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8話目「製塩」

 と、いう事で、翌日、夜が明けると、「炉」に行く為、ウィーギィ爺に手を引かれ、家の門前の道を、ウォファム村の集落とは反対方向に進んだ。


 見事なジャングル小道だ。


 後ろからカメを頭に乗せたティガが付いて来る。


 カメを運ぶっていうから、大変だなと思ったら、ヒョイと頭に乗せて来たのだ。


 ああ、そういう文化ね。




 実を言うと、こっちの世界で家の外に出たのは、これが初めてだった。


 クィンツの記憶と、ウィーギィ爺のボソボソラジオで、すっかりウォファム村やその周辺を歩き回っていた気になっていたけれど、元の世界の意識が目覚めてからは、ずぅっと引き篭りだった。


 あ、トイレの時は家の囲いの外に出てたけれど。




 でもって「炉」なんて場所はクィンツの記憶でも行った事はない。


 ただ、道の途中までは「御嶽(オン)」に行くのと同じで、こちらには行った記憶がある。


 その時、手を引いてくれたのはウィーギィ爺ではなかったけれど…。



 ハテ?誰だっけ。



 女の人に手を引かれて、連れて行かれた気がする。


 なんだかホワンとする人だった。



 まぁ、いいか。


 今日の目的地は「御嶽(オン)」ではなく「炉」なのだから。



 朝から日差しが強く、クィンツの記憶通り、私はすぐ辛くなった。


 やっぱりこの体は日差しに弱い。



 空は青いけれど、細かい雲だらけで、昼間には絶対スコールになるなと思った。


 だけれど、ジャングルが深くなると、木陰が出来、かなり楽になる。


 セミがヴィーヴィー鳴いてやかましかった。



 ウィーギィ爺は、長い棒で道の脇の草むらをサク、サクっと突いて進んでいた。


 多分、蛇でも避けてるんだろ。



 だいたい20分もしないぐらい歩くと、突然視界がひらけて、草だらけで木がない場所に出た。


 その奥に、例によって、積んだだけの粗末の石囲いがあり、石囲いの向こうには草葺の屋根が見える。


 ここが「炉」らしい。


 …って、「炉」って何?




「お待ちしておりました。クィンツ様。」


 ウチの親父のハーティほどではないが、やっぱりずんぐりムックリしたムサいオッサンと、ヒョロっとしたオッサン、それに、私よりちょい上ぐらいの男の子が出迎えてくれた。



 ずんぐりムックリはタケチャ。ヒュルエ村の(ブリャ)なんだそうだ。


 ヒョロっとした方はヌースという名で、エーシャギーク島のすぐ目の前、イヤィマ諸島の真ん中にある、トクトウムという小島の(ブリャ)らしい。


 でもって、男の子はニシトウ。ヌースの息子だという。


 こざっぱりして、何だか、お行儀が良さそうな感じの子だ。


 ん?


 瞳が黄土色?


 変わっている!


 あ、お父さんのヌースも黄土色か。


 遺伝だね…。



「私たちは、祭りの支度を仰せつかって居ます。一応留守と案内のため、このニシトウを残しますので、炉の施設の使い方や、手伝いなど、ご自由にお使い下さい。」



 そう言い残して、タケチャとヌースは立ち去った。残ったニシトウがニッコリする。


 歳は6歳なんだそうだ。


 随分しっかりした6歳だな。




 炉っていうのは、要するに「鍛治場」の事だった。


 てか、鍛治場だよ。文明があるじゃん!原始の世界でも鍛治場なんてあったんだ。


 鍛冶場があるって事は、薪があるって事だ。


 それも豊富にあるって事だ。


 というか、実際、鍛冶場には複数の家屋があったのだが、そのほとんどが薪の蔵だった。


 鍛冶場の周囲の木々を切り倒して、薪として保存しているらしい。


 てか、だから炉の周辺は草むらだったのか。



 それにしても、原始社会では、塩より鉄器の方が優先するんだ。


 確かに塩はただの消耗品だが、鉄器は森を切り開いたり、畑を耕し、生産力を引き上げる。


 どっちの方が大事か?って究極の選択を求められれば、そりゃ鉄器だろう。


 鉄器の為なら、のんびり屋の島人もムキになって頑張るらしい。



 だけれど、その鉄器の元になる鉄って、どこから持って来ているんだろう?


