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魔女×魔法少女×少女  作者: ヤマネコ
柊椿編(1) 
3/33

柊椿 (後編)

ポイントが欲しいです…。

椿「…」


父「…。椿」


父の顔を見ると、父は声を震わせながら話す。


父「実は父さん…借金をしているんだ」


椿「…え」


父「さっきの人たちからお金を借りていてね…。借金を抱えていた」


椿「…いつから」


父「…1年前くらいから」


椿「…なんで…」


父「生活が苦しくて最初は少しだけ借りていたんだ。借りては直ぐに返していたんだけど、その…クビにされて。それから沢山借りるようになったんだけど、みるみるうちに借金が増えていって、お金を返そうと賭博をしていたが負け続けて…すまん」


父が頭を下げる。母は怯えているのか、何も言わない。


椿「…返せるの?」


父「…」


椿「借金って…いくら?」


父「…」


椿「…何か言ってよ」


父「…2千万くらい」


椿「…」


あまりの額に絶句してしまう。


母「なんで」


震えた声で横にいる父に話しかける。


母「なんで言ってくれなかったの」


父「…心配をかけたく無かったから…」


母「心配!? 心配よりも借金を返す方法を考えなさいよ! もしこのままだったら…自己破産…」


自己破産以外にも方法はあるにあるが、今後の生活を思うと今よりもつらい生活になるのは避けられないだろう。母は頭を掻きむしり大きな声で父を罵倒している。普段静かな母がとても大きな声で罵倒する姿は初めて見た。


父「…」


母「…」


椿「…」


空気がとても重い。正直今すぐにこの場から去りたい気持ちでいっぱいだが


椿「いつまでに借金を返せばいいの?」


父と母がとても驚いた顔で椿を見る。


父「なにを…」


椿「良いから! いつまで?」


父「今日の23時59分まで…だけど」


椿「…分かった」


母「椿…何か方法があるの?」


椿「…」


無言で立ち上がりこの場の空気に耐えきれず家から出て行く。方法はあの猫のいつ魔法に頼ることだが…確証がないので黙っておくことにした。







家から離れて近くの図書館に行って時間を潰して、夜になった。家に戻って、近くを探してみると、学校で聞いた声が聞こえた。


【来たよ】


声が聞こえた方を向くと、そこには学校で見た白い猫がいた。


【なんか大変な状況になっているみたいだけど、どうしたの?】


椿「そんなことはいい、早く魔法を教えて」


【…そんなこと?】


猫が前足で目元を擦っていたのをやめて椿の目を見ると、自分の身体に激痛が走った。痛む場所を見ると、腕から血が垂れていて骨が見えるほど何かで切り刻まれていた。


椿「~~~」


あまりに痛みに声も出ない。膝を地面に付けて痛みを我慢していると


【人間ごときが調子に乗るなよ。お前何様? 私に命令するとか】


椿「~~~」


【おい、何か言えよ】


椿「ご、ご」


【あ?】


椿「ごめん…なさい」


【…ふん、次から気を付けろ】


猫が椿の傷口をペロペロと舐めると、さっきまでの傷が無くなり痛覚も収まった。


椿「…あれ」


痛みが無くなり、腕や自分の身体をキョロキョロと見渡すと地面の一部が黒くなっていた。さっき垂れた自分の血だろうか…。


【これが魔法だよ。作ることも出来れば、壊すことも出来て、直すことさえも出来る。さて、何があったか話してもらおうか。あ、別に話さなくてもいいよ? 直ぐにここからいなくなるから】


椿「待って!」


今ここでこの猫の機嫌を逸らしたら、間違いなく自分の家族の未来は暗いままだ。今すぐにでも金が要る。猫に自分の父が1年前から借金をしていることを話し、返済期限が今日の23時59分までであることを伝える。


【なるほど…。それで今すぐにお金がいると…】


椿「…」


【…ふふ】


椿「…?」


【馬鹿だね君の父親は】


椿「!?」


【借金を返済するために賭博…。まぁまだましな方か。 いいだろう。魔法を教えてやるが条件がある】


椿「…なに?」


【契約をして魔女になってもらう】


椿「魔女?」


【そう魔女。人間をやめて魔女になってもらう。魔女になれば好きに魔法を使えるよ? 例えば大量の金、窃盗も容易になるし、相手を好きにすることだってできる。気に入らない存在はすぐに殺せるし、大抵のことはやりたい放題だよ】


