伊藤ルキ (前編)
評価・ブクマよろしくお願いします。
ルキ「…っち」
不良「…ぐぅ」
倒れている男たちの上着やズボンのポケットから財布から取り出し札や証明証を取る少女が1人いた。その少女はとても背丈が小さく、見た感じ小学生5,6年生だ。風船ガムをしていて、顔についた傷を手で拭いながらその場を去る。
ルキ「ほら、これで依頼完了だろ? 報酬をよこせ」
ルキが札と証明証を1人の女性の前に置くと、その女性は傍にいた護衛人に顎を動かし調べさせる。護衛人は首を縦に振ると、女性は手を上げてクイクイと振ると女性の後ろからまた違う護衛人がアタッシュケースを持ってきてルキの前に置く。ルキは無言でアタッシュケースを開くと、そこには大量の札束が入っていた。見た感じ200万程度だろうか。1人の少女にポンと渡す金額ではない…少なくともまともな仕事ではないだろう。
ルキ「確認した」
アタッシュケースを閉じると1人の女性が口を開く。
女性「次までに身体を休めておきなさい」
ルキ「…」
少女は無言で部屋を出て行く。
護衛人A「いいのですか?」
女性「構わないわ。あれもそろそろ捨てるつもりだし」
護衛人B「まだ彼女は使えると思いますが?」
女性「いらないわよあんな娘。もっと要領よく仕事をしてもらいたいものだわ」
ルキ「何を食べようかな」
一仕事を終えたルキは自分の口座に200万を入れた後に、街をブラブラと歩いていた。街には出店がいくつか出ていて、おいしそうな匂いが辺りに広がっている。
ルキ「おじさん、これ1つ頂戴」
屋台の店主「あいよ、250円ね」
ルキ「はい」
屋台の店主「まいどあり~」
アイスクリームを購入して、クリームの先っぽを小さな下でペロペロと舐める。仕事終わりに食べるのは一味違うなと思いながら食べていると誰かが話しかけてきた。
少女A「あれ? 伊藤さんじゃん」
ルキとほとんど同じ身長の少女が3人いる。彼女たちの目は友達に会ったとか、久しい誰かに会ったというよりは、気に入らない相手をからかう、ちょっと攻撃してやろうという感じの雰囲気の子たちだった。その3人はルキが通っている小学校の同級生で、いつも大きな声で話していて、常にだれかでいじめていることで有名だ。被害に遭った生徒も少なくなく、教員に相談している人もいるらしいが相談して数日後不登校になっていることが多いと噂されている。
ルキのことをいつもからかっていて、時々殴りかかってくることもあった。ルキ自身はこの3人のことはとても不愉快な存在と思っていて、正直排除したい存在の1つだ。ルキは3人を無視してこの場からいなくなろうとすると、取り巻きの2人がルキの腕を掴む。強引に振りほどくと、2人はしりもちをついた後に、大泣きし始めた。それを聞いた背の高い男性、おそらく高校生くらいだろうか。そいつらが何事だと駆け寄ってきて少女達の話を聞くと、その目は怒りを示していてルキに向かって怒鳴り始めた。自分は何もしてないと男性達に言っても、聞く耳を持たずルキが100%悪いという言い方で説教をし始めた。男性の後ろに隠れている3人の少女を見ると、口元をゆがませてクスクスと嘲笑っている。
ルキ「はい、すいません」
最初は抵抗していたが、それをすると余計大きな声でルキを叱り始める。その声で周囲の人たちが何事かと思い、更に視線は集まる。本当にこいつら暇なのか。高校生が1人の少女を叱る絵面…周囲の人は基本的にルキの味方に付くと思うが、いつも絡んでくるこの3人のウソ泣きの演技の完成度が高いので、ルキを非難するような視線が多い。いつからかルキから謝るようになっていた。当然内心では納得しておらず、誰も見ていないならこいつら全員排除してやろうかと思ったが、それをやると生活が出来なくなる。
ルキは両親の代わりに借金返済のために働かされている。本来は両親の2人がどうにかする問題なのだが、いつの間にかどこかに逃げてしまったようで連絡もつかない。ルキは捨てられてしまったのである。
最初はとても嫌だった。借金返済の為にと男性の相手をしないといけないことがあり、男性の汚らしい物を触れさせられたり、口に入れられたり、股に擦られたりなどされ、着たくもない服を着せられ、食事や風呂も満足できるものではなかった。あまりの男性の気持ち悪さに我慢の限界が来たのか…近くに置いてあった花瓶で後頭部を殴ってしまったことがある。その男性は殴られた後に動かなくなり死んでしまった。
その男性は社会的に表には出られない人材だったようで、裏社会の中では有名な人らしい。そんな人物を事故とは言え殺害してしまったルキは更に陰湿な嫌がらせを受けるようになっていた。食事に泥や刃物が入っていることや、トイレに行って用を足している時に泥水をかけられることもあり、寝ている時に気がついたら裸の男が部屋に入ってきて紐でルキを縛ろうとしていることだってあった。
そんな最低最悪の日々を送っている時に、ある日1人の女性が声をかけてきた。そいつは「ノワール」と名乗った。ノワールはどうも今ルキが暮らしている所の組織に興味があるらしくて、ルキと取引がしたいと言ってきた。
取引の内容は「ルキがいるところの組織のメンバー・情報を提供してくれたら、仕事を斡旋して給料や住む場所を提供してあげる」というものだった。この時には既に心が荒れていて、怪しいと思ったものの、正直ずっとあそこにいたらいつか孕まされてしまうのも時間の問題だろう。それは嫌だったのでノワールの提案を受けることに。
ノワールの仕事は主に街中にいるチンピラの所在・メンバーなどを監視、場合によっては戦闘をすることで殺人を強制されることもあった。窃盗や破壊まではなんとか受け入れることが出来たが、殺害は断ろうと思ったが、断ったらもう仕事の斡旋はしないと言われてしまい断ることが出来なかった。
この仕事を失ったら、また泥のような食事と生活に逆戻りで、また気持ち悪い男の相手をしなくてはならないからだ。10人以上を殺害してから、それ以上数えるのをやめてしまった。最初は殺したことによる罪悪感がとんでもなかったが、生きるためにはと考えているうちに罪悪感なんて無くなっていた。
仕事以外で誰かに怪我を負わせる、問題を起こすなどがあれば仕事が入ってこないと言われ、反撃しようにも反撃することが出来なかった。反撃すれば一時的に満足はするだろうが…その先に待っているのは地獄だろう。怒りをなんとか抑えてやり過ごしていると、説教をしていた男達は満足したのかいなくなって少女3人はルキにぶつかり、足を踏み、最後の1人はルキの持っていたアイスクリームを奪い、ルキの顔にぶつけてきた。3人はとても下品な笑いをした後に去っていた。
ルキ「…」
殺したい。四肢を引きちぎるだけでは足りない。私がされたように男たちに滅茶苦茶にされて泣き叫ぶところが見たいが、それをすれば自分が同じ目を見ることになる。顔についたアイスクリームをポケットからハンカチを取り出して拭く。近くにはもうだれもいなくなっていた。誰もが同じことを思ったのだろう。
「あの子に関われば自分もめんどくさいことに巻き込まれるのは間違いない」
大体こんなことを感じたに違いない。以前は割ってきた人も数人いたが、今では目を逸らされるようになってしまった。どうせあいつらが何か仕組んでいるのだろう。
ルキ「はぁー」
何かあいつらを痛めつける方法無いかなと思いながら再び街を歩き始めた。