 この島には鉄の採掘所まであるのだろうか?




「鉄は、イェームトやムィンの商人から買っているんですよ」



 と、ニシトウくんが教えてくれた。


 何となく「くん」付けしたくなる雰囲気だから、「くん」付けしてしまう。


 そうか。鉄は「輸入」してるんだ。


 うん?


「輸入」してるって、逆に何を「輸出」して交換しているんだ?




「水とか食料です。」


「水とか食料?」


「イェームトやウーチュ、ムィンの船は、この島が目的地じゃなくて、ただ補給のために立ち寄るんです。その時、水とか食料を提供して、代わりに幾らかの商品を受け取るんです。主に鉄塊ですけれどね。」


「あ、そうなんだ。」



 賢い。なんて賢い6歳だ。


 ニシトウくんは秀才ではなく、きっと天才の部類なんだろう。


 思わず拝みたくなってしまうオーラを持っているよ。


 はう!?


 そんな気持ちになってしまうのも、不思議な黄土色の瞳のせいかもしれない。


 どこか神々(こうごう)しいんだよね。



 そんなニシトウくんと、楽しく色々お話している間、ティガは「炉」の脇の小道から海岸に行って、海水を汲んで来ていた。


 ウィーギィ爺は火を起こしている。


 ニシトウくんも動き出した。



 あれ?言い出しっぺの私は何したら良いんだろう?


 誰も、アレをしろ、コレをしろとか言わないもんだから、自分の役割がわからない。


 力作業はティガが、レシピはウィーギィ爺が、道具の取り扱いはニシトウくんが担当して、見事なチームワークで作業が進んでいる。


 まぁ、私は4歳のか弱い幼女なんだから、足手まといにならないように大人しくちょこんと座っていよう。




 ハーティが用意してくれたのは、中華鍋のような鉄鍋だった。


 こっちの世界に来てから、土器しか見た事なかったから、鉄鍋にはちょっと感動した。


 これも輸入モノらしい。


 ハーティは意外と色んなものを持っているね。


 と、いうか、この島の外の地域は、この島より遥かに発展しているじゃないか。


 この島の状態を基準に、この世界の文明度を考えない方が良いみたいだ。




 布で濾過された海水が入った中華風鉄鍋は、火に掛けられてグツグツと煮立つ。


 途中、白い浮遊物が溜まった所で、再度濾過され、また煮込まれる。


 やがて海水は蒸発し白い粒の結晶が現われた。


 それを集めて、布に包み、ぎゅうぎゅうに絞った後、結晶は炒られ、水分が飛ばされ、白い粉となった。


 指先につけて舐めみると、しっかりしょっぱい。


 塩の完成だ。


 出来た量は、小さいツボの半分ぐらいだった。



 これだけ作るのに使った薪は…。


 あれ?


 少しの薪で少しの塩を作るハズが、普通にかなりの量の薪を使ってしまったね。


 う〜ん


 ごめんね父さん。テヘペロ。




 塩を作る過程で「ニガリ」も出来た。


 最後に絞った時に布から滲み出て来た液体が「ニガリ」だ。


 こちらも別の小ツボに採ってある。


 たしか、これで「豆腐」も作れる。ハズ。


 大豆があれば、だけれど。


 …てか、大豆ってこの島にあるのかな?


 ついでに言うなら、豆腐を作るレシピも知らない。


 でも、ウィーギィ爺は知っているんじゃない?


 私のネットだから。




 窯の囲いを出ると、空はすっかり暗くなっていた。


 そういえば、昼間やっぱりスコールもあった。


 まぁ、塩づくりで熱くなってた棟の中には、ちょうど良い涼になって、私は気持ち良くお昼寝出来たのだけれど。


 あれ?


 結局私は塩づくりに関しては、何もしなかったな。


 まぁいいか。


 塩はしっかり出来たのだから。


 私は出来たての塩の入った小ツボを抱えて、満足気に家路に着いた。

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