椿「それなら魔女になりたいわ。どうすれば魔女になれる?」


【契約者にとって一番大切なものを壊すこと。それが契約の条件だよ】


椿「!?」


【当然でしょう? これだけのことが出来るようになるわけだからそれなりの条件がつくのは当たり前だよ】


椿「私にとって…一番大切な…もの…」


【君の場合はそうだな…家庭…。つまり父親と母親を椿ちゃん自身の手で殺害することになるね】


椿「そんなこと出来るわけないでしょう!」


【じゃあ話は終わりだね。さようなら柊椿】


猫の姿が徐々に見えなくなる。鉛筆で書かれていた線を消しゴムで中途半端に消して薄っすらと見えているような感じだ。このままだと完全に消えてもう話せなくなるだろう。


椿「ま、待って!」


猫の姿が薄れたまま止まる。


【なに?】


椿「その…2人の殺害以外で…できませんか?」


【え~】


気に入ったおもちゃを取られた小さい男の子のような声を出しながら首を傾げる。


【…じゃあ特別に…】


椿「なに!?」


両親の殺害以外に方法があるならなんでもしてやる。そんな意気込みで猫の声に耳を傾けると


【今まで君に関わった者から君に関する記憶を全て消去。これでどう?】


椿「…」


【大分譲歩したよ? これでもダメなら私はもう消えるから】


椿「…」


【それは受けないと受け取っていいのかい?】


椿「…わかった。その条件を受ける」


自分を忘れられてしまうのは…特に両親からも忘れられてしまうのはとても悲しいが、両親の殺害に比べればはるかに軽いものだと考え、その条件で契約することに。


【分かった。じゃあ今から君を魔女にする】


自分の足元がキラキラし始めて、気が付いたら視界が真っ白になった。閉じていた目を開けると、そこには猫の姿が無かった。


椿「あれ…」


【これで君は人間から魔女になった。これからの人生を楽しみな。じゃあね】


それ以降猫の声は聞こえなくなった。家に戻ると何か怒鳴り声が聞こえてきて、家の前にはさっき会った黒服たちが詰問していた。


黒服A「おいゴラァ」


黒服B「はよ返金しろや!」


黒服たちは父に殴る蹴るを繰り返していて、父は更にボロボロになっていた。


父「すいません…どうか命だけは…」


黒服A「あぁ、命だけは助けてやるよ、命だけはな」


父の顔が青ざめる。玄関に近づくと、椿に気付いた黒服が睨んでくる。


黒服A「嬢ちゃん、今とりこみ中なんだ」


椿「はいこれ」


黒服B「あ?」


黒服たちの目の前にカバンを置く。


黒服A「おいおい、なんのつもりだこら。子供のお遊びに付き合っている暇はないんだよ」


椿「その中に2千万入っている。それをもってここから消えてほしい」


黒服B「…」


黒服の1人だ黙って椿の置いたカバンを開けて中を確認すると驚いた声を出す。それにつられてもう1人もカバンの中身を見ると


黒服A「…偽札じゃないだろうな」


椿「本物です。いいから早くそれもって消えてください」


黒服B「はん、まぁ金が返ってくればこっちとしては問題ないわけだがよ。もしこれが偽物だったら覚悟しろよ」


黒服たちはカバンを車の中に入れてそのまま去るかと思ったが、家の方に戻ってきて父に殴りかかる。


椿「ちょっと! もうこの家に関わらないで」


黒服B「大体お前は誰だ? おい、こいつお前の知り合いか?」


父「し、しらない。そんな子は知らない! 私たちには関係のない子だ!」


覚悟はしていたが、いつも一緒に生活をしていた父から言われるとキツイ。奥から母も出てきて


母「その子はだれ?」


父「分からないんだ。お前は知っているか?」


母「知らないわよそんな子」


椿「…っ」


黒服A「なんだ、本当に知らないのか…おい」


黒服の1人が椿に何か布を当てて口に手を抑えてきたが、


椿「ふん!」


拘束してきた黒服の腹部に肘を思いっきり突くと、「バキッ」と骨が折れる音がとても大きく聞こえ、黒服は後ろに倒れると全く動かなくなった。


黒服A「て、てめぇ!」


