悪役令嬢で何が悪い!?
「悪役令嬢……この私が?」
この世界ではない別の世界では“ゴシックロリータ”というくくりで表されるだろう服装を身に纏う銀髪の少女。本人の卑屈さを示しているかのように目の下にクマを携えている彼女は、自慢の髪の毛をくるくると指で巻き取る動作で考え事をしながら椅子に腰を下ろしている。
「それってどういう意味かしら?」
「あ、あの……それよりそろそろご勘弁を――」
「え? 何? 聞こえなーい。椅子って喋るんだったっけ?」
「も、申し訳ありません!」
しかし謝罪の言葉だけでは満足にいかなかったのか、少女はわざと足をぶらんぶらんと振っては“元”名家の御子息の横腹を蹴ってお仕置きを与える。
「ぐっ、かっ!」
「そういうところが悪役令嬢なのよ!」
「ハァ? 意味わかんなーい。だいたい何? あんたさぁ、あっちの世界でもあたしに命令ばっかりしてたけどさ、この世界でもまだ立場保ってるつもりなの?」
悪役令嬢と呼ばれた少女の丁度真反対――まるで物語のヒロインのような凜々しい姿の金髪の少女が、何かに敗北したかのように膝をついている。しかしまだ負けを認めていないような意思を秘めた瞳で銀髪の少女を睨みつけ、そして憤りを交えた声で銀髪の少女をなじっている。
「だから、その人を――」
「いやいやいや、対等な条件から勝手に落ちぶれていったのは貴方でしょう? あたしはただ普通に、そして確実にこの国の王子を下僕にできる様に動いただけ。自分の方がヒロインだ何だと思い込んで、勝手につけあがって自爆したのは貴方よ?」
銀髪の少女は知っていた。この世界はどんな手を使ってでも上に立った方が勝者だと。漫画のような下らない逆転展開をまるで雛鳥のように口を開いて待っている愚か者には、厳しい世界だと。
「……ああー、確かに何でも最初は貴方の方が恵まれていたわね。魔法学校でも才能が学内で頭一つ飛び抜けて優秀ともてはやされていたっけ? だけど才能にかまけた結果最終的に学園祭で本当の実力を示した私に負け。それまで優位に立っていた貴族同士の権力争いも貴方が謎の運任せのヒロイン力に任せっきりにしたみたいだけど、入念に仕組んだあたしの計画の前には全く勝ち目が見いだせなかったわね。そして極めつけが――このイ・ス♪」
「ぐっ、くぅっ……!」
肘置き代わりに使っていた頭をパンパンと手で叩いて示せば、王子の苦痛の声が漏れてくる。
「もう止めてあげて!」
「えぇー? 嫌に決まってるじゃない。だってこの人、貴方と一緒にあたしをいじめてきたあいつにそっくりなんだもの。奴隷と同じ扱いで充分だって思うけど?」
今や名家の跡継ぎすら足蹴にできる程の力をつけてきた少女にとって、最早敵など居なかった。
――それもこれも全て、目の前にいる同じく転生してきた少女への復讐の為。目の前にいる最も憎き存在を、自分と同じ場所にまで堕としめる為。
「――さて、最後の謁見もこれで終わり。もう貴方と話すことは何も無いわ」
「ッ!? 待ちなさい!! まだ話は終わってない――」
「衛兵」
「ハッ!!」
それまで大人しく両脇に佇んでいた甲冑が、突然と動き出して金髪の少女を屋敷の外へと引きずり出す。
「放して! 放しなさいよ!」
「次に会う時は絞首台かしら? それじゃ、バイバーイ♪」
銀髪の少女の高笑いが響き渡るは巨大な広間。遙か遠のいていくその背姿が、まるで自身との差をそのまま表しているようにも見える。
「……くそっ! くそぉおおおおお!! ゴミのくせに、役立たずの癖にぃー!!」
「あらあら、ようやく化けの皮が剥がれた感じ?」
そうだ。もっとだ。汚い言葉を吐きつけろ。下品な言葉を浴びせてこい。下劣な考えをまき散らせ。
その方が、いつも通りの私でいられる。そして――
「――勝者としての私でいられるから」
ここまで読んでいただきありがとうございます。好評を多く頂けるようでしたら、短編を元に連載なども少しばかり考えていたりしています。面白いと思っていただけたなら評価いただければ幸いです。