういうことを聞かせているようでね!それでこうババっと襲おうとしてきた男たちをどこかに追い払ってね!」


社巫女「今日の給食はシチューだったの!クラスの人たちはシチューが好きな人が多くて、配膳し終えて残ったシチューをじゃんけんで勝った人がお代わり出来ることになってね、私もじゃんけんをしたけど負けちゃったの」


社巫女「今日もお母さんと話せなかった。どうすれば話せるようになるのかしら。もうかれこれ3年以上満足な会話が出来ていないわ。2人に話しかけるのも辛いよ。無視されるのも辛いけど、話せないのももっとつらい。ねぇイルカさん、どうすればいいのかな」


社巫女「私のことは財布としか見てくれなかったわ。友達思っていたのに…。ねぇ、友達ってお金を払わないといけないの? もう何回もこんなことが起きていて、正直友達ってみんなくらいしかいないのよ。これからもずぅっと私と友達でいてくれる?」


社巫女「うん? 私が皆をどう思っているか? とても大切な友達よ! だってみんな私を殴らないし、蹴らないし、お金を取らないし、私のいう事は何でも聞いてくれて…これほど最高な友達はあなた達くらいしかいないわ!これからもよろしくね」


社巫女「え? ちゃんと人間の友達を作れ? もういいの。人間自体化物みたいに見えてきたし、私はあなた達がいればいいの」



こんな感じ1つ1つの人形に話しかける。犬・猫・うさぎ・ライオン・イルカ・コアラ・キリン・パンダ・ネズミ・ハムスター・蝶・ゾウ・サル・ペンギンなどなど…。大体2時間くらいかけて今日あったこと、昔にあったこと、やってみたいこと、嫌だったことを洗いざらい言う。この部屋にいる限り、社巫女は誰からも攻撃されることがないから外に出て遊ぶこともめったになくなっている。自ら危険な外に出る理由が分からなく、両親がなんであんなに外にポンポンと出られるのか不思議でしょうがなかった。


ずぅっと話をしていると母が部屋を開けてきた。何度もノックをしろと言っているのに娘の言うことを聞いてくれない。


母「ご飯作りなさい。お腹空いたわ」


社巫女「……はい」


母は社巫女の返事を聞いて、部屋を出て行く。


社巫女「みんな、また後でね!」


ぬいぐるみを元の場所に戻して、部屋の電気を消して台所に向かう。冷蔵庫の中を見て作れそうなメニューを考えていると玄関から扉が開いた音が聞こえた。足音からして父親だ。


父「……」


社巫女「パパ、お帰りなさい」


父「ん」


社巫女の目を見ないでそのまま手洗いをした後に部屋に入ってしまった。



社巫女(…全然話が出来なかったな~)


調理をしながら、軽く掃除をして、湯銭を張っていると鍋がコトコトと音を立てだす。急いでキッチンに戻り火を止める。食器に移して台所に置く。父と母に出来た事を伝えるが


父「後で頂くよ」


母「これ見終わったら行くわ」


2人が来るまで待つが、30分経っても来なかった、試しに両親の様子を見ると父は仮眠を取っていて、母はゲラゲラと笑っていて社巫女の声が届かない。これ以上待っても無駄だと思い、1人でご飯を食べる。


これもいつものことだ。数年前からいつもご飯を食べる時は1人だ。学校の給食もみんなで食べているが、どこかギスギスしていて正直1人で食べるよりも気まずい。1人で食べようと教室から出ていこうとしたら、担任の先生が「教室で食べなさい」としか言わず、聞く耳を持ってくれなかった。


いつも通りの1人の食事を終えて、食器を洗い乾燥機に置いてお風呂に入る。入浴を終えて、髪を乾かして部屋に戻ると誰かが食卓に来た気配がした。話をしてみようかと思って出て行くと、父だった。父に話しかけてみるが


父「うん」


父「そうか」


父「ほう」


まるで会話にならない。話をしても社巫女の目を見ないでどこかを見てうなずいている。生きているのに生きていない。そんな印象を抱かせる。なんか相手をするのが苦痛になり部屋に戻って寝ることにした。


布団に身を包めて枕に頭を乗せて天井を見る。電気を消しているから真っ暗なのは当たり前だが、何かいつもと違うような感じがした。なんだろうと思って天井を凝視するとそこに何かがいるような気がした。更に凝視をするとその何かが動いて社巫女の頭の横に着地する。驚きのあまりに布団から飛び起きてそれと相対する。


【あらら、バレちゃったか】


そいつはそのまま動かないで話しかけてきた。口で話しかけたのではなく、頭の中に話しかけてきた。


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