仲間が椿に向かって殴りかかってきた。椿はそいつのことを「消えろ」と念じたら、さっきまでそこにいた黒服がいなくなってしまった。


椿「…」


父と母を見ると、2人ともとても怯えて…不気味なものを見るような眼で見てきた。


椿「あの」


父「っひ! 殺さないでください!」


母「うちには何もありません! 何か気に障ったなら謝ります!」


椿「私のことを覚えていませんか?」


父「…え?」


母「…いや、初めて…です」


父「私も…あなた様とは初めて…会います」


椿「本当に? 私は2人の娘の椿だけど」


父と母はとても怯えた目でお互いを見て、ああだこうだと話している。本当に椿に関することを忘れてしまったのだろう。


椿「すいません、なんでもありません。ここに泊めさせてくれませんか?」


父「いいいや、その、うちには本当に何もないです!」


母「本当にうちには何もありません! 本当です!」


椿「いいから」


父「はい」


母「どうぞ」


言う事を聞けと思いながら2人に言うと、2人はそれまでの怯えはあるものの聞いてくれた。いつも使っている布団を取り出して床に敷いていると2人ともとても怖がってる。


椿「私は怖くないよ」


自分は怖くない存在だと伝えると、2人とも怖がるのをやめた。


椿「私は2人の娘です」


父「いや、私達に娘はいないよ」


椿「2人の娘です」


母「私達に娘はいません」


椿「…」


他の言う事は従ってくれるのに、自分が娘という内容には従ってくれなかった。それが一番椿にとって従ってほしい内容なのに…。


椿(いや、自分が娘ということを言い聞かせるなんて…本当にそれでいいのかな)


今までの生活を思い出しながら布団に入り電気を消す。両親はぐっすりと眠ってしまっていた。今までここで両親と苦楽を共にして、一緒に笑って、一緒に泣いて…。それがボタンを押すように命令や願えばかなってしまう。それが本当に椿に取って嬉しいことなのか…。


椿「やめやめ、寝よう」


そうして目を閉じて意識を手放した。










目が覚めると両親は既に起きていて、部屋の隅に正座をしていた。椿が目を覚ましたのに気付いた両親は椿に駆け寄り


父「椿様、何かしてほしいことはございますか?」


母「なんでも従いますよ。なんたって椿様は私たちの救世主ですから」


椿「…じゃあその様付けはやめて」


父「いえいえ、椿様。そんなことをおっしゃらずに」


母「椿様万歳!」


椿「…やめてって言っているでしょう!」


父「…」


母「…」


椿「ちょっと…。何か話してよ」


父「椿様の命令なら何でも従います」


母「椿様の命令なら」


椿「それをやめて!」


自分の両親が自分をこんな風に扱うなんて…以前軽いノリでやったことはあるが、とても気味が悪い。


椿「私は学校に行く。2人はそれぞれのやることをして」


父「はい!」


母「かしこまりました!」


2人ともすぐに行動を起こし始めた。


椿「…どうすれば」


その後も、自分が魔女になる前の通りにしてほしいと思いそれぞれに言ったのだが、まるで何でも言うことを聞く人形に話しかけている気分になるばかりだ。魔女になる前の思い出や出来事を話してみるも全く覚えていないようで、置いてあった3人が映っている写真を見せても2人には椿の姿が見えていないようだ。椿が映っている箇所を指さしても、何もないと言っている。2人には椿のことを全く思い出せないようだ。


椿「…っ!」


学校に登校中に涙を流しながら2人にどうすれば思い出してもらえるかを考えていると、同じ学校に通っている隣のクラスの人が話しかけてきた。


生徒「大丈夫? お腹痛いの?」


椿「…私のことを知っていますか?」


両親以外にも覚えている者を探してみるも


生徒「え? …いや初めて会いましたよね?」


聞いた全員がこの生徒と同じ反応だ。生徒以外にも、近所の人、教師も誰一人椿のことを覚えている者はいなかった。椿が通っていたクラス全員が行方不明になっているようで警察が事情聴取をしている始末で、椿も行方不明扱いになっている。誰一人椿のことを覚えていない。


学校にいても教室がない、保健室に行って自分のクラスと名前を言って休もうとしたら、保健室の先生はとても困惑した顔で椿を見て、なんども椿に本当はどのクラスで名前は何かを聞いてきた。この学校にも家にも居場所がない。次第にそう感じるようになっていた。


椿「~~~!」


何もかもが嫌になって逃げたくなる。どこか遠く…ここから離れたい。学校から抜けてランドセルを背負ったまま歩き続ける。どこにいこうか。ここにいたくないだけで、行きたい場所があるわけではない。仮に行ったとしても生活できるだろうが…精神的に持つかどうか…。


椿「…」


今まで自分が住んでいた家を見る。ここにいても生活は出来るだろうが、今までの2人はもういない。


椿(いや違う。2人がいなくなったんじゃない。私がいなくなったんだ)


椿「…今までありがとう。さようならお父さん、お母さん。元気で」


家に頭を下げる。目からは涙が流れ、鼻からは鼻水が止まらない。手足は震えてここからいなくなるのは嫌だと身体が訴えているが、今の2人と一緒にいるととてもつらい気持ちになる。


家に背を向けて歩き出そうとすると背中から「行ってらっしゃい」というのが聞こえた。驚いて後ろを見るが、そこには誰もいない。「行ってらっしゃい」は普段学校に行くときに母が言ってくれた言葉だ。


家に戻りそうになる足をなんとか踏みとどまって、家に背を向けて駆け出した。目からこぼれる涙が頬に伝って流れていく。脈がとても速くなっていて心臓の音がうるさい。頭も痒くなって掻きむしりながら走る。


走る。走る。転んでも走る。人に変な目で見られても気にせず走り続ける。呼び止められても無視して走り続ける。


こうして椿は地元から離れることを決めた。







走り続けると道路に出た。道路を走っている車の前に身を出す。車は急停車してドアを開けて椿に怒鳴りながら近づいて来る。


運転手「おい! 危ないだろ!」


椿「私を乗せて駅まで走りなさい」


私のいう事を聞きなさいと念じながら言うと


運転手「はい、どうぞ」


運転手は後部座席のドアを開けて椿が入れるようにする。幸いにも乗車者は運転手1人だけだった。


運転手「…」


椿「…っ」


辛くて涙と鼻水が止まらない。運転手は無言でティッシュ箱を椿の膝に置く。椿はそれを遠慮なく取り、目と鼻を拭く。そのまま駅に着くまで外の景色を見ながらこれからのことを考えていた。どこに住んで、何を食べるか、何をするか、することが何1つもないと思っていると


椿(いや、魔法のことを知ればもしかしたら記憶を戻せるかもしれない。あの猫は大抵のことは出来ると言っていた。もしかしたら…記憶を取り戻すことが出来るかもしれない。そのためには…魔法に詳しい人を見つけなきゃいけないのか。どうやって見つける? 手品と言って魔法を連発して注意を引く? そんなことをしても魔法を悪用しようとしている人かどうか多分判別が出来ない…)


そんなことを考えているといつのまにか駅についていた。運転手にお礼を言って降りる。近くのホテルに泊まることにして、受付に一部屋を借りようとしたらダメだと言われた。ランドセルを背負っている少女1人がそんなことを言ったら怪しがるのは当然だ。受付の人に言うことを聞けと念じながらもう一度言うと今度はすんなり通った。それを見ていた周りの従業員が椿に話しかけるが


椿「ここに泊まります。お金はそちらが払ってください、いいですよね」


従業員A「はい、かしこまりました」


すんなり手続きが出来て、鍵をもらい部屋に案内してもらう。部屋に着くとそこはとても広く綺麗で、今まで生活をしていたあの家がとても貧乏だと改めて分かった。部屋についているお風呂に入り、食事を運んできてもらい、それを食べて食後の休みとしてベッドに身を投げて何も考えずテレビを見る。


椿「…」


家に無かったものばかりの物で最初は困惑したが、慣れるととても退屈を紛らわすものばかりだ。テレビを見て笑っていると、時々家のことを思い出す。


椿「…はぁ」


今日はもう寝よう。今考えても何もかも悪い方向に進みそうだ。そうしてテレビを消して歯磨きをして部屋の電気を消して就寝した。


椿編は一度ここで区切って、次はルキ編になります。

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